私の中の「目」ー本村ひろみの時代のアイコン(21)翁長瞳(美術作家)


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『私秘の横断』

今年初め、沖縄県立芸術大学で開催された彫刻専修者のグループ展「±1展(プラス・マイナスイチ)」に行った。石や木、金属、透明樹脂、プラスチック板に石粉粘土など、さまざまな素材が彫刻として一つの会場に展示されている。パンフレットには「2017〜2019年に沖縄県立芸術大学大学院 環境造形専攻彫刻専修に在籍した有志8人による展示会です」と記されているが、同時期に学んだ仲間が選ぶ素材がこれほど多岐に渡るのを見ると、彼らが一緒に学んだ時間と空間は濃密なものだったことが伺える。

静寂

会場でひときわ静謐な空間があった。美術作家・翁長瞳さんの鉄やステンレスを素材にした作品。スポットライトを受け「静寂」な印象を放っていた。
平面に静かに舞い降りた雰囲気で立っているステンレスの作品『patchwork』。
美しい面をもつ切り取られた円錐状の鉄の作品『雫』。
おもわず向こう側を覗き込んでしまう形状の同じく鉄で制作された『frame02』の3作品。

『patchwork』
『雫』
『frame02』

石の彫刻のズシッとした重量とはまた違う、金属が体に響く重さをイメージしながら、「金属を扱うくらいだから、きっと制作者は力強い体つきなのだろう」と勝手に想像した。

えんじ色のニット姿で現れた翁長さんはショートヘアで色白の可愛らしい雰囲気の方だった。鉄という素材について「経年変化でついたサビを落とすと、また新しい表情をみせる。生っぽくて、溶接すると瞬発的に形ができあがる」と魅力を語る。同時に「いまオリンピック前で、鉄の値があがっているんです」と制作の苦労も話してくれた。作家にとって材料にかかるコストも重要な課題だ。
翁長さんは、金属にとどまらず布の作品も制作している。
作品『やすむための』は、23着の古着で制作した敷物だ。不思議なコクーンのような形状の作品。包み込むような空間を作るのは彼女のものづくりのコンセプトが「内と外」だからだ。

『やすむための』

逃げ場所

大学3年生のとき、祖父の死に直面した。逃れられない「悲しみ」から翁長さんは逃げ場所を作った。逃げ場所としての「箱」。その最初の作品は『すみでかなしむひとへ』。スリットの入った多面体を使った箱は、宝石の原石がモチーフ。それは宝石商をしていた祖父との想い出でもある。彼女はその中に引きこもるためではなく、暗闇から出てくるための箱にしたかった。そのために外に繋がる穴を無数に開けた。この時から「内と外」という概念が彼女の研究テーマになった。

『すみでかなしむひとへ』
『私秘の横断』

『すみでかなしむひとへ』を進化させた作品が『私秘の横断』(大学院修了作品)だ。

『慰撫(いぶ)のゆりかご』

この作品は、うずくまり丸くなった人がモチーフ。説明文にはこう書かれている。
「内側には鍵が付いていて、完全に周囲との接触を遮断し一人の空間になる。そこはプライベートな空間になり、一人穴から外を覗くこともできる。反響する音に耳をすませて瞑想することもできる」と。
同作品は、前回自分が悲しみで作った箱の存在が、今度は誰かの為になってほしいと制作した。心境の変化は、より鑑賞者の側に立った作品づくりになった。

他にも、この「のぞき穴」の存在のように「見る・見られる」を意識した作品がある。
大学院時代に制作した作品『共存する2つのフレーム』は、高さ1メートル80センチもある大きな円。この円形のフレームは大きな眼とも捉えられる。瞳さんの名前に由来する「目」をモチーフにした作品だ。

『共存する2つのフレーム』

今年はさっそく公募展で『虚ろな眼』が奨励賞を受賞した。
「昨年集中して制作した結果、作品の精度をあげることができた」と本人も力強く語ってくれた。
2020年は秋に個展を開催するのが翁長さんの目標だ。
翁長さんの彫刻を街中で目にする日が来るのも遠くはないのではないかと期待に胸を膨らませている。

『虚ろな目』

【翁長瞳 プロフィール】

翁長瞳(おなが・ひとみ)

1993年 那覇市出身
2017年 沖縄県立芸術大学 美術工芸学部彫刻専攻卒業
2018年 沖縄県立芸術大学 大学院造形芸術研究科環境造形専攻修了
2019年より 沖縄県立芸術大学非常勤講師

<主な個展>
2018 「私秘の横断」沖縄県立芸術大学彫刻専攻演習室
グループ展
2016 「彫刻の五・七・五 -ほって きざんで30年ー」沖縄
2017 「“1517.806km” Exchange Exhibition vol.9 女子美術大学 × 沖縄県立芸術大学」沖縄 
     「彫刻の五・七・五展-かたちで詠む春夏春冬-」神奈川
2018 「1517.806km」沖縄県立芸術大学彫刻専攻×女子美術大学立体アート専攻交流展2018voi.10   東京
     「沖美連展+立体作家招待展」沖縄
2019 「CYCLE展 創造するエネルギー」 OIST沖縄科学技術大学院大学
     「美術の先生がつくった作品展  vol.7」沖縄[沖縄県立博物館・美術館 県民ギャラリー]
     「ART PARK IN NAHA」沖縄[那覇市民ギャラリー]
     「彫刻の五・七・五 」沖縄[沖縄県立芸術大学附属図書・芸術資料館][浦添市美術館]
           「沖美連展+立体造形作家招待展」沖縄[沖縄県立博物館・美術館 県民ギャラリー]
           「±1」沖縄[沖縄県立芸術大学附属図書・芸術資料館]

<主な受賞歴>
2016 「第68回沖展」 教育出版賞
2018 「第70回沖展」 沖展賞
     「第11回那覇市民芸術祭」 奨励賞
2019   「第71回沖展」 浦添市長賞
2020 「第72回沖展」 奨励賞

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。