宮古島に生える神秘のベールに包まれたキノコ【島ネタCHOSA班】


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うちの畑では肥料としてバガスを使っています。バガスをまくとその周辺にはよくキノコが生えてくるのですが、この前見つけたのはすごいんです! 小さいうちは丸いんですが、大きくなると黄色いアミアミがある姿に! 写真も送るのでなんと言う種類か調べてください。

(宮古島市 チサプリオ)

ウスキキヌガサタケ(スッポンタケ目スッポンタケ科)。卵形の幼菌が成長すると、黄色いマントのような菌網(きんもう)が伸びた成菌になります(依頼者提供写真)

バガス=サトウキビのしぼりかすですね。肥料として使うのは聞いたことがありましたが、こんな不思議な形状のキノコも生えるなんて!

キノコの種類を調べるにあたり協力を依頼したのは、国立科学博物館植物研究部の研究主幹、保坂健太郎さん。菌類学の分野で世界中のキノコの多様性を研究しています。宮古諸島でも何度も調査を行っている日本屈指のエキスパートです。

ウスキキヌガサタケ

保坂健太郎さん

保坂さんに調べてもらった結果、今回見つかったキノコの種類が、ウスキキヌガサタケであることがわかりました。

かさから伸びる黄色いマント状の部分が命名の決め手になっている同種。ただし、県内で見つかるものは、詳しく分析すると別種になる可能性があるそうです。なので、本記事では便宜上、「ウスキキヌガサタケ」と一括りにしてご説明をしていきます。

ウスキキヌガサタケは日本国内だと西日本を中心に分布してます。近年だと四国でよく確認されているのだとか。暖かい地域に生えるキノコで、近縁種も東南アジア、インド、中米などで亜熱帯・熱帯域で見つかっているそうです。

キノコが育つために重要なのは、「地下の有機物の分布度合い」であると話す保坂さん。地面に出ているキノコ(成菌)の下には菌糸と呼ばれる部分が伸びており、これで地中の倒木などから養分を得ています。普通の植物における根のように思うかもしれませんがキノコの「本体」はこっちなんです。ウスキキヌガサタケを含むスッポンタケの仲間も、地中に太い菌糸を伸ばすそう。

保坂さんは以前行った調査で、多良間島のサトウキビ畑に生えるウスキキヌガサタケを発見しています。その環境では、畑にすき込まれたサトウキビのかけらや肥料がキノコを成長させる養分になっているのでは、と推察していました。

なるほど、依頼者さんがバガスをまいた畑でウスキキヌガサタケを見つけたのも納得ですね。

黄色のマントは謎

ウスキキヌガサタケ。卵形の幼菌(依頼者提供写真)

ウスキキヌガサタケは卵型の幼菌が成長して、かさとマントを持つ状態になりますが、この状態が見られるのは短い時間だけ。多くの場合、早朝に卵の「殻」を破るようにして成長が始まり、2、3時間をかけて伸びきると、昼過ぎには倒れてしまうのだそうです。

伸びきったウスキキヌガサタケの先端には灰褐色のかさを確認できますが、この部分は臭くてネバネバなのだとか。スッポンタケの仲間は、ここでショウジョウバエなどの昆虫をおびきよせています。昆虫の体表面にそのネバネバしたものをくっつけることで、遠くまで胞子を運んでもらうという戦略を取っているのです。

一方、一番目を引くマントの部分ですが、こちらは何のためにあるのか分かっていないそうです。保坂さんは、現在ある仮説として、①アリなどの飛べない昆虫がかさにたどり着くための足がかりになっている、②軸の部分と共にキノコの自立を助けている、という二つを教えてくれたのですが、どちらも立証されているわけではありません。

重ね重ねですが、宮古諸島で発見されているウスキキヌガサタケはまだまだ研究の進んでいないキノコです。「日本国内だと通常、林の地表部などで確認されていますが、畑のような環境で生える、という話は他に聞いたことがありません」と保坂さん。梅雨期から夏場にかけて生える可能性が高い種類ですので、皆さんも黄色のマントを目印に、お近くの畑などを探してみてくださいね。

(2021年12月16日 週刊レキオ掲載)