コロナ後、沖縄の音楽文化はどうなる? 次世代の表現・変化への向き合い方

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沖縄県内の新型コロナウイルスによる感染拡大に伴い、大型連休による来県自粛を呼びかける声が強まる中、とある一枚の画像がSNSを中心に広がりを見せている。時が止まったかのように人通りのない守礼門や、国際通りといった沖縄を象徴する場所の写真。その横に浮かび上がるのは「おきなわ、休業中。」の文字。

この画像を作ったのは、さまざまな背景を持つ沖縄在住の若者10人で結成された「沖縄やーぐまいプロジェクト」。休業中という柔らかいキャッチーなフレーズが多くの人の共感を生んでいる。彼らの取り組みに込めた思いや、活動を重ねる中で生まれる葛藤、今考えたい沖縄の未来について、メンバーにオンラインインタビューを行い連載として紹介する。今回は同団体から音楽に従事する方々を招いてオンライン座談会を行った。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、芸術公演の中止・延期が続いていることを受け、苦しい状況に立たされている音楽業界。世界中を飛び回るロックバンドDYGLの秋山信樹さん、新進気鋭の県出身シンガーソングライターTOSHさん、そして彼らの始め音楽シーンを追い続けてきたライターの島袋寛之さんに、県内の音楽業界の現状や、エンタメ界が抱える葛藤などについて、話を聞いた。

◇聞き手 野添侑麻(琉球新報Style編集部)



―まず最初に、自己紹介をお願いします。

島:「島袋寛之と申します。沖縄県出身、東京都在住の42歳です。ライターとして活動しており、週刊誌やウェブメディアを中心に音楽や映画といったカルチャー系から、政治や基地問題まで幅広く書いています。その中でも一番関心を持っていることは、音楽などのカルチャー領域です。ライター業とは別に音楽イベントも企画しています」

T:「TOSH(トッシュ) という名義で、沖縄県を拠点にアーティスト活動しています」

秋:「DYGLというバンドをやっています、秋山信樹と言います。27歳です。沖縄生まれ東京育ちで、ロンドンやニューヨークなど拠点を変えながら音楽活動をしています」

―皆さんはなぜ「沖縄やーぐまいプロジェクト」に参加することになったんですか? きっかけを教えてください。

島:「最初、メンバーの一人の石垣綾音さんと一緒に、『ライブハウス救済基金』をつくろうとしていたことがきっかけです。その後『沖縄やーぐまいプロジェクト』が立ち上がり、石垣さんから誘いを受けました。私は、仕事柄いろんな業種の人たちとつながりがあったので、外部とのパイプ役を担えると思い、参加しました」

T:「僕は3月中旬頃から、SNSなどで注意喚起をしていました。というのも、当時の沖縄は感染者が少しずつ増えているのに、街中は危機感がなく、対策をしていない人がほとんどでした。そんな中、僕の投稿を見た秋山君から連絡をもらって、コロナ対策についてどうしたらいいのか相談しあう中で、このプロジェクトが発足したという話を聞き、合流させてもらいました」

SNSで広がる「おきなわ、休業中。」市民たちがメッセージに込めた思いとは
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-1116157.html

―新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、皆さんの生活にはどのような影響がありますか?

島:「今のところ、まだ大きな影響はないですね。でも一つ変わった点でいえば、夏に向けた沖縄のガイドブック用の取材依頼が来る時期なんですが、今年はそれがほとんどないですね」

T:「僕は3月29日に主催ライブを行う予定でしたが、コロナの影響で中止になりました。ちょうど3月末の週って、県内でも感染者が増えてきたタイミングで、開催するかどうかずっと迷っていたんです。『万が一、イベント参加者から感染者が出たら…』と想像すると、止めたほうがいいと思い、当日にイベントの中止を決めました。でもただ中止にするだけではなく、会場のOutputさんの協力の下、無観客での配信ライブを行いました」


無料配信で楽曲を披露するシンガー・ソングライターのTOSH=3月29日、那覇市牧志のライブハウスOutput

音楽シーンは機能停止の状態



―コロナ禍における沖縄の音楽業界の現状について、何か思うことはありますか?

