ポッケにminiヤギを忍ばせてー本村ひろみの時代のアイコン(19)平敷傑さん(彫刻家)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

那覇市内とは思えない牧歌的な風景が広がる場所がある。沖縄県立芸術大学の首里崎山キャンパスにある彫刻科の実習室だ。木立を背景に静かな佇まいをみせている。県の農業試験場跡地につくられた作業場の裏手には林のような空間が広がっていて、あたりには規則的な音がどこからともなく響いている。石を削る音。鉄を叩く音。風の音にまじって聞こえてくるラジオの音。

国展で最高賞

彫刻専攻を卒業後、大学の非常勤講師をしながら作品を制作する平敷傑(すぐる)さん。取材で訪ねたときは、2020年度の「国展(彫刻部)」へ応募する作品テラコッタ「ヤギ」を制作中だった。平敷さんは、国内最大級の公募展「国展」で2018年には最高賞の国画賞を受賞、2019年には「ちぶるヒージャー」で新人賞を獲得している。それだけに、今回の作品も注目されているに違いない。でも本人はいたって肩の力が抜けているような印象で、飄々(ひょうひょう)と楽しげに作品づくりをしているように見える。

2019年の国展で新人賞を受賞した「ちぶるヒージャー」

ゴロンとした大きなフォルム。シートに覆われていた作品を嬉しそうに披露してくれた。現れた作品はまだ制作途中だったが、その塊は圧倒的な存在感を放っている。やわらかそう。おもわずその丸みを帯びたヤギの体に触れてみたい衝動にかられ、「触っていいですか?」と聞いて作品に触れてみた。

テラコッタの表面は冷たいはずなのに、まるで生きているかのような「温かみ」を感じる作品だった。
「1月から2カ月間は乾燥させ、3月には窯入れをして、3月中に完成できれば」と愛おしそうに作品を眺める。

平敷さんはもともと、「イチムン(動物)シリーズ」として動物の彫刻を制作し始めた。しかし、ヤギを作ったところでその魅力に一気に取り憑かれ、いま創作するのは「ヒージャー」ばかり。

共通の感動

「ヒージャーの魅力は?」と訪ねると、
まず「フォルムがいい」
形の全体を捉えようとしていると、ひとつひとつのパーツが主張し形が交差している。筋肉、脚、角、ヒゲ。すべての要素に魅力が溢れていると熱く語る。

次に「可愛さが心の拠り所になる」
「ヤギを作って思ったのが、作品を見た人が“可愛い”“癒やされる”と口々に言ってくれること。ヤギの可愛さは県外の方にも共通して同じ感動が得られるんです」と目尻をさげた。

そして「イチムンと食」について考えていくきっかけにもなった。
食べることにも興味がある平敷さんは、ゴーヤーを収穫してはバナナと牛乳でゴーヤージュースを作りみんなにふるまうそうだ。「30人に1人は美味しいと言ってくれますよ」とジョークまじりに話してくれた。

彫刻を続けていくうえで、体力を維持していくことは大切。今年は5月に「国展」へ作品提出、7月には「個我の形象展」参加、8月には美術の先生が作った作品展への参加など、一年の前半だけとっても精力的に制作をしなければならない。「心身ともに健康であってこそ良い作品が生まれる」という彼は、食をはじめ、日々の営みを大切にしている。

ところで平敷さんがいまハマっているのは、小さい「ヤギ」をいつも持ち歩き「ヤギと旅」をテーマに写真と撮って文章をつけること。
韓国、台湾、タイのチェンマイなど海外にも一緒に出かけて、その街の風景のなかにヤギがいるという楽しい企画だ。おもわず笑顔になる。

【ヤギと旅】をテーマにパチリ。左は台湾・高雄の線路。右2枚は沖縄のお正月に。

愛情溢れる彫刻家。そんな平敷傑さんのグループ展がもうすぐ開催される。

「プラス1」

日時:2020年1月18日〜21日
場所:沖縄県立芸術大学当蔵キャンパス附属図書・芸術資料館2階展示室 (マップはこちら
料金:入場無料

【平敷傑 プロフィール】

平敷傑(へしき・すぐる)

1988 年 沖縄うまれ
2017 年 沖縄県立芸術大学 彫刻専修 終了

<主な出展歴>
2011 年 沖縄県芸術文化祭(12, 16, 17, 18, 19年も出展)
2012 年 沖展(13, 14, 16, 17, 18, 19年)
2018 年 混炒黒潮 沖縄・台彎現代美術交流展(高雄/台湾)
2018 年  国展(19年)

 

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。