秋といえば読書の季節。新型コロナウイルス感染防止にともなうやーぐまい(家ごもり)で、本や漫画を手に取る人も多いのではないでしょうか。
記者が地元のお薦めを紹介する今回の「J(地元)☆1グランプリ」は、県内各地域を舞台にした本や漫画を紹介します。30年前に出版されたドキュメンタリーから、現在連載中の漫画まで、多彩なラインナップとなりました。本や漫画を通して見える沖縄はその場所を知っているだけに、ストーリーがぐんぐん身近に感じるのではないでしょうか。
デジタル情報に囲まれて過ごす私たち。そこから離れて、秋の夜長は本や漫画を手に取ってみてはいかがでしょう。
眉屋私記 ★ 名護市
困難生き抜く一家
名護市屋部の岩場にある拝所「渡波屋(とわや)」。今は公園の一角にひっそりとたたずんでいる。屋部の人々は出身者が本土や海外へ渡る際、船から見えるようにここで松葉をたいて見送ったと伝えられる。
屋部出身の山入端一族の物語をつづった記録文学「眉屋私記」(初版・1984年、潮出版)の冒頭でこのエピソードが紹介されている。戦前に沖縄から鉱員としてメキシコへ渡り、後にキューバに渡る萬栄さんと辻遊郭に売られた末妹・ツルさんらが時代に翻弄(ほんろう)されながらも生き抜く生涯を描いた長編作品だ。
作者は福岡県・筑豊炭鉱で鉱員の生きざまを描いてきた上野英信さん(1923~87年)。上野さんは沖縄に通って当時健在だったツルさんなど関係者に取材を続けたほか、萬栄さんの足跡を追ってメキシコに渡った。波瀾(はらん)万丈な山入端家の人生に触れ「作り話と思われないか心配だ」と漏らしたという。
「眉屋私記」執筆の際、上野さんの取材に協力したジャーナリストの三木健さん(元琉球新報記者)は「移民先でたくましく生きた人々が描かれている。困難に直面する私たちに対するエールになると思う」と作品の魅力を語った。
(塚崎昇平)
南の島のチャタン ★ 北谷町
白くまの自分探し
「目が覚めたらそこが北谷だったから ぼくは自分の名前をチャタンということにした」―。そんなシーンから、白クマのぬいぐるみ「チャタン」の自分探しの旅が幕を開ける。どこを巡り誰と出会って何を感じたのか、沖縄の美しい風景写真とともに物語が展開する。50ページほどの短かい話を読み終えた後には「旅に出たい」ではなく、思わず「チャタン、かわいい!」という感情の方が大きく湧いてくる。
作者の舟崎克彦さん(2015年没)が、妻の美紀子さんと旅行中に実際に北谷町のサンセットビーチで拾ったぬいぐるみに着想を得た。「チャタン」の可愛さもさることながら、舟崎さんのあだ名が「白クマ」だったことも絵本をつくるきっかけになったのでは、と美紀子さん。あとがきによると、ぬいぐるみの持ち主を求め、警察署に届けたが見つからず、著者が引き取った。東京に持ち帰り、書斎に鎮座させるほどかわいがっていたという。
ひとつ残念なお知らせをしたい。この写真絵本「南の島のチャタン」(佼成出版社)、記者が何店もの県内書店に問い合わせたが、どこも置いていない。そして現在は重版未定とのことで“幻の本”といっても過言ではない。じゃあどこで読めるのか? 発見したのは北谷町立図書館だ。しかも2冊。「チャタン」に会いたくなったら、北谷に行けば良いというのも感慨深い。
(新垣若菜)
南風原 カーリングストーンズ ★ 南風原町
沖縄で氷上の競技
小学館の月刊漫画「ビッグコミック」で連載中の「南風原カーリングストーンズ」は南風原町を舞台にカーリングに取り組む人々の姿をコミカルに描く。
五輪出場を目指していた女子カーリング選手の主人公は訳あってチームを追われ、北海道から沖縄へ。県内唯一のアイスリンク、南風原町宮平の「サザンヒル」を訪れ、カーリングチームをつくろうと奔走する―というストーリー。作者は「わたるがぴゅん!」などの著作があるなかいま強さん(那覇市生まれ)だ。
作中にはサザンヒルがそのまま登場する。サザンヒルエナジックアイスアリーナの支配人・儀間真実さん(56)によると、作者のなかいまさんが、沖縄のアイススポーツを取り上げる構想があるとし、昨年秋に取材で訪れたという。儀間さんは漫画を読んだ知人から、登場人物の「根間実」のモデルでは? と言われることも。「もっと格好良く描いてほしかったな」と頭をかく。
漫画ではサザンヒル内にカーリング場が作られたものの、実際にはない。将来的には整備する構想もあり、儀間さんは「漫画をきっかけに沖縄のアイススポーツに(読者が)興味を持ってもらえたら」と話した。
(荒井良平)
バガージマヌパナス ★ 八重山
破天荒少女の成長譚
10月に開館30周年を迎えた石垣市立図書館の入り口近くの棚には、沖縄や八重山に関する小説が並ぶ。郷土書担当の仲程玲さん(38)がいくつかのお薦めの中から選んでくれたのが、「バガージマヌパナス」(新潮社)。県出身で、少年時代を石垣島で過ごした作家・池上永一氏のデビュー作だ。
石垣島を舞台に、島で生まれ育った怠け者で破天荒な少女が親友のおばぁと交わりながら、神様からのお告げを受けてユタになるというあらすじ。はちゃめちゃな登場人物をユーモラスに描きながら、幻想的な風景やシリアスな場面を織り交ぜて物語は進む。島で受け継がれてきたことについての描写もちりばめる。
高校生の時に同書と出合ったという仲程さんは「自堕落な少女が自分の役割や使命に目覚めていく様子が成長譚(たん)としても面白い。何かに真摯(しんし)に向き合う姿もあり、いろいろ考える時期にいる中高生に読んでほしい」と語る。
25年ほど前の作品でもあるため、描かれる島の景色は「30年ちょっと前には近い光景があった感じ」といい、現在とは変わる。ただ、変わらないところもあると感じている。
「目に見えなくても、伝統として息づいているものを大事にして残そうとする島の人の思いは今でも同じだと思う。その意味では、島に来たばかりの人たちなどにも手に取ってもらいたい」と話した。
(大嶺雅俊)
秋の読書週間、何読む?
今回紹介した本はあくまで記者の独断と好みに基づくもので、これら以外にも沖縄を舞台にした小説や漫画は数多くあります。
2年前に直木賞を受賞した「宝島」(真藤順丈著)、今年7月に芥川賞を受賞した「首里の馬」(高山羽根子著)と県外の作家が手掛け、文学賞を受賞するケースも。漫画で言えば歴史物の「琉球のユウナ」(響ワタル著)、ラブコメディーの「沖縄で好きになった子が方言すぎてツラすぎる」(空えぐみ著)などがあり、沖縄の歴史や文化を発信しています。
10月27日から明日9日まで「秋の読書週間」です。あなたが最近読んだ本は何ですか。
(亜)
(2020年11月8日 琉球新報掲載)