ジャカルタから来たバンドマンとの旅の記憶~Music from Okinawa・野田隆司の世界音楽旅(11)

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インドネシア、バタム島、ホテルの窓からの眺め。

「ジャズとファッションをコラボレーションしたイベントをやるから来ないか」。
シンガポールの音楽見本市に出かける準備をしているタイミングで、ジャカルタのImam(イマム)からメールが届いた。彼はlightcraft(ライトクラフト)というバンドのリーダーで、ボーカリスト+ギタリスト。声をかけてくれたのは、彼の母親がディレクターを務める「BAJAFASH(バヤファッシュ)」というイベントで、シンガポールの見本市と同じ時期にインドネシアのバタム島で開催されるとのことだった。


本名、Imam Wisaya Surataruna / イマム・ウィサヤ・スラタルナ lightcraft ボーカリスト・ギタリスト・ソングライター・共同マネージャー。lightcraftとして、これまでに7枚の作品を発表。最新作は2019年にリリースされた3rdアルバム『Us Is All』。SXSW(アメリカ)、Liverpool Sound City(イギリス)、V-Rox(ロシア)、MUSEXPO(アメリカ)、Big Mountain Music Festival(タイ)、Monsoon Music Festival(ベトナム)など15か国でライブを行ってきた。

Imamと最初に会ったのは、2017年のロシア・ウラジオストックの音楽フェスティバル「V-ROX」。その夜、市内のアイリッシュパブで、インドネシアのバンドが演奏するというので覗いたことがきっかけだった。センスのいいシンセロックを聴かせるバンドというのが第一印象。ライブの後に少しだけ話をしたのだが、その後、これほど継続的な繋がりが生まれて、方々で会って話をするようになるとは思ってもみなかった。

Imamはことあるごとに連絡をくれて、新曲ができるたびに感想を求めてきた。彼とやりとりをしながら、インディーズのバンドにとって、彼のようなドブ板営業的なマメなアプローチは絶対的に重要だと考えるようになった。海外のバンドはこちらの事情なんてお構いなしにグイグイと来る。そういう前のめりな姿勢が必要なのだ。

2018年2月、ジャカルタの音楽関係者へのヒアリングを行うことになり、Imamの知り合いの音楽関係者にも話を聞ければと思って連絡をとってみた。彼はまるで現地コーディネーターのような勢いでスケジュールを埋めてくれた。


南ジャカルタのサブカルスポット「Paviliun 28」。訪ねた夜は、ジャズ・コミュニティの日。ミュージシャンが入れ替わりで登場した。

Imamが最初に紹介してくれた「Paviliun 28」は、基本バーなのだが、ライブハウスやミニシアター系の映画館としても機能していた。この会場の特徴は、曜日によってジャンル別のコミュニティがあること。火曜日はブルース・コミュニティ、水曜日は映画、木曜日はジャズ・コミュニティ。月に一度、ポエトリー・リーディングが行われるなど、様々な文化が凝縮されている。夜になると楽器を持ったミュージシャンが集まって、程なくセッションが始まった。地元の人たちが気軽にセッションを楽しむカジュアルな雰囲気が良かった。

インドネシアの人口は約2億6,000万人。マーケットとしては新しいが相当に大きい。Spotifyなどのストリーミングサービスで音楽を楽しむ人がメインで、CDなどのフィジカルの販売は低調とのこと。


Nanaba RecordのJodi(中央)とImam(左)。

そんな中、カセットテープの音源に特化したレーベルNanaba RecordのJodiさんの話は面白かった。1タイトルの制作数は最大400本。グッズのような位置づけらしく、人気バンドのカセットテープは1時間で完売。どのタイトルも1ヶ月ほどで売り切れるとのこと。
ジャカルタ市内のブロックMというエリアにあるショッピングモールの一角には、カセットテープばかりを販売する店舗が多数集まっている。ストリーミングがメインになりつつあるが、グッズとしてだけではなく、一定のニーズは今でもあるらしい。こうしたことはバンコクやクアラルンプールでは聞かないので、インドネシア特有の構造なのかもしれない。


ブロックMで、メインに売られている音楽ソフトはカセットテープ。

lightcraftは、Imamの積極的な売り込みの甲斐があって、各地の音楽フェスティバルに招かれて演奏活動を続けていた。2018年は、モンゴル・ウランバートルのPLAYTIME FESTIVALと、韓国ソウルのZandari Festaで会った。2019年には、バンドで日本に来るということで、那覇でのSakurazaka ASYLUMにブッキングして、同時開催の音楽カンファレンスにも登壇してもらった。その後、東京、京都、大阪をツアーで回った。考えると、彼らのライブは日本で一番聴いているかもしれない。


