脈々と受け継がれる若い感性。故郷を思いながら作る器ー本村ひろみの時代のアイコン(38) 福富貴弘(陶芸作家)

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そぎ落としていった先に現れる美―。
日本の焼き物や彫刻という工芸を見るたび、私はこのことを思い出す。
「わび・さび」や「未完」に「美」を見いだす日本人の独特な美意識。四季の移ろいが生み出す感性だとすると、ここ数年の異常気象は日本人の感性に影響はないのか?と少し不安になる。

さて先月、デパートリウボウで沖縄県立芸術大学の院生と卒業生の「技とアートの展示販売会(染・織・漆・陶)」が開催された。コロナ禍で学生も作品を展示する機会に恵まれない中、デパートの催事場での企画展ということもあり、来場者が多かった。伝統を踏まえつつ新感覚の作品も見受けられ、県立芸大の学生の作品に初めて触れた方には大いに刺激になったのではないかと思う。

会場を取材しながらゆっくりと作品を見ていたら、ある作品の前で足が止まった。
「この陶器のゴブレット(脚付きのグラス)、見覚えがある」
手にしてみて分かった。わが家のキッチンに置いているカップと同じ形状なのだ。ブースにいた作家の福富貴弘さんに「もしかして昨年の芸大祭(首里城火災があったため、急きょ、壺屋のやちむん通りで陶器市が開催された)でこの作品を販売していましたか?」と伺うと、「はい」と不思議そうに答えた。
うれしい巡り合わせ!
私は、わが家にやってきた器を制作した作家さんの歩みが知りたくなり、今回の取材をお願いした。




わが家(本村)のゴブレット

故郷は焼き物の町

工芸作家・福富貴弘さんは茨城県笠間市の出身。
「笠間焼(かさまやき)という焼物で有名な土地なんですよ」と笠間焼を説明してくれた。「シンプルで、手軽に購入できる価格なので人気があるんです。その上、自由な土地柄なので、作家の自由な表現を認める気風があって、窯元も若手の感性を応援する風潮があるんです」と目を輝かせた。地元の陶器を熱く語ってくれた福富さんから故郷を大切に思う気持ちが伝わってきた。

福富さんのお父さんは、電子機器の基礎パーツを作る専門職で手先が器用だった。子どもの頃、父と泥団子で球体を作った時、ピカピカで美しい玉に仕上げる父をうらやましく思い、憧れたそうだ。小学生になると、当時好きだったゲームのモブキャラを油粘土で作って楽しんだ。物心がつく前から「物づくり」をしている子どもだった。


県立芸大の学部時代の作品。器を制作する合間にできたくじら

ぐにゃっとした皿に、池の中のザリガニ

陶芸の仕事を初めて意識したのは中学生の頃。サッカー部に所属するサッカー少年だった福富さんは、職業選択の授業で「地元・産地にちなんだものづくり」をする「陶芸家」という仕事に興味を持った。
 「今まで遊びでやっていた事が技術を学ぶことでちゃんとした物になる!」
この思いを胸に笠間高校の美術科に進学。美術について基礎的なことを一から学んだ。「それまではあたりまえに購入していた物が、自分で作れるようになったんです」。この発見が制作することの楽しさを後押しした。

高校時代、笠間市の「道の市」(クラフト市)で作品を販売。初めて作り手となり、自分の器が本当に売れるのか不安だったそうだ。手にとったお客さんの反応は興味深く「形はいいね、でも少し厚みがあるね」など、実際の使い勝手を教えてくれた。販売を通して「自分の作りたいもの」から「購入してくれる人の目線」を考えるようになった。


県立芸大の学部時代の作品


最新の土瓶。取っ手の部分も陶器なので、面取りで薄くして重量を軽くした

高校卒業後の進路は、地元の先輩作家から「一度は地元を出なさい」と背中を押され、それなら一番遠くへと、沖縄県立芸術大学に進学した。焼き方に特色がある「備前焼」にも興味はあったが、笠間焼と土の感じが似ている壺屋焼が沖縄にあるということで沖縄の地へ。それまでは訪れたこともなく、知り合いもいなかったそうだが、住めば都。今では沖縄の料理を見ながらそれに合う器のことを考え、生活のすべてが「器」へと吸収されていく。
「この形に、この曲線とか。いい曲線に出合うとわくわくするんです」と楽しそうに話してくれた。


轆轤にのせず手で削り自然の風合いをだした皿

竹の火襷という手法で制作した皿

卒業制作「灼」


焦らず、やりたいことをやる

福富さんの現在の興味は「削ること」。
ゴブレットを作る時、通常は轆轤(ろくろ)で引いてそのあと本体を削って脚を作るそうだが、「削って出す形」は、付けた時の形よりシャープさを持つ。これからは地元「笠間」の土を用いて、削りの作品を作ることが目標。「焦らず、今やりたいことをやっていく」と語る彼の姿勢は、まさに「50歳まではルーキーだ」という恩師の言葉通りだ。





福富さんが育った地元は、秋には栗ご飯が食卓に並び、周りには田んぼが広がるのどかな場所だ。四季の移ろいの恩恵を自然に受けて育った彼の夢は「いつか地元に貢献すること」。伝統は脈々と若い感性に受け継がれていく。感性について勝手に憂いていた私の心にも光がともった。




【福富貴弘プロフィール】


福富貴弘

茨城県笠間市出身。
現在、沖縄県立芸術大学陶磁器研究室1年。
赤い陶土の持つ鉄分の渋い色と、削りを使ったシャープな曲線を融合させた美しい器を目指して研究している。
今は固定された形や作風を抜きにして、オブジェや器をたくさん見て、自己表現できる作品制作をしていきたいと考えている。
最終的には地元・茨城に帰り、蓄積した知識と表現で地元に貢献することが目標。

12月頃、那覇市牧志のchocotteにて個展を予定。詳しい情報はSNSで。

【Instagram】https://www.instagram.com/fukutomi_takahiro/?hl=ja
【chocotto】https://www.instagram.com/chocotto1203/


那覇市牧志の展示室「chocotto」





【筆者プロフィール】


本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。



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