選挙とSNS モバプリの知っ得[195]


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今月11日、沖縄の県知事を決める選挙の投開票が行われ、玉城デニー氏が当選しました。ここまではニュースで頻繁に報じられていたため多くの方がご存じかと思います。

あわせて考えたいことが、今回の選挙も多くのデマや差別的な言動がSNSで飛びかっていたことです。投開票の前は「玉城デニーが当選すると沖縄は中国に乗っ取られる」、開票後は「沖縄土人」などのほか、「玉城デニーを当選させた沖縄県民はバカだ」「沖縄を痛い目にあわせないといけない」などの投稿が数多く投稿されていたのです。

▼「馬鹿」「中国の属国選んだ」…知事選の結果に「沖縄ヘイト」、SNSで相次ぐ 事実と異なる言説や脅すような内容も

選挙戦前に飛び交うのは有権者の誤解を誘引してしまうという意味からも良くないことで、ネット時代の前から誹謗中傷のビラがまかれる事態はありましたが、現代は選挙結果が出た後も続いていくという現象があります。

選挙のときに、噂話や誤情報・デマが出回ってしまうことは世界中で報告はされていますが、こと沖縄の選挙になると量が増え、悪質性が高いのも特徴でしょう。「ちょっとした勘違い」のレベルではなく、明確な悪意を持った差別投稿も多数あり、選挙に限らず日常的にかかえている偏見や差別意識をここぞとばかりにぶつけているんだなと思わずにはいられません。

ツイッターに出てくるのは、沖縄が中央から予算を絞られても仕方がないという発想の書き込みで、パターナリズムに基づく書き込みです。中央政府にただただ従っている間は、「沖縄は優しい」「観光地ですばらしい」という感じで、ただ消費しているだけです。それが対立したり、意見を言ったりすると態度を豹変させてきます。

たとえば、地元の怖い先輩がいて、その先輩の言うことに「わかりました」と言っていさえすれば優しくしてくれ、親分肌で一見面倒見がいいのですが、なにかのはずみでひとたび、その先輩の言うことに「無理です」「従えません」とノーを示すと豹変して乱暴、支配してくるようになります。

沖縄でいえば「しーじゃーパワー」ですね。パートナー同士となるとドメスティックバイオレンス(DV)だし、経済的優位的立場をもって迫ってくる場合もあるでしょう。パターナリズムに基づくような、沖縄への支配欲が見え隠れして、その視線は差別的でもあるし、見下してもいるんだと思います。

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

玉城氏が当選すると中国の一部になってしまうというのも、冷静に見ると4年前も言われていて、「あ、それじゃあ4年たって中国になったのかな? 中国に近づいて行っているかな?」というと、住んでいる者の感覚からすると実感としてはそうではないというところがあると思います。

中国への接近という話については、実は翁長雄志前知事のときにも出ていましたし、なんだったら仲井真弘多元知事も言われていました。

そういうことを踏まえて考えると、「中国の乗っ取られるぞ」論には明確な根拠や論理はなくて、政府の言うことを黙って従うのか、沖縄として主張していくのか、によって都合良く使い分けて利用しているだけというのがよく見えてきます。

その一方、県知事選と同じ日に行われた市町村議会選挙には、20代・30代の若い人たちが多数立候補し、見事当選しています。こうした立候補者の選挙運動はSNSや動画を上手に活用し、楽しく、ポジティブになれる発信をしていました。「SNSで選挙情報を発信する」という同じ行為でも、一方はデマ・差別、もう一方は選挙が楽しくなる発信。かなり両極端で、改めて「スマホやSNSは使い方が」大事なんだなと感じます。今後、若い世代の影響力が高まってくると、選挙運動のSNS活用は当たり前になってくると思います。そうなった際、正しい選択を私たちはできるように、普段から選挙・政治とSNSの距離感を見ておく必要があります。

~ 解説 ~

※ 中国に乗っ取られる … 普天間基地の移設をめぐって、日本政府と長年沖縄は対立の構図となっているため、「米軍基地を減らすと中国が有利になる」「米軍基地反対派は中国のスパイ」「当選すると中国になる」とどんどんと論理が飛躍していきます。2010年に当選した仲井真弘多氏、2014年に当選した翁長雄志氏も「当選したら中国に乗っ取られる」と言われていました。実際、中国に乗っ取られているのか、沖縄に住んでいる皆さまであれば説明しなくとも分かると思います。

 

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」でも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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