アナログだけど奥深い 新聞配達員の〝技〟が職人みたいだった話


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報道カメラマンが見た新聞配達の現場

静まり返る住宅街。まだインキの匂いが漂う出来たてほやほやの新聞を配る。

花城太、54歳。琉球新報社に入社して28年になる。大半を編集局で過ごし、報道カメラマンとして多くの現場を取材してきた。1枚の写真でニュースを伝えるカメラマンの仕事にやりがいを感じる一方、新聞の配達業務は新聞社の原点だとも感じていた。

自ら新聞を配達したい。昔と変わらず家庭に直接届けるアナログな現場に触れたい。以前からそう思ってきたが、編集局は不規則勤務なので果たせずにいた。2020年4月に総務局に異動した。今ならできる。10月21日から配達を始めた。

あらためて感じたのは配達現場の底力だ。雨の日も風の日も読者に情報を届けるため、さっそうと街を駆け抜ける配達員たち。「新聞配達は天職ですよ」とさらりと語る使命感。配達しやすいように工夫をこらす〝職人技〟。新聞配達員の情景を写真で紹介する。

(花城太・琉球新報社総務局社員)

印刷工場から届いた瞬間〝新聞リレー〟が始まる

那覇市天久にある印刷工場で刷り上がった琉球新報は、午前1時すぎから順次、県内約500カ所ある各販売店に届き始める。配送車が店に到着すると店主や配達員が集まって〝新聞リレー〟が始まる。インクの匂いが香しい。

新聞を包む結束バンドを素早くカット

束ねられた新聞の結束バンドを手慣れた様子で素早くはさみでカットする宮城美恵子さん(65)。「勤労感謝の日に読者の子どもたちからねぎらいの手紙をもらった。とてもうれしかった」。新聞配達歴40年の大ベテランも読者との触れ合いが楽しみだ。

「準備が大切よ」配達歴40年の〝技〟

「こんな感じでバッグに入れると新聞が多く入るし、取りやすいのよ」。40年の配達歴を誇り、配達員仲間から「おかあさん」の愛称で親しまれている仲尾次利枝さん(68)。3つの仕事を掛け持ちするパワフルウーマンだ。配達員ならではの〝技〟に感服する。

新聞は濡らさない!雨の日はビニールに入れる

人々が寝静まる午前3時すぎ。この日は雨。「新聞を濡らしちゃいけないからね」。配達員は交代で、新聞をビニールに包む機械を使う。

いざ配達へ!愛車にまたがり街を疾走

配達の準備が整うと、配達員は次々と販売店を出て読者宅へと向かう。「新聞配達は天職ですよ。風を受けながら走るのが心地よいです」。愛車にまたがり配達に向かう配達歴1年2カ月の譜久島徹さん(42)。

街灯を頼りに、歩いて、配る

午前3時すぎ、静まり返った住宅街。街灯の明かりを利用し、手提げ袋から新聞を確認しながら配る仲尾次利枝さん。配達員はそれぞれ、車、バイク、自転車、徒歩など、配達方法は多様だ。仲尾次さんを照らす街灯がまるで月のように見え、思わずシャッターを切った。

どこでもドア!? ユニークな道を通ることも

くさりで仕切られた敷地内。〝どこでもドア〟のような入口を通ることも。ポストにたどり着くまでには、色んな道のりがある。

たかがポスト、されどポスト! 個性豊かな新聞受け

「市販の物から手作りまでポストは家庭によってさまざま」と語る主任の喜納美澄さん(33)。この仕事に就いて10年目。各家庭のポストの形は全て記憶している。「風の強い日は大変ですが、楽しみに待っている読者のために頑張りますよ」と笑顔を忘れない。

シーサーに見守られて銀色ポストに投函する。
パイプを切って作った家主さんオリジナルの新聞受け。

琉球新報オリジナルの新聞受け。緑色が目印だ。
可愛らしい犬の新聞受け。店長の嶺井隆さんは心の中で「おはよう」と挨拶する。

後記~地域で暮らす人々に思いをはせる

新聞配達に向かう前に一枚パシャリ。配達仲間の譜久島徹さんに撮影してもらいました

新聞配達を始めて2カ月余。本社とは違う世界が広がっていることを噛みしめている。午前1時すぎに起床し、愛用の自転車にまたがって琉球新報浦添中央・浦添ニュータウン販売店(嶺井隆店長)へと向かう。新聞を積んだ配送車が到着したら、配達を担当する部数の新聞を取りまとめ、2時すぎにバイクで出発する。

新聞配達は時間との勝負だ。本社の新聞制作がわずか数分遅れると、その後の印刷、配送などの作業工程で遅延時間が次第に増幅してしまう。配達開始に大幅な遅れをもたらすことを知った。配達員の中には配達後に別の仕事をしている人がおり、出勤前に業務を終えなければならない。毎朝、新聞の到着前に起床し、新聞が届くのを待ち望んでいる読者が多いことも知った。時間厳守が新聞の信頼の根幹だと思った。

ベテランの配達員は届け先のポストの形状を全て覚えている。だからそれぞれのポストに合わせて新聞の折り方を変えて投函し、読者が取りやすい工夫をしていた。まだまだ戸惑うことも多い。新聞配達というと単純な仕事だと思っていたが、違う。考えごとをしていると、うっかり道を間違えたり投函し忘れたりしそうにもなる。集中力が必要な仕事なのだと体感した。私がポストに近づくと決まってほえていた犬が、最近はあまりほえなくなった。配達員として覚えてくれたように感じて嬉しくもある。

夜明け前の薄暗い中、通りに人の気配はなく、あいさつを交わすことは皆無だ。だから私はポストを読者だと思い、あいさつをしてから新聞を中に入れている。新聞配達は地域で暮らしている人々に思いをはせる作業なのかもしれない。

新聞社に勤め、人々を取材し、写真を撮る。編集局ではここまでしか味わえなかったが、配達員として、新聞に込められた思いを直接読者に届けられる喜びを感じている。ポストに声を掛けながら新聞を配る作業は今、私の大切な日常となった。

(文・写真=花城太)

※2021年1月1日付琉球新報の記事を加筆・修正しました。

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