<金口木舌>震災遺児の心に虹を


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 その部屋にはサンドバッグがつるされている。周りは赤い壁。悲しみや怒りで心が爆発しそうな時、思い切り叫び、暴れて感情を吐き出せる。名前は「火山の部屋」。神戸市の震災遺児ケア拠点「レインボーハウス」にある

▼18年前のきょう、阪神大震災が起きた。親を失った子どもたちは573人。この数を調べたのは行政ではなく、民間団体のあしなが育英会だ。若者らが被災者を一軒一軒訪ね回って突き止めた
▼遺児たちは恐怖と悲しみで心のバランスを崩していた。継続してケアする場として会はレインボーハウスをつくった。同じ体験を持つ仲間同士で支え合うことが安らぎにつながる。支えられた子どもたちは成人となり、今は支える側に回る
▼阪神大震災は日本の災害史の転換点とされる。被災者の心の傷に初めて注目が集まり「心のケア元年」といわれた。「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という言葉が知られるようになったのも阪神以後だ
▼東日本大震災の遺児は2千人超。阪神の3・5倍に上る。神戸で培われた知恵や経験、蓄積は、東北に引き継がれ日頃のケアに生かされている
▼心の傷を癒やすには息の長い支援が欠かせない。今月、宮城県石巻市に東北第1号のケア施設が着工する。遺児たちが明日を見詰め、心の中に希望という虹を架けるまで、私たちも関心を持ち続けていきたい。