卵が生み出す不思議な世界 エッグアートの魅力に迫る! 比嘉常美さん


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卵の殻がアート作品に変身

10月6日から11日まで那覇市立壺屋焼物博物館で開催された「比嘉常美 第1回エッグアート作品展 ~卵の殻の不思議な世界~」の展示作品から。鑑賞者に自由に感じてほしいとの思いから、各作品にあえてタイトルはつけていない 写真・村山 望

本物の卵の殻に、緻密なカットと装飾を施してアート作品に仕立てる「エッグアート」をご存じだろうか。2012年からエッグアートを楽しむ比嘉常美さんは、沖縄ではまだまだ知られていないエッグアートの世界を知ってもらえたらとの思いから、10月6日から11日まで、那覇市立壺屋焼物博物館で「比嘉常美 第1回エッグアート作品展 ~卵の殻の不思議な世界~」を開催した。

「卵って、中身を食べたら、あとは捨てるだけでしょう。それがちょっと手を加えることで、こんなすてきなものになるんです」

比嘉常美さんはチャーミングな笑顔を浮かべつつ、ゆったりした口調でエッグアートの魅力について語る。

今回、比嘉さんが展示した作品は約100点。主婦業の傍ら趣味としてエッグアートを楽しみ、時間を見つけては、コツコツと制作に取り組んだ成果だ。

作風はヨーロッパの風物をモチーフにしたものが多いが、中にはひな人形など和のテイストを取り込んだ作品もある。また、オルゴールのように回転したり、ライトがついたりといった仕掛けを施した作品もあり、実にバラエティー豊かだが、全てに共通するのはその豪華で繊細な装飾性だ。

エッグアートの起源は、ヨーロッパの上流階級社会。もともとは本物の宝石を用いて仕上げられていた歴史もあるそうで、エッグアートには、ヨーロッパの装飾文化のきらめきが感じられる。

エッグアートのモチーフに決まりはなく、自由にイマジネーションを働かせて作品を作り上げていく。ひな人形を題材とした和の作品も

未知の世界に飛び込む

比嘉さんが初めてエッグアートと出合ったのは2012年。テレビ番組で目にし、「その豪華さと繊細さに感動した」と振り返る。

自分でも作ってみたいと教室を探し始め、東京代官山のエッグアート教室の門を叩いた。沖縄から2カ月に1回ほどのペースで通い、技術を習得。作品作りを開始した。

作品の素材となる卵は小型のウズラやニワトリ、グース(ガチョウ)、中型のエミュー、大型のオーストリッチ(ダチョウ)まで大小さまざま。ウズラやニワトリの場合、殻に穴を開け中身を抜いたあと、洗浄・消毒・乾燥する。グース、エミュー、オーストリッチは洗浄された卵が販売されているという。

作品の素材には、ニワトリやウズラのほか、グース(左)、オーストリッチ(中央)、エミュー(右)の卵も使う

次に卵に製図を施し、緻密なカットを施していく。「卵って全てが同じ形状じゃないんですよ。同じ種類でも1個1個全然違いますから、製図がいちばん難しい」と比嘉さんは話す。

カットはルーターやエアツールと呼ばれる切削用の電動工具を使う。カットが終わったら、色塗り、装飾を施して完成となる。

「(カットを進めていって)あともう少しというところで割れてしまうのも、エッグアートあるあるです」。そうは言いながらも、エッグアートについて語る表情からは笑顔が絶えない。

精緻な透かし彫りは腕の見せどころ

作品作りはストレス発散

「好きなことをしている時間って幸せでしょう。余計なことを考えない。そういう時って、いちばんリラックスすると思いますよ。ストレス発散の時間です」

エッグアートには決まった様式はなく、各作家が自由な発想で作り上げていく。比嘉さんは、季節行事や身の回りのものを発想の源にすることも多いという。

17年には講師資格も取得したが、「まだまだ奥が深い」といい、さらに上位のマスターコースの修了も目指す。

これまで沖縄では他にエッグアートをやっている人に出会ったことはないが、材料や道具もそこまで高価ではなく「趣味として気軽に始められるので、興味のある人はぜひトライしてほしい」と勧める。

比嘉さんの経験では、6歳の子どもでも、教えればきっちり仕上げられたといい、「興味と好奇心があればできます」と太鼓判を押す。

記者は、比嘉さんのエッグアートを通して、日頃見慣れていると思っていた卵の形状の美しさ、不思議さにあらためて気付かされた。出産、生命、幸福、家族の絆……卵にはそんなポジティブなイメージが詰まっている。見ていると何だか幸せな気持ちになるエッグアートが、沖縄でも広まっていくことに期待したい。

(日平勝也)

(2020年11月5日付 週刊レキオ掲載)