「ネットミーム化」に気をつける モバプリの知っ得[174]


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先月行われた第94回アカデミー賞授賞式で、司会者のジョークに怒った俳優のウィル・スミスさんがビンタを行う事件が起き、その行動について色々な意見が出てきました。あわせてSNS上では、ビンタシーンの映像に様々な素材を付け足して面白おかしくする「コラ画像」が次々に作られ、投稿されました。このように、ニュース映像などが違う形で利用されることを「ネタ化」「ネットミーム化」などと呼びます。

ユーモアを持つことは大事である一方、問題の本質を考えずにネットミーム化することによる恐ろしさもあります。

例えば、日本のSNS上ではロシアのプーチン大統領の強さやマッチョ性を面白おかしくミーム化する風潮がありました。人気が出たことで、2019年には「プーチンカレンダー」が大手雑貨店で大々的に販売されるまでになりました。プーチン大統領は2014年からウクライナのクリミア地方を軍事侵攻し世界中から批判されていました。

面白がっていた大統領が2022年に入ってウクライナのキーウ全域へ侵攻をはじめ、残酷な映像がどんどん流れてくるようになりました。その時になってはじめて「面白がってはいけなかったんだ」と反省した人も多いのではないでしょうか。ネットミーム化は、時に独裁者のイメージアップに利用されるのです。

また、14人が死亡し6千人以上が重軽症を負った1995年の地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教は当初、ヨガ・サークルから始まり、ちょっと変わった人たちがいるといってバラエティー番組などでおもしろがって取り上げられていました。それが後にテロや殺人事件を起こしていきました。プーチン大統領の取り上げられ方にオウム真理教の時と同じようなものを感じました。プーチン大統領もある種のネタとして扱っていたのでしょうが、クリミア侵攻も当時から批判されるべきだったのだろうと思います。権力者のプロパガンダに乗っかってしまう側面もあるのです。

風刺としてネットミーム化することもありますが、それが転じて対象が外国にルーツがある人や女性など社会的に弱い立場の人の場合、過剰なバッシングや誹謗中傷・ネットリンチにエスカレートしていく事もあります。「これはネタ・ミームだから何を言ってもいいんだ」と感覚が麻痺した人たちの態度が伝染してミーム化され、「ネットのおもちゃ」として遊び半分でバッシングを行うのです。ネットミームはクスッと笑えるものもありますが、同時に警戒心を持って受け取らなければいけません。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

ネットミーム化と似た言葉で「ネットスラング」があります。以前の「モバプリの知っ得」でも紹介しました。

https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-1483206.html
スラング使用で契約解除 時代と共に変わる言葉の使い方 モバプリの知っ得[169]
 

プロゲーマーの女性がネット配信の中で「身長が170㎝ない男性は人権がない」と発言して批判を浴びました。発言が問題視され、スポンサー契約が打ち切られ、チーム契約も解除される事態に発展しました。

ゲーマーの間では、あるアイテムがないことを「人権がない」と言うスラングがありました。これはアイテムがなくて不利だという意味でゲーマー同士では使っていたのでしょうが、「身長」という人の属性にそのまま結びつけて言ったため、人格否定にあたるようなどぎつい意味になってしまいました。

ネットスラングも日常的に使っていることで、感覚が麻痺してしまい、結果的に大問題ということになる場合があります。ユーモアや風刺は大事ですが、本来の意味、本質の意味をちゃんと理解して、タイミングもよく考えて使わないといけませんね。

解説

 コラ画像…様々な画像・映像を切り貼りして作られるおもしろネタ画像やパロディ画像を、ざっくり「コラ画像」と呼びます。大胆な合成、雑な切り貼りをする場合は開き直って「クソコラ画像」と呼ぶ事もあります

 ネットミーム化…模倣を通じて人から人へ伝わる遺伝子のようなものを「ミーム」と呼び、ネット上で伝染していく「面白がる態度」がネットミームです。

 

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」でも同じテーマを子ども向けに書いています。

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 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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