大切な思い出のシーンに残る「かぞくふく」を目指してー本村ひろみの時代のアイコン(32) 照喜名朝矢(ファッションデザイナー)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

この原稿を書く時は、いつもBGMを流している。アーティストの世界観を自分なりに解釈するためだ。すぐに書き始めればいいのだけれど、アーティストをイメージしながら時間をかけて選曲する作業は、私の中で必要な時間。今回は、取材をしている時から頭の中で曲が流れていた。

ファッションデザイナー・照喜名朝矢さんの制作現場におじゃました。私の頭の中で流れたのは、原田知世さんのハミングしているような優しい歌声だ。曲は「Brand New Day」。この制作現場が奏でているよう。辺りを見ると、これから形になる柔らかい色調の生地が整然と棚に収まり、壁にはカラフルな糸がかけられ、ミシンが静かに出番を待っていた。静かで穏やかな空間から、デザイナーの丁寧な仕事ぶりがうかがえる。

デザイナー照喜名さんは4人きょうだい。姉2人、妹1人。女きょうだいの中で育った。洋裁が趣味の母は、子どもたちに手作りのものを身に着けさせたそうだ。そんな環境の中で自然とファッションに興味を持ち始めた。ファッション雑誌を読み、古着やビンテージ物などのおしゃれは姉たちから学んだ。高校生になるとアルバイトで稼いだお小遣いを持ち、浮島通りのセレクトショップに通うようになった。「ファッションは好きだけど、特にその道に行くつもりではなかったんです」と照喜名さんは言う。

ゲームが好きだった中学生の頃、ゲームデザイナーになることを目指して那覇工業高校のグラフィックアーツ科に進学した。高校でグラフィックアーツや写真を学んでいるうちに、コンピューターでデザインする以上に二次元で「モノをつくることは楽しい」と気付いた。ファッションデザイナーの道を歩み始めるのは、この頃よりもまだまだ後のことだ。「モノづくりは好きだけど、当時、洋服に関しては作るより売っているものを買って着ることが楽しかったので、スタイリストになろうと思いました」。

高校卒業後、照喜名さんは沖縄ファッションアート学院へ進学した。そこではデザインや縫製、ファッションビジネスも学んだ。学校は2年で修了のところ、さらに1年延長して学び、卒業後はファッションアート学院で非常勤講師として仕事をスタートした。縫製を学んだことがきっかけで、自分でも洋服を作り始めるようになった。最初は古着をリメークしたブランド「プロジェクト」を立ち上げ、古着屋さんで販売を始めた。洋服作りの楽しさと古着ブームもあり、ブランドとして好感触を得て、後に県内のアパレルでデザインやパターンなどの企画に携わった。

20代半ばから30代前半まで、ファッション業界でデザインからブランディング、流通、販売などを体験し、2018年10月、満を持して夫婦でブランド「Heidi(ハイジ)」を設立した。パートナーの奥さまは専門学校時代の同級生。2人が目指す服のテーマは家族で楽しむ服「かぞくふく」だ。 ブランド名「Heidi(ハイジ)」は、みんなに愛されるアルプスの少女“ハイジ”からネーミング。「ハイジという名前を聞けば、誰もが思い浮かべるイメージがあるように、記憶の中にいつまでも在り続ける服を作っていきたい」という思いを込めて、この名前にしたそうだ。ブランド名に関して照喜名さんはこのように続けた。「ハイジは天真らんまんで無邪気な印象もありますが、物語を読むと、苦労して生きてきたぶん周りに優しくしてあげられる強さもあるんです。だからかわいらしさの中に芯の強さもある女性に着てほしいんです」。

ブランドコンセプトは「モダンクラシック」。古典“クラシック”と現代“モダン”を掛け合わせたリアリティーのある衣服。ブランドを立ち上げて1年たった頃から、レディースに加え、メンズ、キッズも展開し「かぞくふく」を提案している。家族で楽しめるブランドを、将来は祖父母などの親戚を含めてのお洋服として提案していく予定だ。自分の作る服が、お正月やひな祭り、こどもの日、敬老の日、七五三など年中行事の家族写真で見たような「思い出のシーンに残るお洋服」でありたいと照喜名さんは願っている。「家族の大切な日に選ばれる服でありたいんです」と穏やかな笑顔で語ってくれた。

選ばれた素材、美しい縫製、そしてひとつひとつに心を込めて作られた“Heidi”の服。 私も、近く出席する結婚式のために鮮やかな青いパンツを購入した。着心地も風通しもいいスラックス。こんなコロナのご時世だけど、新しい装いを手にすると気分が上がった。間違いなく、青いパンツは今年の思い出の一枚になる。

県内各地で予定しているという秋のポップアップショップも楽しみ。
詳しい情報はインスタグラムでチェック!
https://www.instagram.com/h__e__i__d__i__/?hl=ja

【照喜名朝矢プロフィール】

照喜名朝矢(てるきな ともや)

1984年生まれ、沖縄県西原町出身。
沖縄ファッションアート学院を卒業後、県内アパレルブランドにてデザイナー、パタンナーとして経験を積み独立。2018年「Heidi」を立ち上げる。
店舗は持たず、デパートリウボウでのイベント販売を中心に展開。
今後はカフェやギャラリーなど路面店での販売会も計画中。

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。