島:「沖縄に限らず国内の音楽シーンの全てが、機能停止となっています。そんな中、打開策として配信ライブの取り組みが増えていますが、まだ配信だけでは、現状維持を含めた次のステップにつなげることはできていないと感じています。

イベンターの知り合いからも、『換金できるイベントを考えてくれないか』っていう切実な相談を受けましたが、まだ今の状況では形にするのは難しいですよね…。いつ頃から人を集めたイベントが開催できるのか、全く予測がつかない。例えば、行政がリードして主催イベントなどを行わない限りは、民間は先に動けないんじゃないか。社会がある程度コロナショックから回復しても、エンタメ界が動き出せるのは、その更に先になるのではないかと思っています」

―秋山さん、TOSHさんはミュージシャンとして、今の音楽業界の現状について感じることはありますか?

秋:「今、音楽に限らず『今後、世界がどう変わっていくのか』ということに関心があって、そこをしっかり捉えたいと思っています。というのも、アーティストは、時代を反映した作品を作ることができる。それもアーティストの社会に対する一つの役割じゃないかと思っています。だからこそ、世の中の動きを注視する必要がある。まだ自粛生活が始まって数カ月しか経っていませんが、時間が進むにつれて自粛生活のあり方も変わってくるはずなので、変化を受け止めて、音楽に落とし込んでいきたいと考えています」

T:「僕は3月から続くコロナショックで、変化についていけず、何も手につかない生活が続いていましたが、最近ようやく活気が戻ってきて、音楽を見つめ直せるようになりました。秋山君が言うように、アーティストの創作活動は止まらないし、音楽が死ぬことはないと思いますが、新しいエンタメのあり方を見据えて動いていくことは必要だと感じています。

コロナ禍になり、配信ライブといった従来とは違ったライブの見せ方が広がっています。もしかしたらVRを使用した体験型のライブなど、新たなプラットフォームを使ったコンテンツが生まれる可能性もある。今後、どういったものがスタンダードになるのかを考えながら、アーティストプランを練り直さなきゃいけないと思っています。この状況下に置かれて、音楽のはやりも変わってくるんじゃないかな」

秋:「確かにサウンドの好みの変化はある気がする。例えば、ロックって現場体験型の音楽だと感じていて、ライブやフェスといった現場が存在しているからこそ、家などで同じ曲を聞くことで、更に味わい深く心に響いていく音楽。でも、誰もが家にこもりっきりの今、ロックミュージックが急に今までとは違って聞こえる感覚に気づきました。そうした感覚の変化もあってか、最近はテクノやアンビエントなどじっくり向き合える落ち着いた音楽を聞くことが増えました。アコースティックな弾き語りも、人が集まって一斉に音を出すことが出来ない現状を反映した、リアルな感じが伝わって更に良く聞こえますね」

T:「それと気になるのは、アーティストの発信拠点だったライブハウスが動けない中、今後新人アーティストはどうやって世に広がり出ていくんだろうって疑問に思っています」

島:「近年の東南アジアの音楽シーンでは、新人発掘の現場はサブスクリプションやYouTubeなどのネット配信になっているんだよね。日本もそこにシフトする気がする」

アフターコロナの音楽の発信方法



―ミュージシャンが従来の動き方が出来ない今、従来とやり方は変わってしまうけれど、また新しい道が開かれつつある。皆さんの話を聞いていると希望の光を感じました。

島:「苦境に立てば立つほど、それに合わせた技術が進化していくと思います。でも、沖縄の人ってライブが好きな人が多いんですよね。ライブハウスや民謡酒場、ビアフェスタのような野外フェスも県民の生活に根付いていますよね。そういう意味で地域性を含めた変化はどう起こっていくのか、とても関心があります」

