本当に紙1枚 ?? 切り込み、継ぎ足しナシのスゴ技の折り紙作家の作品はコチラ!


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作品の前に立つ渡邊慧さん。手に持つのは和紙で作ったウズラの骨格 写真・村山 望

1枚の和紙から広がる世界

やんばるの昆虫から架空の生き物まで、さまざまなモチーフを1枚の和紙で作る渡邊慧さん(25)。幼い頃から折り紙を始め、独学で技法を習得。数多くのオリジナル作品を生み出してきた。生き物たちの特徴を見事に捉えた作品は生物の専門家も納得させるほどだ。現在は陶芸の道に入った渡邊さん。修行の傍ら折り紙の創作を続けている。

和紙で作った昆虫たち。(右下から時計回りに)カブトムシ、ノコギリクワガタ、オキナワマルバネクワガタ、タガメ、タイコウチ、セミ、キリギリス

イセエビ、マダイ、クワガタ、ワシ、ウズラの骨格、ドラゴン……。渡邊さんが和紙で作った精巧な作品の数々。昆虫の触角から魚のウロコまで、正方形の和紙1枚をさまざまな技法を用いて折り、再現している。

「幼い頃折り紙に出合い、折り始めた」という渡邊さん。通常の折り紙作品ではもの足りず、 「今みたいに明確に目指した通りに作れるほどではないけど、当初から恐竜などのオリジナルの作品を作っていた」というから驚きだ。

中学1年生からは、独学で技法を習得し、完全オリジナル作品を制作するように。その頃から「ある程度、作ろうと思った形を折れるようになってきた」と振り返る。

高校から大学にかけては折り紙を中断していたという渡邊さんが、再び折り始めたのは大学卒業間近のこと。大阪から琉球大学の農学部に入学し、生物サークルに所属していた渡邊さん。「もともとインドア派だったが、フィールド(野外)に行くように。沖縄のやんばるをはじめ、国内外でさまざまな生き物を見ていくうちに、今だったらもっといい作品が作れるんじゃないかと思った」のがきっかけだ。

折りだけで操る

大学を卒業後、陶芸の修行を始めて3年が経つ。作品を作るのは休日の空いた時間だ。折り紙は「あくまでも趣味」というが、生き物の姿を見事に再現した渡邊さんの作品は評判を呼ぶように。県内の博物館などの施設から声がかかり、展示会も数多く行われてきた。

作品は、すべて正方形の和紙一枚で作られる。切り込みや継ぎ足しも一切なし。「写真や図鑑などを見て、デザインを考え、試作を重ね、和紙を染め、本折りに入る」。早いものだと一日、複雑なものは何週間もかかるという。複雑なものは折り込んでいく分縮むため、和紙のサイズも大きくなる。ドラゴンを作ったときは、2・3㍍四方の紙を使用したという。

「(折り紙は)やっぱり楽しい。他の造形と違い、いろいろ考えられるところが魅力。構想を形にするまでの道のりが直接的ではないので、どうやったら折りたい形にできるのかなと考えるのがわくわくする」と話す。

イセエビ
ドラゴン
ヤンバルテナガコガネ。下に置いてあるのは折り線を表した「展開図」

「生き物が好き」が原点

生き物や自然が好きという渡邊さんが作る生き物は、その姿を忠実に表現しているのが特徴。昆虫の脚や魚のうろこ、カメの甲羅などの細かい部分にもこだわる。その出来は生物の専門家たちも認めるほどだ。「生物に詳しい人や学芸員の方などに、形がよく捉えていると言われると『やった』と思います」とほほ笑む。

「折り紙できちんと生き物に寄せてくる造形というのは結構少ない。大学の4年間は生物サークルで生き物を見てきたので、せっかくだからその経験を生かせればと思う」と話す。

さらに精巧さにも磨きをかけたいようで、「例えば、(魚の)ハスとオイカワは似ているようで、雰囲気とか顔つきが違う。そういう細かいところも形にできればと思う」と、まだまだ追求心は尽きない。

生き物を表現した作品が多いが、「もっと作品を増やしていきたいし、将来的には幅広い分野にも挑戦したい。民俗的なもの、文化的なものも作っていきたい」と抱負を語った。

(坂本永通子)

作品を折る渡邊さん

渡邊慧さんのホームページ

https://watanabekei.wixsite.com/hakubutsuga

(2019年10月3日付 週刊レキオ掲載)