<金口木舌>海の銀行


<金口木舌>海の銀行
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 海から預金を引き出してくる―。国頭村の漁師である山城善勝さんのドキュメンタリー映画「勝ちゃん―沖縄の戦後」に、そんなせりふがある。大切に海と付き合えば、恵みが湧く。勝ちゃんにとって海は銀行なのだろう

▼職場の海に網を仕掛けてグルクンの群れを追う。単独で行う「一人追い込み漁」の数少ない担い手の一人。網の作り方は「魚が教えてくれた」。海原と上手に向き合う漁師の真骨頂を見た

▼その海にひどい仕打ちだ。名護市辺野古の海で進む新基地建設。埋め立て石材が足らないので、きょうだい島の奄美大島から調達するという。国は調査を始めた

▼ガマフヤーの具志堅隆松さんが先月、都内での会見で、この事態を例えて語った。「奄美は世界自然遺産の島。辺野古は生物多様性の豊かな海。一つの大事な自然を壊して、もう一つの大事な自然を壊す。これは愚かなこと」

▼勝ちゃんの預金先であり、観光を主産業とする沖縄にとっても恵み湧く海。「海の銀行」をつぶすとは愚行にほかならない。沖縄戦で田畑を焼かれ、多くの恵みを海から得た戦後。たかが1カ所と見過ごすわけにはいかない。