秋:「海外でも、配信型のフェスが広がりを見せているようです。彼らの動き方を見ていると、新しいアプリや配信などを含めた『メディアの使い方』のうまいところが、今後成功していくのではないでしょうか。次々に出てくる新しい媒体を、いかに自分の創作に落とし込んで、PRにつなげていくのか。従来のアーティストとしての動き方に加え、デジタル上のあらゆるサービスを見極めて、自分に何があっているか、どう展開していくかを考えていかなきゃいけない。先を見据え自身を一つのメディアとして捉えて、何を作り、どう発信していくのか。やることは増えるけど、この目線は大切になってくると思います」

T:「実際にゲームの世界では、現実世界と混ぜたような空間を作り始めていて、とても興味深いことが起こっています。『Fortnite(フォートナイト)』っていうゲームでは、アメリカのラッパーのトラヴィス・スコットが、ゲーム空間の中でライブをやっていて、かなりの反響があった。同時に1200万人がアクセスしたとのこと。すごい可能性を感じるよね」

『Fortnite』トラヴィス・スコットの奇抜なイベントに1230万人集結。
https://japanese.engadget.com/jp-2020-04-25-fortnite-1230-the-scotts-pv.html

島:「海外のアーティストって、作品がまだ骨組みだけのようなアイディアベースの音でも、スケッチ感覚でネット上に公開している人も多いよね。さみしい話だけど、作品の完成度よりも手数を多く打つ人が注目を集めていくのかなって思う」

秋:「そういった制作のスピードが早くなるからこそ、配信を通して作品が出来上がるまでの過程を見せたり、ファンと一緒に作り上げる形や、練習風景をあえて見せることで、親近感を伝えることもできる。アイディアを常に出していける人が、人々に意識されて親しまれるアーティストになるかもしれませんね。

僕も配信には、とても可能性を感じています。今は外に出れない状況だけど、配信というツールが広がっていけば、日本のみならず世界中の人に作品を見てもらえるチャンスは増える。そこで面白いと思ってもらえたら、日本にいながらにして、向こうで取り上げてもらえる可能性もある。アイディア一つで誰にでもチャンスが広がる。環境さえ整えば、世界中のアーティストが一斉に同じスタートラインから勝負できる機会だと思っています」

ライブハウスを守りたい



島:「ただデジタル型の普及が進む一方で、ライブハウスの守り方も同時に考えないといけない。沖縄県民は苦しい時ほど、音楽に支えられてきたと思っています。時代を振り返ってみても、小那覇舞天やカンカラ三線など音楽が支えとなって、ウチナーンチュの心の助けとなっていました。じゃあ、次は私たちが沖縄の音楽を支える番ではないか。そんな音楽を発信している場所はライブハウスであり、民謡酒場であり、クラブである。だから私はどうしてもそんな音楽の発信拠点を守って、残さなきゃいけないと思っています」

沖縄のエンタメ救って! コロナ対策「県への緊急要望」署名募る
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1109733.html

T:「ライブハウスを助けたい気持ちは、僕も同じ。でも『このまま数年、ライブハウスは動けなくなる』というような、最悪な状況を想定してプランを考えるようにしています。その方がアイディアも増えていくと思っています」

秋:「例えば『VRライブハウス』っていう手はどうかな。ライブハウスという非現実的な空間を、家にいながら味わうには、一つの手段だと思っています。自粛期間が長期化したとき、新しいフィールドを作ることを模索したら、VRの世界を使うのは一つの選択肢だと思う。ただ、それによってテクノロジー格差が生まれてしまうのは、懸念点の一つだけど…。VRキットを買えない人は楽しめないし、作り手も発想やVRに関わる技術、専用機材を買う資本がないと、創作面でも圧倒的な格差が生まれてしまう。誰にでも通じる創作の場所作りも整えつつ、VRのような最先端の技術を使って文化を進化させていく両方の視点は必要だと思う」

