森永卓郎さんでも陥った“相続地獄”回避のポイントを伝授


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「親が存命の人であれば、相続の問題は決して人ごとではないはず。けれど、相続に関して無頓着である人は少なくありません。じつは私自身も父の死後“相続地獄”に陥ってしまったんです」

こう語るのは『相続地獄』(光文社)を出版したばかりの、経済アナリスト・森永卓郎さん(63)だ。

森永さんといえば、かつて本誌の取材でも「ケチと呼ばれることを恐れず、楽しく生きる」とケチ哲学を提唱。ロケ弁を多めに持ち帰る、スーパーの半額シールを狙うなど、徹底した節約生活ぶりを発信してきたが、意外なことに、相続対策はしていなかったという。

「父が生きている間、相続に関して、何も考えていなかったんです。当時は知識がなく、どこをケチればいいかも、わかりませんでした。父が亡くなってから、財産を把握したり、遺品整理をするのは本当に大変で……。相続地獄を味わった身として、親の存命中に相続準備をすることの大切さを痛感しています」

森永さんいわく「ケチは情報と知識の積み重ね」。“相続地獄”にハマりお金も労力も無駄にしてしまった森永さんに、たとえケチと言われても、親の存命中にやっておくべき準備を聞いた。

【極意1】資産リストを作っておく

「親の預金口座は生前にかならずリストアップを。金融機関は500以上ありますので、親の死後、口座があるか問い合わせるだけでもひと苦労。気づかずに、消えてしまう口座もあるかもしれません」(森永さん・以下同)

10年以上出し入れのない休眠口座の預金額は毎年1,200億円にものぼるという。さらに、タイムリミットがあるのもやっかいだ。相続税の申告と納税は、親の死後、10カ月以内に行わなければならない。

「四十九日法要が終わるまではバタバタしていますから、申告作業は実質8カ月ほど。漏れがあれば脱税になりますし、相続税の支払い期限を過ぎると、期日から2カ月までは年利7.3%、2カ月を過ぎると14.6%と消費者金融並みの延滞税が発生します」

相続税をスムーズに申告するためにも、資産リストは必須なのだ。さらに、生前に小額口座を解約してまとめておくことも重要だと森永さん。

「苦労の末、ようやく探り当てた口座が、残高わずか700円というケースもありました(笑)。この労力なんだったの……という感じです。口座をまとめる際の注意点として、預金額は、金融機関が破綻しても補償される1,000万円を超えないこと」

近年は、ネット証券などデジタル資産にも注意が必要だ。

「今思えば、父はパソコンを使っていたから、私の知らない株式取引やネット銀行があったかも。そこまで考えが及びませんでした」

デジタル資産の有無を確認し、ログインID・パスワードは残しておいてもらおう。

【極意2】財産は生前に整理

「親の死後に一つずつ遺品の価値を見極めるのは途方もない労力がかかります。私の場合は、弟が業者に頼んで一括処分しました。しかし、まとめて処分するのでは損する可能性も」

親の存命中に価値のある財産がどれなのか、聞き出しておくことが重要だ。

「見落としがちなのは百貨店友の会の積み立てや航空会社のマイル。じつは、配偶者や法定相続人に受け継ぐことができるので、存在の有無を確認しておきましょう」

さらに、死後の整理を楽にするためにも、不要なものは生前に処分を進めたい。優先すべきは自動車など持っているだけで費用がかかるものだ。

「固定電話もスマホがあるなら、詐欺電話のリスクもあるので解約を検討してみてください。親が介護施設に入居して実家が空き家になっている場合は、思い切って手放すのも選択肢」

【極意3】ファミリーヒストリーを聞いておこう

「“公正証書はお金がかかるのでハードルが高い”という人は、自筆遺言を残してもらいましょう。思い出の品、家族への思い、財産の分割など、親の考えを知っておくことは重要です」

ファミリーヒストリーを作り、把握していない「相続人」がいないかどうかも確認を。

「以前、私は家系図を作る会社に依頼し、江戸時代まで家系をさかのぼりました。すると、びっくりすることに、亡くなった母親には夭逝した妹がいたんです。幸い、相続に関するような発見はありませんでしたが、もし隠し子などが見つかれば“争族”の種になるので、早めに把握しておきましょう」

【極意4】葬儀・墓の準備も生きているうちに

親の希望する葬儀や、墓をどうするかも確認しておきたい。

「葬儀は、死の悲しみもあるなか進めなければならないので、相見積もりを取らず、病院から紹介された葬儀社にすべて任せてしまうケースが多いです。しかし、本当にそれでよいのか冷静に判断を」

現在は比較的安価な家族葬や、火葬場で弔う直葬(20万円ほど)など選択肢も広い。

「親の生前に葬儀の話題を持ちかけるのは気が引けますが、気持ちよく親を送るためにも話しておくべきです。墓についても、新たに購入する場合、都内だと500万円はかかります。できれば葬式費用とあわせて用意してもらうほうが安心です」

とはいえ、相続準備をしようとしても、そもそも親に財産や死後の話をするのは抵抗があるもの。

「いきなりお金の話はケンカになり、信頼もなくします。ふだんから親にリスペクトの念を持って接することが、肝心です。話す前には『いつもありがとう』、いろいろ教えてもらったときには『お陰で安心したよ。ご飯行こうか』とねぎらうことを忘れずに」

親子のコミュニケーションが、“相続地獄”回避の第一歩なのだ。

「女性自身」2021年2月23日号 掲載

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