琉球の士族が愛した謡う鶏(ウテードゥイ)チャーン その魅力は聞く人の心を癒やす美しい声だった


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先人が愛で、受け継いできた美声

沖縄固有の在来家禽「チャーン」。「ケッ、ケー、ケッ」と三音節の音で鳴く鶏は世界でも類を見ないという。大きいトサカ、脚が短くがっしりしていること、くちばし下の羽毛が見た目の特徴だ。写真の個体は「沖縄県指定天然記念物チャーン保存委員会」の照屋稔さんの飼育する雄。羽毛に複数の色を持つ五色(ごしき)と言われる形質のもの 写真・村山 望

チャーンは15世紀に中国より琉球に伝わったとされるニワトリだ。最大の特徴は、声を愛でるための品種であること。時を告げる美しい声は、心の豊かさを人々に与えるとされ、琉球の士族たちが好んで飼育したという。現在も、育てたチャーンの声の良しあしを競う「鶏鳴会」が行われている。今回は、沖縄固有の文化との結びつきも強いチャーンの保護育成に取り組む「沖縄県指定天然記念物チャーン保存委員会」の会員らに話を聞いた。

歴史ある鶏

照屋林吉さんの飼育する雄は、首回りの白い羽毛が特徴の「笹」という形質

「ケッ、ケー、ケッ」

うるま市豊原、照屋稔さんの自宅を訪ねると飼育されているチャーンたちの声が聞こえてきた。「沖縄県指定天然記念物チャーン保存委員会」の副会長として活動する照屋さんは雌雄合わせて30羽のチャーンを飼育している。この日は、保存委員会の役員数人も照屋さん宅に集まっていた。

チャーンは15世紀の琉球王国、尚巴志王の時代に中国から伝わったとされる在来家禽(かきん)だ。朝と午後3時、夕方に美しい声で時を告げる鶏(とり)は、愛玩用として、士族などの裕福な家庭で飼育されていたと考えられている。

「チャーンは『謡(うた)う』んですよ。鳥が『鳴く』のとは違う」

そう話すのは保存委員会の会長、又吉章盛さん。三線奏者、師範でもあり、琉球古典音楽とチャーンの声の結びつきに注目している。

又吉さんによると、三音節に分けられるチャーンの声は、人が古典音楽を歌う際の発声記号に例えられる。最初の「ケッ」の音は、「呑ミ」(ヌミ、息を呑むような短い音)、「ケー」と続く二節目は「上直吟」(アギスグヂン、ゆっくりと高音に上がっていく音)、最後の「ケッ」は「チラシ」(短く丸く切る音)。

三音節それぞれの音が美しく発声されるかを審査し、その優劣を競う「鶏鳴会」も王朝時代から行われてきた文化だ。雄同士が近くに集められると、競い合って謡う性質を利用している。

又吉さんは、鶏鳴会で評価が高い良いチャーンの声には、聞く人が吸い込まれるような「わびさび」があると話す。熟練した古典音楽の歌い手の声を聞いた時にも通ずる感覚であるそうだ。

チャーンの雌

心にゆとりを生む声

チャーンの魅力とは? ── 保存委員会の役員である照屋林吉さん、古謝義和さん、そして「顧問」と親しまれる100歳の照屋寛得さん(稔さんの父)に聞いてみた。すると、皆さん口をそろえたのはその声が、聞く人の心を癒やし、おだやかにするということだ。朝一番にその声を聞けば、さっぱりとした気持ちで1日を過ごすことができるという。チャーンを愛でることで、心にゆとりを持たせる、という考え方は、かつて中国からチャーンを持ち込んだ人々と同じなのだろう。

沖縄県指定天然記念物チャーン保存委員会の役員メンバー。(右から)照屋稔さん、又吉章盛さん、照屋林吉さん、古謝義和さん
保存委員会最高齢の照屋寛得さん(100歳)

チャーン保存の功労者の一人に故・志位良正明さんがいる。旧・美里村出身の志位良さんは、沖縄戦の最中、雌雄一対の愛鶏をカマジー(麻袋)にくるみ、本島北部の山中に避難したそうだ。戦中・戦後の食料難の中でチャーンを守りぬいたのは、その声がどれほどかけがえのないものだったかを伝える逸話として、保存委員会のメンバーが記録している。

現在、保存委員会の目下の課題は次の世代にチャーンを継承することだ。繁殖や美しい声を保つためのノウハウを若い飼育者につないでいきたいと又吉さんらは考えている。

先人たちが受け継いできたチャーンと関連する文化は、現代社会においても暮らしを豊かにするヒントを与えてくれるはずだ。

(津波 典泰)

 


沖縄県指定天然記念物チャーン保存委員会
【電話】 090-1940-7493 (副会長・照屋 稔)
 

(2020年8月20日付 週刊レキオ掲載)