T:「僕から皆さんに聞きたいことがあります。今ライブハウスも含めた音楽関係者が取るべきベストな策はなんだと思いますか?」

島:「うーん…。補助金をどれだけ引っ張ってこれるかという努力。あとは私のような音楽ファンが率先して救済基金をつくる動き。ライブハウスの運営コストを今の状況の中、音楽だけで維持するのは厳しいと思っているので、それ以外でいかに埋めていくか、かな。

私は音楽関係者は、絶対に救われるべきだと思っています。文化は人を生かすライフラインだと思っているから、補助金などで助けるべきだと思っている。ライブハウスが他の業種と決定的に違うのは、その場所に人が来れないということ。テイクアウトなどもやりようがないし、ライブハウスだけは八方ふさがりで完全に動きが止まってしまっている。そんな一番きつい業種の一つだから、手厚い策を受けるべきだと思っています。

でも、難しいのは世間の風当たりを強く受けている場所でもある。三密と言われる環境が揃っていて、営業再開に踏み切れない。だからこそ、私は周りが助けるべきだと思っている。ライブハウスのファンによる救済の動きも始まっていて、沖縄県内なら、浦添市にあるライブハウス『groove』はファンが『groove AID』という基金を立ち上げていて、かなりの募金が集まっている。今は音楽では食いつなげないかもしれないけど、周りがサポートしながらライブハウスが生き残るためのアイディアを、自分たちファンから率先して出さなきゃいけない」

http://www.cosmos.ne.jp/~groove/

T:「コロナが去って、いざ生活が戻ってもライブハウスがなくなっているかもしれない。替えがきかない場所だからこそ、そのことを頭に入れて行動に移したいですね…」


音楽シーンの置かれた状況を説明する久貝さん(上段)、島袋さん(下段左)、秋山さん(下段右)

―最後に、コロナ後にどう変化した沖縄であってほしいですか?

島:「コロナによって多くの店が影響を受けている中、ライブハウスを守ろう、飲食店を守るために知恵をしぼろうといった、ケアしあう動きが起こっていますよね。そのような思いやりを持った他者とのつながりが、可視化されたのは良いことだと思っています。意識的に思いやりを持ちあって、このような動きが続く世の中であってほしい」

T:「議論の場が、常に設けられるようになってほしいです。『あの人は自分と意見が違うから』と避けるのではなく、誰とでもカジュアルに政治や生活の話をできるようになってほしい。国からの10万円の給付金の件も、SNSを含めたいろんな場所で声を発したからこそ、国は動いたと思うし、僕たちの意見が直接に生活に関わっている、という意識がついていてほしいです」

秋:「コロナ前から存在していた問題が拡大されていて、それに多くの人が気づけたということが、社会を良くしていくための一歩目になったと思います。問題に対して工夫して議論して、サポートしあうことで、コロナ後の社会は前よりも生きやすい社会に変えることが出来ると思います。

そのためには、TOSHの言うようにいろんな人と話し合って、考えをアップデートし続けていくことがポイントになっていくと思います。自分の居心地がいい中から飛び出し、違う意見を持つ人たちと向き合い、どう接していくかということがより良い社会へつながると思います。

『考えること、人と話すこと、議論すること』は、家にいてもできる強力なツール。アフターコロナの世界をどう良くしていくのか。明確なビジョンを持って自分に何ができるのか。ステイホームと言われるこの時期に、考えてみる機会にしたいですね。

また、今回のコロナショックを機に、政治について考えるようになった人が増えたと思います。平穏な社会に戻る一つの分岐点と言われるワクチンができるまでに、一人ひとりがどこまで考え、話し合えているかで、社会が良い方向に大きく変わっていけるか、それとも多くの問題が現状維持のままにされてしまうのかが、決まってくるのではと感じています。考える習慣、議論する習慣、新しい発想を少しずつでも受け入れていくということを始めて、アフターコロナの世界でもそれらの行動を根付かせていくことが理想だと思います」

聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)

2019年琉球新報社入社。音楽とJリーグと別府温泉を愛する。18歳から県外でロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作る人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。



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