デザインの視点から本質を考えるー本村ひろみの時代のアイコン(28) 久場麗美(マルチクリエイター)


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「在る」美術の先生が作った作品展(沖縄県立美術館県民ギャラリー)にて。沖縄本島北部のサンゴ石を使ったインスタレーション作品。サンゴ石があった場所の地形図から等高線を落とし投影したもの。

クリエイターの久場さんは、10代の頃からずっとノートを書き続けている。時に湧き出る強い感情は絵に。言葉に表せられないものもつづった20冊以上のノートは、彼女の歴史だ。
うれしかったこと、忘れたくない経験、形容し難い感情を書き留めて、彼女の貴重なアイデア帳になっているのだ。

10代から書いているノート

自然と人間の共存

太陽と影、地形の現象、久場さんは子どもの頃から自然の光を眺めるなど、移ろいを記憶につづっていたそうだ。
「アートは見えないものを暗示でき、デザインは問題解決ができる」
その思いから、大学3年の時に環境デザインの道へ進み始めた。彼女は外(環境や社会)とつながることで制作する視点やアプローチが変わった。

卒業制作「小さな丘とブーゲンビリア」は自然と人間の共存をコンセプトに、室内の空間を “リビング” “寝室” “書室” という名前の付いた箱に暮らしを当て込むのでなく、人の欲求から空間が立ち上がっていくような「本能的空間」を作り、人の欲求、本質的な願いとは何かを動物行動学の視点で住宅に落とし込んだ。そこには久場さんが作品作りの根底に持ち続けている「本質を見つめる」というまなざしがある。そしてこの作品は2011年社団法人日本建築家協会沖縄支部 奨励作品特別賞を受賞。講評でアトリエ門口の門口安則代表取締役は「動物的行動学の視点から人間の行動、自然とのコンテクストを探り、空間に反映する新しい建築『住宅』を目指した作品である」と述べている。

卒業制作「小さな丘とブーゲンビリア」

店舗デザインから、街のデザインへ

大学を卒業して1年半は店舗デザインの仕事を経験。短期間で設計する仕事から、もっと広くて(空間)長いもの(時間)の仕事をしたくなり、より“地球の表面をいじる感覚”(久場さんなりの表現)に近い「まちづくりのコンサルタント」を始めた。その中でも「備瀬集落のまちづくり計画」は思い出に残るプロジェクトになった。1年かけて報告書を作り上げた。台風による倒木被害を懸念した住民の声から立ち上がった業務だった。危険木をやみくもに切るのではなく、秩序を持たせるために判定フローを提案し、フクギ台帳を作成した。1年を通して集落の住民と関わるうちに土地の歴史や暮らしを知った。
「まちづくりは、その街の暮らしや歴史を知ること」そして「そこに住む人たちのアイデンティティーを強めること」
それが彼女の出した結論となり、絵本のような異例の基本構想図を提出した。その思いと街のデザインは彼女の手を離れた今でも生かされている。

「備瀬集落まちづくり将来イメージ」

未来へ続く活動、これからも

久場さんは現在、自身の名前を冠した「REIMI」で活動の幅を広げている。
県内外のまちづくりに関わりながら物の見方が学べるきっかけになればと、子どもたちとの関わりも大切にしている。子どもアトリエ・ネロで美術講師を務め、さまざまなワークショップを企画しながら子ども向けに「もっと自由になれる手段」としてアートを楽しむ場を積極的に作っている。

「日本建築家協会沖縄支部と子どもアトリエ・ネロの合同企画AAO」(沖縄県立博物館美術館)にて。紙の筒と輪ゴムで構造体を作った。鳥の王冠を制作し、構造体と鳥の巣に見立てた。
久米島子育て支援センターで開いた「久米島の島野菜を使った絵葉書制作ワークショップ」。久米島の島野菜を切ったり嗅いだり観察。断面が面白い形になっている。実をつぶした液体でスタンプをして、絵はがきとして夏の便りへと昇華させた。
子どもアトリエ・ネロの授業風景。4歳〜小学6年生までを対象に美術教育を行っている。

2016年には沖縄の海と文化と人を考えるプロジェクト“Okinawa Seaside Laboratory”を、ビジョンを共に出来る科学者の友人たちと立ち上げた。沖縄の持続的社会の構築と積極的自然保護を目指し、子どもの貧困、海洋ゴミ、観光の在り方などの諸問題に取り組み、展覧会やワークショップなどを通して発信している。

海洋科学者とともに企画した「海ゴミでアートしよう」(座間味村)は、沖縄県地域振興協会の地域活性化助成を受けて行った環境を学ぶワークショップ。沖縄科学技術大学院大学(OIST)の科学者とマイクロプラスチックについて授業を行い、招いた美術講師とともに海ゴミで海の生き物を作るワークショップを開いた。願いを描いた風鈴として集落に点在させた。

自分が住んでいる土地や環境を理解すれば自分のいる場所がきっといとおしいものになる。
座間味島では沖縄県地域振興協会の地域活性化助成を受け、子どもたちとプラスチックのゴミで風鈴を作り、短冊には海へのメッセージを書いてそれを集落の軒先に点在させた。美しい体験はきっとかけがえのない未来へとつながっていくだろう。その願いを込めて久場さんの活動は続く。
子どもの頃、ノートにつづった思いがひとつひとつかなっていくように。

【久場麗美プロフィール】

久場麗美(くば・れいみ)

沖縄県宜野湾市生まれ。幼少期より沖縄の自然や日常生活からのインスピレーションをもとに制作を行う。開邦高校芸術科美術コース卒業後、沖縄県立芸術大学美術工芸学部デザイン工芸学科卒業。
県内各地の地域活性化事業や跡地利用計画等に関わりながら、作家として自らの作品制作を行う。アート、デザイン、まちづくり、環境保全まで幅広く活躍する稀な人材として注目される若手の一人である。

〈主な活動歴〉
2011年 卒業制作「小さな丘とブーゲンビリア」社団法人日本建築家協会沖縄支部 奨励作品特別賞を受賞
2013-2017年 北中城東海岸地域まちづくり、備瀬集落まちづくり、北谷町キャンプ瑞慶覧、西普天間住宅地区、アワセゴルフ場跡地、石垣市まちひとしごと等の県内外のまちづくりに関わる
2015年 北中城村多目的アリーナ建設検討委員会 委員
2016年 環境保全団体「Okinawa Seaside Laboratory」立ち上げ
2017年   グループ展「とおりみち2017×3」
      平成29年度 地域活性化助成事業にて環境保全事業を実施
      国際通り、アメリカンビレッジ各所にてパフォーマンスアート「白化-BLEACH-」
      座間味村海ゴミを考える「海のゴミでアートしよう」企画運営
2018年 久米島子育て支援センター「島野菜でつくる絵葉書ワークショップ」講師
2018年   京都個展「風景に想う」
      写真展「太陽のバトン」
2019年 浦添美術館なつやすみ子ども体験教室「宝箱をつくろう」講師
      美術の先生が作った作品展
2019-2020年 「ゆかいな音楽家と、ときどきひきこもり2020」壁画ワークショップ担当
2020年 地域づくり推進事業「じのんわくわく防災キャンプ」紙皿ワークショップ担当

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。