「コロナは怖くない」自給自足選んだ元ウイルス学専門家が語る


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「ここがうちの畑。あ、ちょうどズッキーニは食べごろですね。採れたては、何もつけなくても、うまいですよ」

夏空の下、青々と茂る畑を眺めながら、白衣に長靴という出で立ちの男性は顔をほころばせた。その背後では、小学生の男の子が「わ、大っきなキリギリス、待てー」と、虫取り網を手に、元気に走り回っている。

目を細めるのは、医師で、栃木県那須烏山市にある「七合診療所」の所長・本間真二郎さん(51)。本間さんは診療の傍ら野菜を育て、仲間とともに米も作る。さらに味噌、醤油、みりん、酢などの調味料も自作。そんな、限りなく自給自足に近い生活を、かれこれ10年以上も続けてきた。

「私たちの体を作っているのは食べ物です。だから健康や病気のこと、『医』を考えるなら、その前に『食』のことを考えないといけない。さらにその『食』がどのようにできているかを考えたら『農』を考えないと。それを、自分で実践しないと気が済まなくなったと、そういうことです」

本間さんは「自然派医師」としてここ数年、ブログやフェイスブック、自著で、自然に沿った医療について、発信を続けている。

かつては、大都市の大学病院に籍を置く超多忙な小児科医。出世コースをひた走る優秀なエリートだ。30歳のときに書いたウイルスに関する研究論文が認められ、世界的にも権威のあるアメリカの研究機関にも留学を果たした。

ところが、40代に突入した11年前。本間さんは、すべてのキャリアを投げ捨て、この里山に移住。そのわけを、当人は「本質的なことに気がついてしまったから」と笑う。

「たとえば、以前の私はね、病気の患者さんを前にして『俺が治してやる』と、平然と思っていましたよ。でもね、本当の意味で病気を治すのは全部、自然の力なんです。そんな当たり前のことに気がついたんです。いまでは、『医者が病気を治す? なんて傲慢なことを言ってるんだ』と、そう思っています」

本間さんはコロナ禍まっただなかの今年6月、「感染を恐れない暮らし方」(講談社ビーシー/講談社)を出版し、話題を集めている。

「本人の力=免疫力、抵抗力を高めてさえいれば、新型コロナウイルスだって必要以上に恐れることはない、私はそう確信しています」

こう力を込める本間さんは畑に出た。そして、しゃがみこんで、土に触れながら、こう続けた。

「医の前に食、そして農があると言いましたが、突き詰めればそれは土、その中の微生物に行き当たるんです。農作物を育てるのは土の中にいる微生物です。微生物が有機物を無機物という栄養分に分解し供給してくれるから農作物は育つ。それは、人間の体と腸内細菌の関係とまったく同じ、相似形をしているんです。土中の微生物が良い農作物を育てるように、腸内細菌が免疫力や抵抗力の高い、元気な体を作ってくれるし、腸内細菌を整えてあげれば、ほとんどの病気はいい方向に向かうんです」

そして、こう続けた。

「私はよく患者さんに『内と外』という話をします。新型コロナウイルスに関して言えばワクチンや特効薬といった『外の力』を期待したり、頼るのではなく、自分の『内なる力』、免疫力や抵抗力を高めることが重要だと思っています。感染を防ぐ、遠ざけることも大事ですが、そればかりにとらわれず感染しても大丈夫な力を、皆さんの内に備えて欲しいと思います」

移住後、長男(6)、長女(3)と2人の子宝にも恵まれた。いまでは家族4人、毎日、自作の米やパン、野菜を食べて暮らしている。子供たちが遊ぶ木製のおもちゃは、本間さんのお手製だ。

「最近はもっぱら良いパパしてますよ。だって、家の隣が診療所ですから。子供たち寂しくなったらいつでも私に会いに来れるしね。ただ、書き物や調べ物といった文化的活動をする時間が、子供が起きだす前、早朝の2?3時間しか取れないのが悩みといえば悩みですかねぇ」

本間さんはそう言って頭をかいた。そこに浮かんでいたのは、大学病院時代にはなかった、実に清々しい笑顔だった。

「女性自身」2020年9月1日号 掲載

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