消失を記憶する-本村ひろみ時代のアイコン(16) 玉城綾乃さん(アーティスト)

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首里の祖母の家をアトリエにして制作をしている玉城綾乃さん。昔ながらの祖母の家は時の流れがゆるやかで、耳に届くのはラジオのお喋り、時計の音。制作のあい間に仏壇を眺めてみる。畳にゴロンと転がってみる。そんな「日常」をイメージさせる空間から、彼女の作品は生まれている。それは、版画、シルクスクリーン、立体、様々な形だ。

記憶の断片


「居場所」

「遙か彼方の記憶」

綾乃さんは、シルクスクリーンの作品「遙か彼方の記憶」で、将来有望な若手の版画家に贈られる「ヤングプリントメーカー賞」(2017年度)を受賞した。その作品は、農連市場が移転すると聞いて「存在」していたものが無くなり、在ったその場所がまっさらになった印象をシルクスクリーンの作品に仕上げたもの。煤けた茶色の建物にむかう乳白色の道が描かれたこの作品は、見る者をどことなく郷愁を誘う。いつか見たような懐かしさと寂寥を呼び起こす作品だ。

「農連を記憶に留める」という同じテーマで、卒業制作は立体作品にもした。作品「居場所」は、立体作品の中にLEDのロウソクライトを入れ、光を使って、農連が消えていく感じを表現したもの。立体作品にした理由は、部屋全体にそれを配置して、見る側も農連市場の記憶の中に入れるようにしたかったそうだ。灯籠のように橙色に浮かび上がる作品を配置した空間は、まさに記憶の断片となる。

 

進行形のアイデア帳

綾乃さんは子供の頃から絵を描くことが好きでよくマンガやイラストを描いていたそうだ。高校は浦添工業高校のデザイン科に進学。その頃、図書館で見た「ノーマン・ロックウェル」の画集に出逢ったことで“この人みたいな絵を描きたい”と県立芸術大学への進学を決意する。芸大受験のために通った予備校では「表現や構成」に真剣に向き合った。模倣ではない自分なりの表現とは何かを徹底的に考えた。

大学入学後は「自分は何をしたかったのか?」と考えるヒントになるよう、表現のための「好きなものファイル」を作り始めた。雑誌の切り抜きや、ポスターやチラシなど何でも気になったものをファイリング。今でも制作の際に見返しては増やしたり減らしたりして進行形のアイデア帳になっている。そこから浮かび上がってきた自身が「描きたいもの」は「人の記憶」だと分かった。日々の生活、そこから失われていくものなど、人を描かずに心象風景で表現していく事が制作の大切な部分となっている。



好きなものファイル




朝6時に起き、仕事に行くまでの2〜3時間アトリエで制作をし、帰宅して就寝までの時間を制作に費やす。時には運動のためにジムへ行く。体力維持、技術、制作意欲を保つこと。そんな規則的な生活も、アーティストとして自分の足で立って未来を切り開いていくために他ならない。日々のことを話す彼女の眼差しに夢にむかう意志を感じた。

10月31日の早朝。誰もが信じられない気持ちで首里城を眺めた。首里に住んでいる綾乃さんは、元日には両親と首里城へ行くのが習わしだったそうだ。この「喪失の衝撃」は私達みんなに「不在」という大きな悲しみをもたらした。そして失われたものを再現するため、それぞれが動き始めている。
 



【玉城綾乃プロフィール】


玉城綾乃(たまき・あやの)

1989年 沖縄生まれ
2017年 沖縄県立芸術大学 大学院 環境造形専攻 絵画専修 修了
            沖縄県県立芸術大学 大学院 環境造形専攻 絵画専修 入学

サイト   http://tamaki.work

2020年 東京で開催されるヤングプリントメーカー主催のグループ展に出展予定。




【筆者プロフィール】


本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。



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