「初めてのキラキラした瞬間をデザインに閉じ込めて」ー本村ひろみの時代のアイコン(48)清水理央(アーティスト)

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「明日は大陸からの黄砂の影響で霞がかった天気になるでしょう」という天気予報を聞くと、春がやってきたんだなぁと思う。春先は偏西風に乗って大陸から飛んでくる黄砂が景色をぼんやりとさせる。春霞。何気なく眺めている景色も季節によって表情を変えるし風景も巡り巡って生まれ変わる。そしてその風景を見つめる私たちの目にもそれぞれの捉え方がある。

自分だけの視点。

初めての感覚に出会った時、今まで気づかなかったコトに気づく。発見の体験。アートは自分の知っている“いま”をアップデートする。だから自分の知らない未知の感性を探したくなって展覧会へ足を運ぶのかもしれない。



2月に開催された沖縄県立芸術大学の卒業・修了作品展の会場で清水理央さんの作品の前で足が止まった。作品『せとぎわ』。昼と夜の明石海峡大橋を染めで表現した2つの作品で、サイズは横長の120cm×85cm。橋に自分を重ね「沖縄」と「明石」の懸け橋の意味も込めたそうだ。瀬戸内海にかかる明石海峡大橋のスケールが伝わってくる。調べてみたら兵庫県神戸市と淡路市を結ぶ世界最長のつり橋で全長3,911mもあるらしい。制作した清水さんはこの景色を見て育ったのだろうか。作品『せとぎわ』はふるさとの景色を時間の経過で鑑賞させる「絵巻」のような印象だった。



清水さんは兵庫県神戸の出身。もともと絵を描くのが好きで高校は美術科で学んだ。大学受験で来沖するまで沖縄へは来たこともなかったそうだが、父親が奄美出身ということもあり沖縄には親近感があった。進学を考えた時、沖縄県立芸術大学(沖芸)の染織に興味を持ち、沖縄での生活を決意して工芸専攻に進学した。沖芸では大学1年から2年の間に工芸の4つの分野(陶芸、漆芸、染め、織り)を体験し専門を決める。

「工芸の基礎を全般に学べたことは貴重な体験で、古典紅型の鮮やかな色彩など自分にはない色使いが描いていて楽しかったです」と嬉しそうに話してくれた。彼女自身は藍色など落ち着いたトーンで描く事が多かったそうだ。清水さんは、「型染め」という技法が自分に合っていると思い「染め」を表現の方法として制作を始める。

彼女が在学中に制作した作品をいくつか紹介しよう。
初めての型染めの作品はその名も「初初(ういうい)」。



大学生になって初めて買った香水が嬉しくてその気持ちを作品にしたという。
香水の瓶を手にした女の子のシルエットの中にきらめく文様はその香水の瓶の蓋のガラスを描いたもの。ブルーのシルエットに浮かび上がるオレンジのボトルの輝き。吹きかけた首元もほんのりと赤みを帯びている。胸キュンの作品だ。私も忘れていた気持ちを思い出した。初めて自分だけの香りを手にした時、たしかにこんな高揚感だった。

沖縄へ来て扇風機を使い始めるのが地元の兵庫よりだいぶ早い、と感じたのを作品にした「ふろあがり」。



「扇風機から出る涼しい風と雨季の沖縄のねっとりとした温風が、沖縄特有の風呂上がりの空気だと感じたのでこういう色合いで表現しました」と清水さんは説明した。
扇風機の羽が模様になっていて透明感のある水色とアクセントの赤が洗練された印象の作品に仕上がっている。発想のきっかけが生活のなかのちょっとしたところにあるのが清水さんのデザインの特徴だ。でもそれはなかなか気づかない日常のささやかなこと。アーティストは常に“自分ならではの視点”を意識している。
 
初の和紙染めは沖縄のススキをモチーフに明るい色調で制作。風になびく緑色の葉と黄金に輝くススキを画面いっぱいにリズミカルに描いている。



3年生の時に制作した「scene(情景)」は住んでいた首里の部屋からの風景。窓際には大きな木があり遠くには街の夜景がひろがる。この作品は着物に仕立てて、先日(3/18)卒業式の晴れ着となった。部屋の窓から見慣れた風景(街の灯りのさざめきや草木のつくる陰影)は、彼女の沖縄の心象風景になっている。



座間味島に行った時の海の美しさを法被に染めた作品「SHIMASHIMA」。
岩とか砂とか覗き込んだ海のなかの色彩を鮮やかに染め上げた。海の向こうには緑色の山のラインも描かれていて、法被の背には、エメラルドグリーンの座間味島がそこにあるようだ。



最新の作品は阿嘉島の海の透明度を描いたもの。海の底まで届く陽の光で輝く石や砂利のきらめきが和紙いっぱいに広がる作品に仕上がった。

清水さんは大学を卒業して兵庫県に戻る。明石市で就職して営業の仕事に就くそうだ。「制作はずっと続けていきます。営業の仕事は自分のアーティスト活動のためにもなるから。“おうち時間”を楽しめるように、若い人の部屋に飾ってもらえるような作品を制作したいんです」と明るく笑顔で応えてくれた。



日常の何気ない風景を切りとって、暮らしに寄りそったモチーフを描いていく。
私たちの目に映っているものはすべて作品のモチーフになる。
喜びの瞬間も哀しみの時も。
そんな感情もすくい上げて作品にしようと情熱を傾ける“時代のアイコンたち”にこれからもエールを送りたい。
「本村ひろみの時代のアイコン」は今回で終了します。2年間「時代のアイコン」にお付き合い下さりありがとうございました。




【清水理央(しみずりお)プロフィール】


清水理央(しみずりお)

兵庫県神戸市出身。兵庫県立明石高等学校美術科卒業後、沖縄県立芸術大学工芸専攻染分野に進学、今年3月卒業。
大学では染を学び、主に和紙などを染めて作品を制作。
心に残っている風景や生活のシーンをモチーフにした作品を制作中。
2022年 沖縄で二人展を企画中。詳しい情報はサイトで御覧ください。

【Instagram】nukosama4753
【gmail】nyatarou0128@gmail.com




【筆者プロフィール】


本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。



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