沖縄のライブハウスG-shelterの挑戦記(3)2020年はこの先の試金石となる経験に


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新型コロナウイルス感染症の影響を受け、苦しい状況に立たされている音楽業界。その中でも、ライブハウスの受けている被害は甚大だ。ライブハウスは流行初期段階で政府の専門家会議から、「ウイルスのクラスターが発生する危険性の高い空間」と指摘を受け、早い段階から営業の自粛を求められてきた。

沖縄でも2020年2月末からライブの中止や延期が相次ぎ、いくつかのライブハウスも閉店することが決まった。そんな中、那覇市安里にあったイベントスペース「G-shelter」は店舗での営業を6月で終了し、インターネット上に移転するという大胆な発表を行った。話を聞くと、その取り組みは苦境を強いられているライブハウス業界の新たな救いの光になる可能性があると感じ、急きょG-shelterの黒澤佳朗オーナーに取材し、話を聞いた。彼らの取り組みや、問題に向き合い解決していく様子を、連載として紹介する。

◇聞き手 野添侑麻(琉球新報Style編集部)

第一回はこちら
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-1145299.html

第二回はこちら
https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-1163391.html

―前回の取材が、2020年7月。このスタジオに引っ越してきたばかりの時でした。あれから、G-shelterの現状はいかがでしょうか。

こっちに移ってきてから半年以上が経ち、現状として大きな二つの事案に直面しています。一つは、人手が足りずにてんやわんやしていること。そしてもう一つが当初は想定もしていなかったことが舞い込んできたこと(笑)。

G-shelterがライブハウスからスタジオ型の店舗として再スタートして、受ける仕事が撮影など今までと全く違うものになりました。そんな中で「実際にやってみないことには分からん!」と、チャレンジしながら運営していくことにしたんですが、ライブハウスから業種が変わったことで、これまでまかなえていた技術的な部分がより専門的になったことで、やることが増えて、常にキャパオーバー状態になってしまって…(笑)。その都度手伝ってくれる分野のプロの人も見つかってスムーズに運営できるようになりましたが、マネジメント部門を任せられる人を正式にスタッフとして雇いたいなと考えていますね。

配信ライブも県独自の緊急事態宣言が明けた8月末から始めていて、「TKG」というDJイベントとHARAHELLSや、むぎ(猫)といった沖縄のアーティストの配信ライブを制作しました。アーティストが表現したいことを汲み取りながら、形にすることが出来ています。一つずつやれることを増やしていって、そこからパッケージ化を考えていこうと思っています。今後は少しずつお客さんも入れ始めていこうと思っていますが、一気に集客による収益化を目指すことは今のところは考えていません。

DJイベントの配信の様子(G-shelter 提供)

―配信ライブは安里G-shelterでは経験ありましたが、新しいこのスタジオでは初めてだったんですね。実際に配信ライブをやってみての感想はいかがですか?

元々が反響音の大きい空間だったところを、吸音などの音響の施工もしたことで、音鳴りとしては悪くないと思います。チケット代を頂いているので、質を下げずに良いものを届けなきゃいけない。そこが技術的に問題ないかという不安が常にあって、最後まで一切気の抜けない配信となりました。

また配信ライブ上の演出に関しては、クロマキー※の便利さに驚いています(笑)。動画を被せるだけで演出が全てできちゃうから、面白いんですよね。でも、これも配信ライブならではの取り組み。配信に沿ったギミックを作れるのは、やっていて楽しい。オリジナルのバーチャルキャラクターを運用した音楽イベントも始めまして、よりインターネットでの発信を意識したコンテンツを製作中です。他にも技術的なことを段々と覚えていきたいですね。

(※クロマキー…特定の色の成分から映像の一部を透明にし、そこに別の映像を合成する技術。)

クロマキーを設置した状態(G-shelter 提供)

配信ライブをする中で、バンドと配信をどう融和させるかという課題にずっと悩んでいたんですが、10月に行ったメカルジンの配信ライブで「白色の壁に元々あった彼らのMVを合わせる」という演出をやってみたんですが、これがすごく良くて今まで模索していたバンドの配信演出の答えの一つなったと思います。このライブ後、「同じような演出をやりたい」という問い合わせも増えてきました。この演出の良い点として、ライブ映像をそのままMVとして活用することもできます。

メカルジン/ヒンデンブルグ G shelter ver
https://www.youtube.com/watch?v=FXX_ISep7wM

 

―配信ライブならではの視覚効果も交えることで、視聴者は新しい体験ができるんですね。配信ライブといえば、11月には毎年G-shelterとOutputが共催でやっているサーキットイベントの「ゴールデンサーキット」を行いましたよね。今年はコロナ禍の中、新しい取り組みとして県外のライブハウスと映像をつないで開催したと聞きました。

