福を呼ぶ「止まり木」って?【島ネタCHOSA班】


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

4月半ばごろ、新設された「糸満市場 いとま~る」の向かいの建物の入り口に、鳥居のようなものが建立されました。これは鳥居ではなく沖縄古来の「止まり木」だという説明書きがあり、表面には赤サンゴのかけらをまぶしてあります。興味があるので詳しく調べてもらえませんか。

(糸満市 いとまんちゅさん)

読者からの調査依頼メールには、画像も添えられていました。見れば、なるほど、日本のお宮の入り口にある鳥居に似ていますね。ただし、これは鳥居ではなく「止まり木」と呼ばれるものだとのこと。止まり木という言葉は、寡聞(かぶん)にして調査員も初めて聞きました。誰がどんな目的で建てたのでしょうか。

沖縄古来のもの

沖縄県の安泰と県民の健康な生活を願い上原榮治さんが建立した「止まり木」=糸満市字糸満

調査員はこの止まり木の建立者とコンタクトを取ることに成功。お話を聞いてみることにしました。

建立したのは、糸満市に住む上原榮治さん。止まり木とは何か―。この質問に、上原さんは「沖縄の御嶽や海、畑の入り口などに置かれていたものです。昔の人にはなじみがあったものですが、戦争で取り払われてしまったので、若い人たちは知らないでしょうね」と答えてくれました。

上原榮治さん

そして止まり木の名称のゆえんはというと―。東方の海の彼方(かなた)にあるという楽土「ニライカナイ」から福を呼び込むために、鳥(ニワトリ)が明け方に「その木に止まり」、鳴いて福を呼び込んだことに由来するのだそうです。

今回、その止まり木を上原さんが復元。復元された止まり木は事務所の入り口に設置するため2㍍近い高さがありますが、もともとは人間の肩ぐらいの高さが多かったそうです。

「止まり木は日本のお宮の鳥居に似ていますが、別のもの」と上原さん。むしろ止まり木が日本の神社の鳥居の原型になった、と語ります。

上原さんは、令和になって首里城火災、豚熱、新型コロナウイルス感染症と、災いが猛威をふるう中、沖縄の安泰と県民の健康を願って個人で費用を工面し、建立を計画。大工さんなどの手を借りながら止まり木の制作を進め、4月21日に上原さんが代表を務める「おきなわがんじゅう村」事務所前に建立を行ったとのこと。

建立の日には、波上宮の宮司を招き、沖縄県の安泰を祈願する厳粛な祭式も行われたといいます。

「当日は朝から雨が降り続いていたのですが、不思議なことに祭式の前になると雨がぴたりと止みました」と上原さん。なんだか神秘的なエピソードですね。

赤サンゴの力も追加

止まり木の色には赤が多いそうですが、これは赤には魔よけ、厄払いの力があるといわれることと関係しているのだとか。

今回設置された止まり木も赤い色をしていますが、これは塗料によるものではなく赤サンゴの色。木製の止まり木の上に樹脂を塗り、赤サンゴのかけらをまぶして固着させたのだそう。近くで見てみると、止まり木の表面につややかなサンゴのかけらが固着していることが分かります。

表面には赤サンゴのかけらをまぶし、樹脂で固着しています

「止まり木の『運気を高める力』と『福を呼ぶ力』に、赤サンゴの持つ『安産のお守り力』『魔よけ、邪、災厄払いの力』が融合し、相乗効果を発揮するに違いない」と上原さんは期待を込めます。

「沖縄県民は幾多の苦難を乗り越えてきた琉球人の歴史と誇りを持っています。今回も必ず乗り越えられる。頑張ってほしい」と建立への熱い思いを語ってくれました。

止まり木の設置された場所は、糸満市漁業協同組合から糸満公設市場跡地向かいに新設された「糸満市場 いとま~る」に向かう路地。

「私だけの話ではいけないので、止まり木を県民に広く知ってもらいたい。誰でも自由に見られる場所にあるので、近くに来たさいには立ち寄って御利益にあずかってほしい」と上原さんは話してくれました。

(2020年5月28日 週刊レキオ掲載)