白杖を持った人がいる 声をかけたい、どうすればいい?


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白杖や車いす、体験してみた。
→街の障壁、なくしたいと誓った。

人が行き交う昼間の横断歩道。白い杖(つえ)を持った視覚障がい者の女性が、前から歩いてきた男性とぶつかった。男性は無言で立ち去り、女性は不安そうな表情でその場に立ち尽くしてしまった。障がい者の立場からは、私たちが普段当たり前のように利用する歩道や施設はどう映っているのだろう。取材班が体験してみた。

取材班は那覇市松尾にある県視覚障害者福祉協会に向かった。同協会の協力のもと、同行援護業務サービス提供責任者の石原義樹さん(40)の説明を受け、白杖(はくじょう)を持って国際通りを歩いてみることにした。

視界が真っ暗になると、歩道の小さな変化に不安が絶えない。周囲の音やにおいを頼りに恐る恐る足を進める=那覇市

「これを着けてください」。石原さんから受け取ったのはアイマスク。着けてみると視界は真っ暗に。片手に折りたたみ式の白杖、反対の手で同行援護者のひじをつかみ歩を進めるも、なかなか怖くて前に進まない。人が横切る風や車の音、小さな段差のすべてに敏感になり、緊張がとけなかった。アイマスクを取り、来た道を振り返ると、普段なら何も気にならない真っすぐな道。100メートルほど進むにも、距離は倍以上に感じた。

歩道が狭いとさらに足が進まない。「何だこれ」。歩道を遮るように伸びた葉っぱが行く手を阻む。歩道に乗り上げた車には、杖(つえ)の先が当たるまで気づかなかった。援護者がいない際は点字ブロックを頼りに歩道を進む。しかし、場所によっては点字の凹凸がわからないものも。杖で触っても感覚はなく、進んでいる方向がわからなくなる恐怖を痛感した。

取材班は那覇市泉崎にある赤田義肢製作所を訪れた。義肢装具士の赤田きよ乃さんに説明してもらいながら、身体の片側がまひする「片まひ」体験で、横断歩道を渡ってみることにした。

片まひ体験装具を着けると足首が固定され、思ったように歩くことができない

片まひ体験用の装具を装着すると、片足のかかとが固定され自由が利かない。うまくバランスが取れず、椅子から立ち上がることさえ困難だ。「あれ、全然立てない」。たまらず、赤田さんに体を支えてもらい、なんとか立ち上がることができた。赤田さんは「片まひの方は、低い椅子に座るときと立ち上がるときが大変なので、病院や公共施設などでも座らずに立っていることが多い」と言う。

装具を着けている足とは逆の手に杖を持ち、一歩一歩歩くと、やっとの思いで横断歩道の前に到着した。交差点の車が停車。横断歩道の信号が青に切り替わることを確認し歩き出すと、歩くスピードは全くコントロールできない。他の歩行者がさっそうと通り過ぎて行くも、青信号の間に渡り切ることはできなかった。

さらに、足元を気にするあまり目線は無意識に下を向いてしまった。歩くことに必死で、前から来る人や車を確認するのを忘れることもあった。

腕の疲労で車いすをこぐのがしんどくなった。以前、膝を手術した際に病院の中を車いすで移動したことがある。こつは知っているつもりだったが、凸凹や傾斜がいたる所にある一般道は全く勝手が違った。歩道から車道につながるわずかな傾斜に平衡感覚を失った。車いすごと流されそうになり、恐怖を感じた。

モノレールに乗ろうと試みるも、空いているスペースに自分で行けるか迷っている間にドアが閉まってしまう=那覇市

バリアフリーの仕様になっている場所はありがたい。幅広の歩道は、歩行者とぶつかる心配がなく、自分のペースで車いすをこぐことができる。スロープを見つけると、幾分心理的なバリアーが取り除かれた気になった。

コンビニエンスストアに立ち寄ろうと正面の入り口横のスロープに向かった。傾斜は20度ほど。力いっぱいこぎ出したが、どうしても速度が落ち、途中で後方に戻ってしまう。「ひっくり返る!」と焦り、足を使って踏みとどまる。介助なしで自分の力で登ることができるスロープは限られていることに気付いた。

モノレールの駅はエレベーターでスムーズに上がれたが、乗車券販売機は膝がぶつかり、手が届かない。車いすを横付けしてようやくボタンを押すことができた。車両が来るのを待つ際、列に並ぶ人の邪魔にならないかが気になり、なぜか申し訳ない気持ちになる。

車両が駅に到着し、扉が開いた。いざ乗り込もうとしたが、既に乗車している他の乗客の間に入れるスペースがあるのか、躊躇(ちゅうちょ)している間に扉が閉まってしまった。車いすを押してくれる人がいない場合、健常者が行き交う中での街の移動は物理的にも心理的にも障壁が多いと感じた。

視覚障がい者への積極的な声かけを呼び掛ける桐原好枝さん(左)と盲導犬のルート

視覚障がい者の桐原好枝さん

「困っている様子の人がいたら、気軽に声をかけてほしい」。そう教えてくれたのは視覚障がい者の桐原好枝さん(70)=北谷町。盲導犬ユーザーでもある桐原さんは、かつて一人で出歩くことの恐怖から引きこもってしまった時期もあった。

「白杖者一人では限界があるのも事実。遠くまで出掛けることが難しい時もあった」と振り返る。「初めて訪れる場所で迷ってしまう人もいる。自分から助けを求めることが苦手な人もいる。困った様子の人を見掛けたら、ひと言声を掛けてもらえるとありがたい」と話した。


 

  さぁーきー記者

相手を想像する大切さ

軽くまたいでいた段差も車いすではなかなか越えられない。杖を持つと歩道に乗り上げた車や草木にも足がすくんだ。普段気にしない環境が大きな障害になっていた。周りからの視線を想像し、気持ちも萎縮した。相手の立場を想像する大切さを痛感した。

  まつどー記者

社会からの疎外感抱いた

障がいに対する認識が浅かった。恐怖心や焦燥感、感じる必要のない申し訳なさなど、今回の体験でさまざまな感情に襲われ、社会から疎外された気分になった。誰も取り残されない社会の実現には、健常者の側が積極的に障害と障壁をなくす努力が必要だと感じた。

(2019年11月3日 琉球新報掲載)