“わざわざ”という行為の温かみー本村ひろみの時代のアイコン(17)中島聖二郎さん(アーティスト)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

「効率的にやる」という発想が重要視されるこの時代に、中島聖二郎さんの作品は真逆な考え方を提案する。それは「わざわざ」という行動様式だ。「わざわざそんなことをする?」ではなく「わざわざこんな事をしてくれて有難う」という気持ちだ。なんでもスピード化のこの時代に「わざわざ」の発想は、ある意味諧謔的でユーモアに溢れている。

祖母の姿

今回の“bother to do “ 中島聖二郎個展(12/3終了)で発表された作品は7つ。製作期間は約8ヶ月。テーマは「わざわざ」。
例えば「アルミ缶のプルタブを開ける」という何気ない動作。誰もが自然にやっているこの動作に中島さんは祖母のことを思い出した。プルタブを開けにくそうに、缶のフタを叩いている祖母の姿。簡単そうな動作も年寄りには不便なのだ。ここで彼は「開けずらさ」という動作について考え、制作を始めた。

まず缶を固定しプルトップを開ける。何かにプルトップを引っ張ってもらおう。
その為には距離が必要だ。距離は紐で調整しよう。

そんな思考の工程の中で、点在していたアイデアがパズルのように組み合わさり一つの作品が完成する。出来上がった作品「How about a drink」で、個展の来場者にドリンクを振る舞った。

「How about a drink」を操作する中島さん。

プルトップを開けるという単純な動作を作品に組み込むと、みんなの「ワーッ」「オーッ」と喜ぶ声があがる。「その瞬間、鑑賞者とボクの思いはひとつになるんです」と嬉しそうに語ってくれた。

作品を作る際、中島さんは設計図は作らない。ドローイング(製画、線画)したらすぐに作り始める。手探りも制作の過程のひとつと位置づける。

クスッと笑いを誘うギミックな作品

作品を楽しんで欲しいという中島さんの意図が、会場に訪れる人達にもしっかりと伝わっている。
小さなカレンダーを虫眼鏡でみる「What day is it today」。

コンコンとノックすればすむところ、あえて紐を引くことで滑車がまわり木槌がドアを叩く「Knock the door」。

天井から吊った長い鉛筆で文字を書くと、なかなか思い通りにいかないという行為を味わう「Write slowly」。

来場した大人も子供もついつい触って体験してしまう作品に笑顔が溢れていた。

大学院では彫刻を専修した中島さん。学生時代、楽しい気持ちを込めて作った「静止している彫刻」を見た鑑賞者から自分が作品に込めた思いと違う感想を言われ、そのギャップに戸惑った。そして、見る人の受け取り方が一緒ならいいなぁという思いから「動く形態」の彫刻を作り始めた。作品を展示して「観るだけ」「触るだけ」でなく、「体験する」ことで生まれてくる感覚を共有したい。作品を通して鑑賞者との間に共感が起こるかもしれない。その相互作用を期待し、動く彫刻の制作を始めた。

中島さんの実家は床屋。祖父母が創業し、今は両親が切り盛りしている。子供の頃から祖父や父が使う道具を見て育った。仕事終わりにハサミやカミソリを丁寧に研ぐ祖父や父の姿。店の道具は彼にとって、時計のように時を刻む証のようなもので、その歴史はモノの役割が終えても消える事はない。

中島さんはコレクションとして集めた古いものを作品の中で蘇らせている。廃材、真鍮や鉄製のパーツ。アンティークなもの、懐かしいもの、ブリキのオモチャや古道具。人が使い込み人の手や生活に馴染んだモノや道具に興味を惹かれ集めたものたちだ。一度人の手に触れたものがあらためて息を吹き返す瞬間がある、それが古い道具を素材に選ぶ理由なのかもしれない。

今回展示会場になった那覇市壺屋の「旧・若松薬品」という昔ながらの建物を使ったギャラリーは、まさにその作品に呼応する場の雰囲気があった。

そんな彼の巧妙な仕掛けのせいか、作品に触れるとノスタルジーも運んでくる。
その感覚をぜひ一度体験して欲しい。

【中島聖二郎プロフィール】

中島聖二郎(なかしま・せいじろう)

1994 愛知県生まれ
2016 名古屋造形大学 造形学部 造形学科 彫刻コース卒業
2018 沖縄県立芸術大学 大学院造形芸術研究科環境造形専攻 修了
2019 壁11㎡の彫刻展4(東京)
     平和への共鳴〜その先へ〜マブニピースプロジェクト沖縄2019
     大浦湾ピースアートプロジェクト2019
2019 「ポコラート全国公募vol.9」にて作品『Bell.Ⅱ』入選

*****************************

2020 年1月 アーツ千代田3331にて展示・実物審査
2020年11月には個展を開催予定。
詳しくはサイトで
https://www.facebook.com/profile.php?id=100011838336675

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。