“500人出動要請”組織委員会が看護師に出した「厳しい条件」


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感染が拡大する状況下で、医療現場はひっ迫(写真:アフロ)

「5月の連休前のことと記憶していますが、『五輪のために看護師を募集している』という連絡が上司からありました。けれど、そこにいたすべての看護師が『この状態で五輪なんかできるわけない』という表情をしていました」

そう話すのは、千葉県内の訪問看護ステーションに勤める看護師のAさん。

“第4波”が都市部に押し寄せてきた4月初旬、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)は日本看護協会に対し、競技場や選手村に配置する看護師約500人の確保を依頼する要請文を送っていたことが発覚した。

組織委員会はコロナ禍以前から約1万人の医師や看護師の協力を募っていたが、要請文によれば《新型コロナウイルス感染症等の感染拡大に伴い、看護職の確保が不十分な状況に至った》ため、あらためて500人の看護師確保の要請に踏み切ったという。

日本看護協会は、すでにこの要請を全国47都道府県の看護協会支部に周知しており、前出のAさんも勤務先の訪問介護ステーションで知ることになった。

本誌は、日本看護協会から各都道府県の看護協会長に宛てた要請文を入手。

参加条件は早朝深夜も含め《原則5日以上》、活動条件は《1日9時間程度》と書かれている。交通費は近距離の場合《一定額支給》で、遠距離からの場合は《一往復のみ支給》される。さらに、コロナ禍にもかかわらず、宿泊場所は《複数人部屋の可能性あり》。

しかし、肝心の“報酬”については記載がなく、昼食は《調整中》とだけ。要請文には、あまりに“厳しい条件”が並んでいた。

「つまりは“ボランティア”というわけです。もし参加するなら、有給休暇を取ることになるでしょうが、ただでさえうちのステーションは人手不足。五輪への派遣でさらに人が抜けたら、もう現場が回りません。私たち看護師はやっとワクチンを接種できましたが、万が一、五輪の現場で感染してしまったら、利用者の方に迷惑をかけることになる。やっぱりリスクのほうが高いですよ」(Aさん)

このような状況下、Aさんと同じように、多くの看護師が五輪への派遣に“強く反対”する姿勢を見せている。

5月13日、朝日新聞の報道によると、茨城県内で五輪参加選手らのケアをする予定だった看護師らの7割が「辞退」していたということもわかった。果たして、500人もの看護師は集まるのだろうか。

そこで本誌は、47都道府県の看護協会に「日本看護協会からの看護師500人の募集について、自県でアナウンスしているか」という電話調査を実施。

まず、回答があった31県のうち、「アナウンスはしていない」と回答したのは14県(30%)。いっぽうで「アナウンスした」と回答したのは17県(36%)だった。しかし、この17県のうち多くが「コロナ対応をしている病院にはアナウンスしていない」「仕事をしていない潜在看護師にのみ」など、限定的な呼びかけであると回答。

アナウンスを行った県でも、「協力してもよい」と手を挙げた看護師の数は、本誌が把握しただけでも、全国でわずか38名程度にとどまっていることがわかった。

とくに医療が逼迫している大阪府看護協会からは「アナウンスはしていない」とのみ回答が。ほかの関西地方の看護協会からも、「情報は流したが、まったく手は挙がっていない」との回答が寄せられたーー。

今回本誌は、組織委員会にも質問状を送付した。

まず、五輪にどれほどの人数の医療スタッフを参加させる予定なのかを聞いたところ「精査を行っております」との回答が。

また、従事する医師・看護師への報酬については「参画いただく医療スタッフが所属する医療機関や大会指定病院等へ協力金を支払う予定」との回答がきた。

「女性自身」2021年6月1日号 掲載

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