ソウル、下北沢、那覇、lightcraftのライブは、さまざまな街で聴いた。

彼らは基本的にツアーの旅費を自ら工面することが多い。もちろん出演料が保証されたイベントもあるが、ショーケース・フェスティバルは旅費やギャラは出ないので、自力でなんとかするしかない。かと言って自腹ばかりでは回らないので、協力を依頼する。国からのサポートは皆無なので、自らスポンサーをあたる。タイあたりだとビール会社の理解が得られやすいそうだが、インドネシアはイスラム教がメインの国なので、アルコール会社よりもタバコの会社に協力してもらう機会が多いのだと聞いた。


「BAJAFASH(バヤファッシュ)」の開催地は、シンガポールから船で40分ほどのインドネシアのバタム島。船に乗る時間は短いのに、イミグレーションを抜けるのに2時間近くかかった。

シンガポール〜バタム島の船は頻発している。所要時間約40分。値段は似たり寄ったり。国際線なので、もちろんイミグレーションや税関もある。週末、シンガポールから遊びに来る人が多いとのこと。

会場は、ゴルフ場もあるリゾートホテルの一角で、インドネシアの伝統的な織物や染物をはじめ、コンテンポラリーなファッションまでが紹介される。バンドのライブが行われる際に、ステージ前に設けられた長いランウェイをモデルが歩いてデザイナーの作品を紹介するという趣向だった。

イベントの目的は、バタム島で、最も象徴的でクリエイティブなイベントにして、音楽やファッションを地域から全国に広めること。今回は、lightcraftと、シンガポールのThe Steve McQueensが、ライブアクトとして出演していた。
「私はジャズが好きだったので、専門のファッションとインテリア・デザインを合わせたイベントを行おうと考えたのがスタートのきっかけ」。Imamの母で、ディレクターのIndina Putri Fadjarさんはそう教えてくれた。


草木染めのワークショップや型に色を付けていくワークショップなど。

私自身は、ファッションのことについてはまったく知識がないのだが、ライブ演奏をバックに多くのモデルが入れ替わり立ち替わりランウェイを歩いていく風景は、かなり印象的で贅沢に思えた。軸足はファッションにあるが、音楽はとても効果的に使われていて、相乗効果を感じられた。例えば、飲食の部分が充実し、ツーリズムと結びつけば、さらに大きくなるような可能性を感じた。


バンドの演奏をバックにランウェイを歩く。

翌日、シンガポールに戻って、見本市「ALL THAT MATTERS」のショーケースで、改めてlightcraftを聴いた。個人的な印象としては、彼らのように実力があり海外での経験豊富で、自国での知名度もある程度あるバンドがショーケース・フェスティバルに出演する意味は、あまり大きくはないように感じた。食堂で麺を食べながら、Imamとそんなことを話した。


シンガポールのライブ前の食堂にて。

「ショーケース・フェスティバルには出尽くした感じがあるし、そろそろ潮時だ」。Imam自身も同じようなことを感じているようだった。「それよりもより良いエージェントとめぐり合って、小さくてもいいからきちんと自分たちのツアーをブッキングすることが大事」と話した。
ショーケース・フェスティバルは、バンドの知名度アップを上げて、ファンベースを広げるための初期段階でのプロモーションには適しているが、さらにステップアップするには、さらに別のアプローチが必要になってくる。目標を定めて、それに向けたやり方を一つずつ潰していく他に近道はないように感じる。おそらく、それはImamが最も得意とする部分だから、彼らの姿はまた違ったレイヤーで見ることができるようになるだろうと思う。


さまざまな国の味を楽しめるのがシンガポールの良いところ。レバノンやエジプトなど、中東系の料理が安くで美味しい。

Imamは、コロナ禍にあっても忙しくしているようだ。本業のフリーライターや編集者としての仕事が途切れることはなく、新曲も数多く書きながら、ツアー再開の日を待ちわびている。きっとまたどこかの街で会えるはず。何の確信もないのだが、そんな気がしている。



【筆者プロフィール】



野田隆司(のだ・りゅうじ)

桜坂劇場プロデューサー、ライター。
1965年、長崎県・佐世保市生まれ。
「Sakurazaka ASYLUM」はじめ、毎年50本以上のライブイベントを企画。
2015年、音楽レーベル「Music from Okinawa」始動。
高良結香マネージャー。


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