県外のライブハウスと映像をつないでオンライン・サーキットイベントという形を取りました。開催時期的に、沖縄県内でも新型コロナウイルスの感染が急速に広がっており、急遽有観客から無観客の完全配信ライブに切り替えて厳戒態勢の中で開催しましたが、当会場と大阪・難波meleというライブハウスをつないで行った「GOLDEN CIRCUIT 2020 OKINAWA ⇄ OSAKA」は、今後の配信ライブの在り方として、かなりの手ごたえを得ました。

大阪チームの意識が非常に高く、ライブ映像の質も高いし、出演者の気合いも映像越しに伝わってくるほどでした。それに刺激されるように沖縄のアーティストたちも非常に良い演奏をしており、まさしくそれは対バンのような雰囲気で、とてもライブ感がありました。直接顔を合わせなくても、音楽を通してインターネット越しに気持ちを通じ合えて絆が生まれた新しい体験が出来ました。

―なるほど。コロナ禍ということを逆手にとって、全国をつなぐというのは新しい形の一つかもしれませんね。いくつか配信ライブを行ってきた中で、マネタイズすることに手応えを感じていますか?

そのことに関してずっと悩んでいるんですよね…。配信ライブだけでは、正直なところ大きな収益にはなっていないんです。ライブ数もコロナ以前に比べたら各段に減っているし、そういう事情もあって配信ライブだけに力を注ぐのではなく、MV撮影など別の制作にもチャレンジしながら、G-shelterとしてプッシュしたいものを丁寧に取り上げていこうと思っています。ライブ面でガンガン仕掛けていくにはまだ時間が必要だと感じていますが、基盤作りをしっかりしたいと思っているので、ここ時間はかけてもいいと思っています。

―なるほど。ライブのみならず、スタジオという利点を活かした音楽制作をサポートしていくということですね。さて、次は「想定もしていないものが舞い込んだ話」についてお聞かせください。

なんとG-shelterが「沖縄の産業まつり」の会場の一つとなりました。これはさすがに想像していなかった(笑)。コロナの影響を受けてイベントがオンラインに切り替わることになり、ライブ配信のコンテンツを企画運営ごと、引き受けることになりました。イベントの担当者が音楽イベント仲間である浦崎さんという方で、長い付き合いの中でこうして一緒に仕事ができたのは嬉しいですね。これは今のG-shelterの形になったから転がり込んできたもので、ライブハウスをやっていた時には声はかからなかったでしょうから。もはや、「俺たちはライブハウス業なのか」ってツッコミが入りそうですが… (笑)。

浦崎さん(左)と黒澤さん。

産業まつりへの挑戦も、新しい発見ばっかりでした。企画の規模も大きいので、撮影はチームを組んで動くことにしたんですよ。チームになることで出来ることが増えていくのが楽しくて、時間を重ねるごとにチームが良くなっていくのが目に見える形で分かった。今までずっと一人で動いてきたので、これは良い経験でしたね。

他にも「VTuber」を取り入れるなど、産業まつりのあった三日間でいろんな撮影方法を試すことができたので、今後のG-shelterの運営に向けた良い修行になったと思います。しかもその経験は、自分だけじゃなく撮影チームでも共有されたので、今後も同規模の大きな企画にチャレンジできると思います。

沖縄の産業まつりオンライン 一日目
https://www.youtube.com/watch?v=nGmzl7hu-1I

―2020年という年は、G-shelterにとってどういう一年でしたか?

想像を絶する戦いの日々で、この一年「何とか生き残れた」という気持ちでいっぱいです。前店舗を閉めて今の場所に移った時に、来るべきパンデミックの波に備えて「お客さんが集まることができなくても、音楽を届ける最後の砦になる」という意識で始めたんですが、実際にその状況下になってもやりきることができたので、あの時の判断は間違っていなかったなと思えました。この一年の経験は今後の試金石になると思います。

「コロナに負けない!」といいますが、僕に関しては簡単に自分を曲げた側。なんなら店たたみましたから(笑)。今までと全く違う生き方を歩むことを決めて、その中で新しい可能性をつかんで、まず一つ成果を生むことができたなと思っています。業績的な収穫を追いつかせるのは全く簡単ではないけど、可能性は広がったし、この場所で出来ることも広がった。新しいG-shelterの立ち位置も見えてきたので、2021年はそこに対して共鳴してくれる新しい仲間を増やして頑張っていきたいなと思います。

 

聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)

2019年琉球新報社入社。音楽とJリーグと別府温泉を愛する。18歳から県外でロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作る人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。