手にする人の想像を大切にしたいから作品に名前は付けないー本村ひろみの時代のアイコン(43) 新里竜子(美術家・陶芸家)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

竜子さんの作品は見るものの想像力を引き出す。
例えば、まだ生けられていない花の姿が花器をとおして浮かんできたり、透かしの深い器に入れられた料理が見えたり、と。自分の中にある何かを引っ張り出してきて添えたくなる。添えられるものは花や料理には限らない。その人の記憶にある何か。大切なアクセサリーかもしれないし、絵筆やこねた土かもしれない。届いた葉書や手紙かもしれない。もしくはその器を置きたい場所が浮かんでくるかもしれない。玄関のチェストやリビングのテーブル、キッチン、ベッドサイドのボードのうえ、庭のテラスのデッキチェアのそば。作品を見る者に“その器との生活”を呼びおこす。そして想像の瞬間、器を手にした人はワクワクしているだろう。そんな作用を引き起こす作品は、“工芸”とも言えるし“アート”とも言える。

竜子さんは3人きょうだいの長女。「竜子」という名前は父親が名付けてくれた。
絵が好きだった母親の影響なのかきょうだいみんながアートの道に進み、妹さんは美術の先生に弟さん(勝連義也さん)は画家になった。

竜子さんはもともと絵を描くのが好きで、琉球大学教育学部美術工芸科に進学したのも将来は日本画を描きたいと思っていたからだそうだ。岩絵の具の透明感のある輝きに惹かれていたのと同時に、土をこねる作業が好きで並行して陶芸もしていた。

「陶芸と日本画は質感が似ていると思うんです。日本画の顔料のきらめきと陶芸に使う釉薬(ゆうやく)のキラキラ光る印象が似ていて。でも私にとって決定的に違うのは、絵は常に描き続けて完成しないんですが、陶器は焼いたらそこでとりあえず完成するんです。」と話してくれた。

大学時代から現代アートの活動を始め、街でゲリラ的なインスタレーションも行ったそうだ。この時一緒にパフォーマンスをした新里義和さんは竜子さんの人生のパートナーになった。作家としてお互いを支え合い理解してしあえる存在。取材でご自宅の工房にお邪魔した時、赤いつなぎ姿で柔和な笑顔で迎えてくれた。現在は美術教育の現場で活躍している義和さんは、竜子さんの展示の台を制作し、今でもともに制作の現場にいる頼もしい存在だ。

夫・新里義和さんが制作した展示台に並べた竜子さんの作品

竜子さんは高校の非常勤講師も経験した。学生たちがいかにアートに興味を持ってくれるか工夫し、アイデア勝負の美術の授業。自分の作った器で食事の体験はもちろん、土笛を作って音を鳴らすテストでは生徒たちがその音作りに一喜一憂している様子を昨日のことのように楽しく話してくれた。写真がテーマの授業では、学校に来るまでの道のりを写真に撮って一冊の本にした。その写真集は学生にとっても時代とともに変化する風景の記録となった。学生たちと全身で向き合った5年間。その後、結婚、出産、子育ての時間を経て竜子さんは2016年から作家活動を再開。

現在の制作の中心は陶器だ。
「透かし」や「しのぎ」(ヘラのようなもので作品を削って凹凸の模様で修飾する)の技術を使って作られた白い作品はアール・ヌーヴォーのような曲線が美しい。青や黒い作品はその色調と相まって縄文土器や須恵器のようなプリミティブな印象も受ける。

「しのぎ」の制作工程動画が、彼女のインスタグラムで公開されているが、曲線を迷いなくスーッとヘラで削っていく様はリズミカルだ。その線は即興の動き。作っている最中は無心で手を動かしているそうだが、見ている私もなぜか無心になる。繰り返される流れの美。均一な作業は、呼吸も体幹もしっかりしているからだろう。焼き上がってエッジが鋭くなっている部分にはヤスリをかけ、滑らかさをだし、透かしの余白で軽やかさをだす。きっとこの作品を手にする人はその軽さに驚くはずだ。

「そういえば、以前こんな作品も作ったんですよ」と竜子さんが工房の奥から箱を持ってきた。入っていたのは珊瑚のかけらに似せて作った陶器に小粒の真珠をあしらったブローチ、シルバーのイヤーカフにユニークなデザインのリングなど。まったく違うジャンルの制作。「陶器が落ち着いたらこれらのアクセサリーも完成させたいと思っているんです」と目尻を下げた。

珊瑚のかけらに似せて作った陶器に真珠をあしらったブローチ
イヤーカフ
リング

 「これからもその時の肉体で作れる最高のものを作っていきたい。」
そんな彼女の言葉に、作家は肉体も精神も落とし込んで作品を作るのだと改めて思った。

新春のわが家にはもうすぐ彼女の作品スープマグが届く。高台があって持ち手はなく、手で包む感じの器。雑誌「おきなわいちば (2021winter)」で紹介されていて一目惚れした。春野菜のスープを作ろう。楽しみが増えた。

【新里竜子(しんざと・りゅうこ)プロフィール】

新里竜子(しんざと・りゅうこ)

1970年 沖縄生まれ
1989年 琉球大学教育学部美術工芸科
1994年 同大学院修了。高校の非常勤講師として陶芸. 美術工芸を指導、街と彫刻展やパレットくもじにて、ゲリラ的インスタレーションを展開
2016年 作家活動再開
2016年 オキナワマルクト
2017年 「陶」  リウボウ美術サロン
2017年 器展.「沖縄からの風」中村かおり.ヒネモスノタリ.nantan pottery@うつわくるみ(東京)
2018年 「生命の風 ヌチヌカジ」@まめ書房(神戸)
2020年 「しのぎ」@JOURNAL STANDARD自由が丘店(東京)
        「祈り 二人展」屋良若菜@proto器とタカラモノ(東京)
2021年   2月 ギャラリー福田(東京・玉川学園)にて個展開催予定
個展などの情報はインスタグラムにて発信中
【Instagram】https://www.instagram.com/nantan_pottery/?hl=ja

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。