〝幸せの黄色い断面〟地元で40年愛されるおいしさの秘密


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
カボチャのサーターアンダギーを揚げる仲宗根啓朝さん(手前)、太志さん親子 写真・村山 望

厳選した生のカボチャで作るサーターアンダギー

沖縄市胡屋にある「かぼ天の店 なかそね」は、子どもから大人まで幅広い層に人気のお店。かぼ天とはカボチャのサーターアンダギーのことで、同店では保存料などは使わず、その日作ったものだけを販売する。観光客のリピーターも多く、中には政治家や芸能人など有名人もいるそうだ。また、県内でプロ野球のキャンプが行われる際には毎年、球団からも大量注文があるという。両親と共に店を切り盛りする店主の仲宗根太志さん(65)に話を聞いた。

「かぼ天の店 なかそね」のサーターアンダギーは、店主の仲宗根太志さんの母・千代子さん(83)のレシピがもとになっている。それを業務用に改良し、販売を始めたのはいまからおよそ40年前のことだった。

当初は太志さんの両親が営んでいた弁当屋でプレーンと黒糖味のみを販売。その後、新しい味に挑戦しようと作ったのが、当時、珍しかったカボチャのサーターアンダギーだ。バナナやニンジン味なども作ったが、注文はカボチャ味に集中するほど人気となった。

(左から)店主の仲宗根太志さん、千代子さん、啓朝さん。太志さんいわく、千代子さんは同店の看板娘

親子で二人三脚

5年前、現在の場所に移転したのを機に弁当などの販売はやめ、カボチャのサーターアンダギー一本に絞った。

同店では業務用の粉末ではなく、厳選した生のカボチャを使う。カボチャは品種だけでなく、産地も重要だといい、これまでにさまざまなカボチャで試行錯誤を重ねてきた。

「うちのサーターアンダギーに合うのは、県内だと3カ所で作られているカボチャ。そのほかは北海道や岡山産、それからニュージーランドやメキシコ産ですね」と話す太志さん。カボチャ選びに妥協しない姿勢は、今でこそ理解されているが、最初のころは仕入れ先から「あんたぐらいだよ、カボチャでああだこうだ言うのは」と怒られたと言って笑う。

サーターアンダギー作りは太志さんと父・啓朝(ひろとも)さん(86)の二人三脚。カボチャはそれぞれ水分や甘さに違いがあり、それによって変わるレシピに親子で四苦八苦。「砂糖の量の計算を間違えたんじゃないか」「いや俺は間違ってない。親父が間違えたんじゃないの」などと言い合いもし、大差なく作れるようになるまで10年はかかった。

親子で一つ一つ丁寧に作るサーターアンダギーは、できる限り安くて、おいしいものを提供したいという思いがある。

2つに割るとカボチャのきれいな黄色が顔を出す(1個90円)

「よく、小学生が小銭を握って1個だけ買いにくる。20歳前後の男の子もコーヒー片手に1個、2個買っていく。そんな姿を見ると、本当においしいと思ってくれているんだなって、うれしくなります」と頬を緩ませる。

一味違う楽しみ方

サーターアンダギーを作る様子を見せてもらった。まず、啓朝さんが生地を片手ですくい、手際よく空気が入るように手を動かしながら成形し、フライヤーに入れる。ほどよい色合いに変化したら、太志さんが隣のフライヤーに入れていく。二層のフライヤーの中で浮かぶサーターアンダギーは薄い黄色から茶色へと徐々に変化し、見事なグラデーションになった。

手際よく生地をフライヤーに入れる啓朝さん

「はい」、と出来立てを渡され2つに割ると、ふわ~っとした湯気とともに現れた鮮やかな黄色い断面に感動。カボチャの優しい甘さも感じられ、幸せな気分になった。

「保存料を使っていないので、気を使ってほしい」という太志さん。その日のうちに食べるのが一番だが、一味違う楽しみ方も教えてくれた。まず半分に割り、トースターで温め、お好みでピーナツバターやマーマレード、ハチミツを塗る。意外とマヨネーズもいけるらしい。

ちなみに太志さんは「オレンジリキュールを1~2滴たらして食べるのがお気に入り」だとか。気になった人は試してみてはいかがだろう。

(碕山裕子)

かぼ天の店 なかそね

【住所】沖縄市胡屋6-7-6 (マップはこちら
【電話】 098-932-4109
【営業時間】7時~売り切れ次第終了
【定休日】日曜定休

(2020年3月5日付 週刊レキオ掲載)