Small Island Big Song~Music from Okinawa・野田隆司の世界音楽旅(13)

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マダガスカルのラップ少年たち。今はラップ・ヒップホップは世界言語。©︎Small Island Big Song

去年の今頃は、台湾の高雄を訪れるはずだった。しかし、自分の不注意による大怪我で12月の丸ひと月を病院で過ごすことになり、フイにしてしまった。高雄には、「Small Island Big Song」という公演を観に行くつもりにしていたのだ。

「Small Island Big Song」とは、オーストラリア出身の映画監督で音楽プロデューサーのティム・コールと、台湾出身のプロデューサーのバオバオ・チェンによる音楽と映像のプロジェクト。2人は3年という時間をかけてイースター島からマダガスカルまで、太平洋とインド洋にまたがる16の島々を歩きながら、現地に残る伝統音楽やパフォーマンスを記録していった。


監督のティム・コール(右端)とプロデューサーのバオバオ・チェン(右から2番目)。

私がティムとバオバオに最初に会ったのは、2015年10月、ハンガリー・ブダペストで開催されたWOMEX(the World Music Expo)でのこと。バオバオが台湾出身ということで、沖縄のスタンドを見つけて訪ねてくれたのだ。その時、二人は「12月から撮影に出かける。島々の音楽を集めて映像に残す」と話していた。その時の話はとても壮大で、具体的にイメージすることができなかったのだが、二人の頭の中には、既にその映像が描かれていたのだと思う。

以来、1年に1度WOMEXの会場で顔を合わせて、近況と進捗を聞くことが続いた。プロジェクトは着実に進行していて、その度ごとに、1年間の成果である映像と音楽の一部を披露してくれた。
彼らが拠点にするオーストラリアや台湾の政府は、文化に対してとてもサポーティブで、ある程度の支援は得られているとのことだった。撮影や取材を進めながら、並行してその成果をワークショップなどで報告・発信をして制作を進めていた。

ティムは、もともとオセアニアの先住民文化と音楽のリサーチをやってきた人で、伝統文化を重んじる島の人々をリスペクトし、きちんとコミュニケーションをとるスキルを持っていた。その上で、制作にあたって彼はいくつかの決めごとをしている。

・彼らの母語で話し、歌い、演奏すること。(楽器は全て先祖から受け継いだその土地に残る伝統的な楽器を使用する)
・音楽家の母国で歌い、彼らが選んだ自然のロケーションで録音・撮影する。
・演奏された曲は演奏者達が選んだものを使用する。
・制作する中で、イコライザーとレベル調整は行うが、リバーブやエコー等のデジタル・エファクトは使用しない。

こうしたことを通して築かれた被撮影者との関係性が、作品にも色濃く反映されている。



カナリア諸島にて。

2018年、スペインのカナリア諸島のWOMEXで会った時、完成したばかりのビジュアル・アルバム(CD)を受け取った。この頃からは、収録したアーティストとともに、ヨーロッパの音楽フェスティバルに招かれる機会も増えていて、大きな反響を呼ぶようになっていた。アルバムもいくつかのワールドミュージックのアワードを受賞していた。

この作品が素晴らしいのは、島の伝統音楽を記録しただけではないところ。各島々の音楽のエッセンスを独自にミックスして、まったく新しいワールドミュージックを生み出しているところだ。


この曲は、台湾のパイワン族の歌をベースに、マダガスカルの若者のラップが加わり、ブーゲンビル島の竹のベースやマレーシアの竹の琴の一種、ソロモン諸島の竹笛などの音が重なり、美しく彩られた音のレイヤーが楽しめる。まったく異なる音楽なのに、不思議な一体感が感じられるのは、”南島語族(オーストロネシア)”と呼ばれる台湾ルーツの言語的つながりによるところが大きいからであろう。

カナリア諸島の音楽見本市のスタンドで話をした時、映像は90%完成しているということだった。沖縄に帰ってもらった映像を見ると、音楽と風景が織りなす想像以上に美しい映像に仕上がっていた。無駄な説明がなく、音楽と映像の力だけでメッセージが伝えられていた。程なくして、沖縄国際映画祭の上映企画の提案の際、この作品を真っ先に推薦した。


沖縄国際映画祭、桜坂劇場にて、ほぼワールドプレミア。

上映後のトークには、ピーターバラカンさんと立川直樹さんも登場。

2019年4月、沖縄国際映画祭。まさか、これほど早く沖縄で二人に会えることになるとは想像もしていなかった。CDがリリースされて、ワールドツアーも行われていたが、映画の公開はほとんど行われておらず、沖縄での上映がほぼワールドプレミアであった。
ティムは沖縄に着いた後も映像の編集を続けていて、足りない字幕の翻訳をお願いされたりもした。そうした中、大きなスクリーンで見る作品の印象はやはり素晴らしかった。試写の時は、二人も興奮気味だった。

上映後のトークでは、DJのピーターバラカンさんと、立川直樹さん(プロデューサー/ディレクター/評論家)とのトーク。やはり、島々の音楽のレイヤーで生み出された楽曲は、二人の興味をひいたようだった。一緒に演奏するわけではなく、楽曲のエッセンスをティムのアレンジで構成し音を重ねていく。それぞれの土地の音楽への造詣の深さとリスペクト、アーティストとの信頼関係がなければできないことだ。


マダガスカルの夕暮れどき。©︎Small Island Big Song

自分自身は、映画祭で紹介できただけでも十分に満足だったのだが、昨年後半、日本でのロードショーが決まりそうと連絡をもらった。昨年末は、そうしたこともあって、高雄の街で「Small Island Big Song」の公演をみたいと考えていたのだ。

コロナ禍で遅れはしたものの、映画は「大海原のソングライン」というタイトルで、8月から日本でロードショー公開された。映画祭の時には2時間弱の長さがあったと記憶しているが、劇場公開版の長さは82分。さらに編集が施されたらしい。
2015年の秋、ティムとバオバオに、ブダペストで会ってから約5年。あの小さな出会いが、美しい音楽を通して今も続いていることをありがたく思う。自分の中では映画の公開で終わりというわけではなく、そのうちに、この作品に登場する島々のアーティストを沖縄に招くことができないかと思いを巡らせている。

 ※「大海原のソングライン」、沖縄での公開は1月16日から。



【筆者プロフィール】



野田隆司(のだ・りゅうじ)

桜坂劇場プロデューサー、ライター。
1965年、長崎県・佐世保市生まれ。
「Sakurazaka ASYLUM」はじめ、毎年50本以上のライブイベントを企画。
2015年、音楽レーベル「Music from Okinawa」始動。
高良結香マネージャー。


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