サラリーマンから一転、夢の映像業界へー本村ひろみの時代のアイコン(26)平一紘(映画監督)


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初めて会った時、平さんは百貨店勤務のサラリーマンだった。寡黙で真面目な青年といった印象で、現場での丁寧な対応に好感を持った。その後、会社を辞めたといううわさを耳にし、映像制作をしていたことを思い出した。夢に向かって歩き始めた青年に勝手ながらほんわかとエールを抱いていた。
「いつか夢が叶うといいね」
しかし実際のところ、平さんの勢いは違った。
「自分の人生のスピード感、流れを早める」ために映像の仕事一本に絞ったのだ。インタビューの時に力強く語った「映画監督としては圧倒的に経験値が低い」というコンプレックスが彼を動かした。会社を辞め、自分の行動に拍車を掛けた。

映画作りの思いを確信に変えた元上司の言葉

「エンタメの財産は過去にこそある」
これは平さんが会社を辞めた後、後にグランプリを受賞する映画の予告編の相談に行った際に、かつての上司だったリウボウホールディングスの糸数剛一会長に言われた言葉だ。この言葉で今度の映画で撮るべきテーマが明確になり「地元のコザを舞台に映画を撮ろう」という思いは確信に変わった。

それから3年後、平さんは2018年第3回未完成映画予告編大賞でグランプリを受賞。受賞作品「ミラクルシティコザ」を制作するための制作費3,000万円を獲得した。その上、監督の堤幸彦賞も受賞しダブル受賞となった。期待がかかったこの「ミラクルシティコザ」は平さんが脚本を書き、この夏にクランクインの予定だ。そんな忙しい折、彼の古巣のデパートリウボウで待ち合わせをして取材をさせていただいた。

少年の夢

平さんはゲーム好きな柔道少年だった。それが1歳半の時にぜんそくになり、東京の病院で治療をするため沖縄と東京の行き来が中学2年まで続いたそうだ。偶然、病院の近くに映画館があったのがきっかけで映画館に入り浸るようになった。
映画好きが高じて「将来は映画の配給会社で宣伝の仕事とかできればいいなぁ」とボンヤリ夢を抱いていた平さん。それが、沖縄国際大学に入学して放送研究部に所属。いつの間にか自主映画を作ることに。
在学中はカメラ1台で自主映画を40本近く制作したそうだ。

大学時代の仲間と共に

現在の平さんの会社“PROJECT 9”は放送研究部の9代目にちなんで名付けられた。親友の大城さんと大学の先輩・眞栄城さんと会社を立ち上げ、今は紅一点のインターン生・ミサさんも加わり、彼を支えている。

大学を卒業し社会人1年目に制作した映画「アンボイナじゃ殺せない」では、役者をしている弟の平隆人さんが主演を務めた。平さんにとって長編1作目となるこの作品は、日本映画界に新風を送り込む新しい才能の発見する目的としている「TAMA NEW WAVE コンペティション」で“ある視点賞”を受賞している。
そこから怒濤(どとう)の快進撃だ。

期待の最新作「ミラクルシティコザ」

第3回未完成映画予告編大賞で「ミラクルシティコザ」がグランプリを受賞した際、「やっとスタートラインに立たせていただいた。みんなに恩返しがしたいです」と述べ、映像業界で彼を信じて支えてくれた方々に感謝の気持ちを伝えた。

百戦錬磨のプロたちも彼を支えている

クランクインに向けて準備中の平さんは、1970年代のコザの街のイメージや当時のロックミュージシャンの話をインタビューで熱く語ってくれた。話を聞いているだけでワクワクしてくるストーリー。私には傑作の予感しかありません。
ぜひ皆さんも予告編をチェック!
https://mi-can.com/

【平一紘プロフィール】

平一紘(たいら・かずひろ)

1989年 沖縄市出身
合同会社PROJECT9ディレクター。大学時代から自主映画を50本以上制作、卒業後、県内百貨店にて店舗企画担当勤務後、退職し映像作家としての専任活動を始める。弟は俳優の平隆人。
2014年 映画「アンボイナじゃ殺せない」第15回TAMA NEW WAVE ある視点 社会派サスペンスNEWWAVE受賞
2015年「遣らずの街、コザの雨」(沖縄国際映画祭にて上映)
2016年「釘打ちのバラッド」第3回新人監督映画祭 特別賞受賞(Netflix配信中)
2018年『これから二人でケアンを置きに』は国内外の映画祭で受賞
2019年『ja mais vu』がカナザワ映画祭にて正式上映

『にんきもん』(共同演出)『闘牛戦士ワイドー』(共同演出)『琉球トラウマナイト』『オキナワノコワイハナシ』、松田るか主演連続ドラマ『Re island』(演出)など、県内のTV番組をはじめ、県内外の企業プロモーションも行っている。

2020『QAB全編4Kドラマ TERAKA』監督
     『QAB4夜連続特別ドラマ パナウル王国物語』監督 
現在は全国劇場公開映画『ミラクルシティコザ』準備中。

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。