沖縄の〝最北の商店街〟には ネーミングセンス抜群のフードやビーチがあった


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青く澄んだ海、深く優しい森。豊かな自然に囲まれた国頭村。村の中心地に位置する辺土名大通りは「本島最北の商店街」だ。喫茶店に一銭まちやー、学校に役場、郵便局。昔ながらの通りを歩くと、ゆったりした時間に包まれ、いつのまにか笑顔になる。ほっこり、まったり癒やしの通りを記者がほろほろしてきた。

みそじゃなナン

 

「辺土名においしいナントゥがある」との情報を聞いて向かったのは、ふじや食品 1 。小さな平屋の店舗で、玉村和美さん(58)がせっせと弁当の準備をしている。店は和美さんの母が始めた総菜屋。ナントゥを出すようになったのは8年前だ。「叔母が名護市の汀間まで何度も通って習った味を受け継いだんです」。今は長男の真太さん(38)が製造を引き継ぐ。

ふじや食品のくんじゃんナントゥ。ぷるぷるもちもちでショウガが利いた優しい味

代表で夫の隆利さん(64)が「まずは食べて」と記者たちに手渡した。黒糖の優しい甘さにショウガのアクセントがほんのり利いている。「おいしい! でもほかのナントゥと違う。みそ味じゃない」とたぶちゃん記者が驚くと、「元はこの味」と隆利さん。「もっと持って帰って」と箱からどんどん出した。

最初は法事の重箱に入れて出していたが、5年前からナントゥだけで商品化。口コミで広がり観光客にも好評だ。今や県内の一部のコンビニや空港の売店、県外の物産展にも出しているとか。もっと知ってもらおうと「ヤンバルクイナ餅」に名称変更の案まである。小さな通りから全国に広がる日も近い。

くんじゃんナントゥをPRするふじや食品の(左から)玉村和美さん、隆利さん

キョロキョロしながら歩いていると、おしゃれな店を発見。その名も「HENTONA LOUNGE」 2 。代表の久保勇人さん(48)が「地域の人と外から来た人がノウハウをシェアして新しいものができれば」との思いで開いたカフェ兼コワーキングスペースだ。事業事務所として利用することもできる。仲本いつ美さん(32)もツアー会社の営業所私書箱を置いている一人。「観光客と地域をつなぐ」をコンセプトに不定期で体験イベントも開く。「ぜひ体験したい」とのさの記者の願いを受けてくれた。

仲本いつ美さん(右)から教わりながらヤンバルクイナを作るさの記者
完成したヤンバルクイナ

手取り足取りで教わったのは、木の実や枝を使った玩具作り。細かい作業に悪戦苦闘すること30分。完成したのはミミズを掘り出すヤンバルクイナ。なんともかわいらしい。「HENTONA LOUNGE」は今回のようにワークショップの場として借りることもできる。玩具作りを希望する場合は講師の調整も含めて久保さんまで問い合わせを。
(電話)090(3413)1196。

海と食にやされ

「本島最北の商店街」といわれる辺土名大通り
辺土名出身の歌手、ヤンバラー宮城さんのCD

「国際通りのようには あんなに観光客はいないけど~ 辺土名商店街にはどこにも負けない愛がある♪」

ほろほろ中、妙に耳に残る歌に出合った。ずばり「辺土名商店街」というタイトルの歌は辺土名出身の歌手、ヤンバラー宮城さんによる地元愛があふれた名曲。アルバム「やんばるのつめあわせ」に収録されている。

記者の一番のお気に入りは「やんばる渋滞」だ。皆さんも北部をドライブ中に、ゆっくり走行の車が引き起こす謎の渋滞、その名も“やんばる渋滞”を経験したことがあるだろう。

「よく見りゃ先頭にオジィの軽トラ ヨンナーヨンナー走ってる~もう少しだけの辛抱 そろそろ畑で曲がるから~カリカリしても一車線♪」。やんばる路でゆっくり走る軽トラにイライラしたら負けですよ。

一息入れたくなった記者たちが路地をうろちょろしていると、目の前に海が広がった。通称「中学裏のビーチ」 3 だ。太陽の光でエメラルドグリーンの海がキラキラと輝いていた。

商店街から歩いて5分。白い砂浜に腰を下ろし、水平線のかなたにふんわり浮かぶ雲を眺める。聞こえるのは波の音だけ。最高の一息だった。

まるでプライベートビーチ感覚が味わえる「中学裏の浜」

日が傾き掛けた頃「辺土名精肉鮮魚店」 4 から香ばしい匂いがした。刺身が並ぶショーケースの前で天ぷらを揚げるのは、與儀亜矢さん(46)。15センチはありそうな魚天ぷらにかぶりつくと、ふんわりした衣と身に魚の脂がジュワ~。「塩加減も絶妙!」。かおりんカメラマンは撮影の手を止め夢中になった。

辺土名精肉鮮魚店ではこの日辺土名漁港で水揚げされたサワラが天ぷらに

こだわりを質問攻めする記者に、與儀さんは笑いながら「(こだわりは)ない」。

2年前に辺土名大通りのイベントで始めたのがきっかけだ。一人で店を切り盛りするため、天ぷらに取りかかることができるのは夕方ごろという。おかげで仕事帰りの主婦に大人気。1日平均150個が1時間ほどで売り切れる。

辺土名精肉鮮魚店の與儀亜矢さん。おいしい天ぷらのこだわりを聞くと照れくさそうに「ない!」と断言

時刻は午後6時、腹時計が夕ご飯の時間を告げる。いい香りに誘われて足を止めたのは「びすとろ海畑(うみばる)」 5 。地元客でにぎわう人気店と聞き、ガチマヤーの記者たちは迷わず店内へ。辺土名出身の店主・平良宗明さん(47)に人気の秘密を聞くと「地元価格だから」。

びすとろ海畑の店主・平良宗明さん

言葉通り、提供する料理のほとんどが500円台。「豚舌(タン)の煮込み」(550円)は売り切れることが多い人気メニュー。

一日かけて塩漬けし、水分を抜いたタンを4時間煮込む。マッシュポテトの上に敷き詰められた豚舌の上には自家製ラヴィゴットソース。ほろほろと溶けるタンにピクルスのシャクシャク食感が楽しい。ソースの酸味がさわやかに締める。一口食べるともう止まらない。
「タンタンタ~ン」。とろける舌に舌鼓が鳴り響く。あっという間になくなってしまった。

4時間煮込んだ豚タン。口の中で溶けてしまう

来月17日 大通り祭り

辺土名大通り会の副会長、平良里子さん

記事を読んでいるうちに「私もほろほろしたい」と感じた皆さん。せっかくなら大通りが最高に盛り上がる日に訪れてはいかが?

11月17日に開かれる「辺土名大通り祭り」は通りの魅力がぎゅ~っと詰めこまれた祭り。三輪車で競うツールド・ヘントナや力自慢が集う軽トラプッシュ選手権などイベントも盛りだくさん。フィナーレの花火も見どころ。手作りイルミネーションに彩られた大通りにはさまざまなグルメもお目見えする。大通り会 6 の副会長、平良里子さん(63)は「最北の商店街が一年で最も熱くなる日。ぜひ遊びに来てください」と笑顔で話した。
問い合わせは(電話)辺土名大通り会・宮城力会長(電話)090(2514)7443。


(2019年10月6日 琉球新報掲載)