〝釣具屋の少年〟が描く海の世界— 本村ひろみの時代のアイコン(13)白砂真也さん(沖縄県立芸術大学大学院 芸術文化学部研究科)


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風景として海を描くのと、光の届かない海の中の世界を描くのでは、同じ「海」をテーマにしている絵画でも対照的なイメージを持つ。例えば光と影のような感じで。
深海の闇の中の世界はファンタジー。
その驚異の世界に魅了され生き物を描き続けているアーティストがいる。沖縄県立芸大大学院生の白砂真也さんだ。

「シャローの砦」(病院に絵を飾るボランティアで作成)

「実家は釣具屋だったんです」
白砂さんは子供の頃を懐かしむように思い出を語ってくれた。
三重県四日市の出身の彼は、祖父母と両親、弟という三世代家族で育った。釣具店は戦後、祖父が始めた。実家にいた頃はたいして釣りに興味もなく、どちらかといえば学校から帰宅するとゲームをして過ごす子だった。ただ、祖父が魚の餌用に採ってくる泥のなかにいるゴカイや小さなカニ(スナガニやイワガニ)には興味があったと言う。あの独特な形状や動きに惹かれ、祖父が泥を採って帰ってくると一目散に店に行っては手伝いをしていた。

「夜の自画像」

釣りを実際に楽しみ始めたのは沖縄に来てから。今では制作に煮詰まると港に行き、一人釣り糸を垂らし海の中を想像する。

「夜釣りに行くと、オレンジの常夜灯に透けて見える海の世界が神秘的。黒曜石を思わせるんです」と語り目を輝かせる。
そのイメージから描かれた作品が「夜の自画像(2017)」だ。セピア色の画面に一筋の灯りが海中に伸び、そこにうごめく魚の群れが浮き上がる。幻想的な絵だ。

図鑑に描かれている魚を見た時の高揚感、夢中になったゲーム「ファイナルファンタジー」の事を熱く語ってくれた白砂さん。取材中、明るく楽しげに話を進めていくうちに、現在の研究テーマでもあるドイツロマン主義の話になると表情が一変した。
伝統的な美の概念の一つ「崇高」。ここから白砂さんの怒涛のトークとなった。彼を突き動かしている美的表現は「崇高さ」にあるようだ。敬愛する田中一村の絵における“画家の存在を感じさせない、世界の有り様”や日本画家・岩橋英遠、ドイツロマン主義の話から影響を受けた日本画家の話まで。私も好奇心が刺激され、改めて彼の作品を眺めた。

「光、深海魚」(2019年OIST優良賞)

海の中の生き物を通して描かれている自然への深い敬意。
自己の表現をしながらその絵から自己を消失させるという技。
その境界の「ゆらぎ」が彼の作品を味わい深いものしている。

「海の訪れ」(2018年Airtist Group-風-大作公募展入賞)

材料も高価な日本画の大きな作品を描くには、様々な知恵も必要で、絵の具が足りない時は新しい素材を探して奮闘する。
今までで一番大きな作品「家路」(2017)を制作している時は、運動場の砂をアトリエに運んで、ふるいにかけてフライパンで煎って画面に撒きそのうえにアクリル樹脂をスプレーで振りかけて固めたりしたそうだ。その作品は大作公募展で入選を果たした。

「家路」
「翼・イソヒヨドリ」

そんなチャレンジもすべて「ケガの功名」みたいなものですと前向きに話してくれる姿が逞しい。

2019春の創画展に出品する予定だった作品「翼・イソヒヨドリ」。
いろいろな事が重なり慌ただしい時間のなかで完成させることが出来なかった作品。今となれば思い出深い作品となった。
「今年の春、祖父が亡くなりお葬式に出席するため帰省した際に、制作中の絵を実家に持ち帰ってリビングで描いていたら、 この絵を見て祖母が喜んでくれたんです。」と話してくれた白砂さん。
彼の描く海の絵は、釣具屋を営んでいたおじいさんが、きっと一番喜んでくれているはず。

海から飛翔したイソヒヨドリの次の目的地を期待したい。

【展示会予定】
2020年 2月15日〜19日
博士課程研究発表会
場所 沖縄県立芸術大学 芸術資料館2階 (マップはこちら

【白砂真也 プロフィール】

白砂真也 (しらすな・しんや)

1995 三重県四日市市に生まれる
2013 沖縄県立芸術大学 絵画専攻 入学
2017 沖縄県立芸術大学 絵画専攻 卒業
2017 沖縄県立芸術大学 大学院 環境造形専攻 入学
2019 沖縄県立芸術大学 大学院 環境造形専攻 修了
2019 沖縄県立芸術大学 大学院 芸術文化学部研究科 入学

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。