ペン先で紡ぐ想像の世界 漫画家・喜名常稀(つき)さん


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読書好きだった少女が漫画家に

浦添市内にある仕事場で、自著を手にする漫画家・喜名常稀さん。96年に「喜名朝飛(あさと)」のペンネームでデビュー(現在は喜名常稀に改名)、県内で暮らしながら全国発売の漫画雑誌での連載を10年続けた経験を持つ。机に並ぶのは、カラー原画と喜名さんの単行本。その数は20冊を超える=浦添市内

浦添市在住の漫画家、喜名常稀(きな・つき)さん。1996年、全国発売の漫画雑誌に喜名朝飛(あさと)のペンネームでデビューを飾った後、10年にわたって連載を続けた実績がある。その後は、週刊レキオの連載『マルマル行進曲』をはじめ、県内のメディアや自治体、企業向けに漫画、イラストを執筆。専門学校の漫画講師も務めている。レキオ記者が、喜名さんの仕事場を訪ねた。

喜名さんの仕事場は、壁一面が本棚になっており、膨大な数の漫画の単行本がズラリと並ぶ。

本棚の一角には、喜名さんが全国誌で連載した作品がそろっていた。『幕末風来伝斬郎汰』『Noesis―ノエシス―』『東京魔人学園剣風帖』など、単行本は20冊を超える。圧倒的なボリュームだ。いずれも豊かな想像力、流麗なペンタッチが光る。

初連載の『幕末風来伝斬郎汰』の単行本全6巻(喜名朝飛名義)

全国誌の連載に奮闘

浦添市で生まれ育った喜名さん。「読書が好きな子どもでした」と振り返る。本を読んでは、空想や想像を膨らませていたという。

喜名常稀さん

絵を描くのも好きだった。祖父は画家の故・具志堅以徳さん。そのため絵画に触れる機会も多く、デザインの仕事がしたいと名古屋芸術大学に進学。そこで初めて、漫画を描く楽しさに目覚めた。

きっかけは、大学のクラスメートが同人誌で漫画を描いていたこと。「それまで、漫画は読んで楽しむもので、自分で描くものとは思っていなかったんです」。道具や描き方を教えてもらい描き始めると、面白さにのめり込んだ。

描き上げた作品を新人賞に応募すると、準入選を獲得。ますます夢中になり、漫画家になりたいと思うように。その夢を実現するため、卒業後は就職せずに実家に戻り、アルバイトをしながら漫画の投稿に励んだ。

努力が実り、25歳の時「喜名朝飛(あさと)」のペンネームでデビュー。全国発売の漫画雑誌『月刊少年ガンガン』、続いて『月刊ガンガンWING』での連載を獲得した。

執筆の道具。ペン先ひとつで、さまざまな世界を紡ぎ出す。左の羽ぼうきは消しゴムのかすやトーンの切れ端を払うために使う

「連載が決まって、うれしさよりも、血の気が引きましたね」。上京せず県内で執筆を続けることにしたため、大慌てでアシスタントを探し、連載の体制を整えた。

漫画雑誌の連載は過酷を極める。喜名さんも、デビュー当時は隔週で30ページもの原稿を仕上げねばならず、時間に追われる日々が始まった。

最初のうちは、経験の少なさから右往左往の繰り返し。商業雑誌では「ネーム」と呼ばれる素案をもとに、担当編集者と打ち合わせを重ね、ストーリーを練り上げていく。

「30ページ仕上げるのに100ページのボツネームを描いたこともありました」。締め切り前には何日も徹夜を重ね、なんとか締め切りに間に合っても、その夜にすぐ担当編集者と次の回の打ち合わせが入ることも珍しくなかったという。

県内でも活躍

全国誌での連載終了後は、県内のメディアに活動の軸足を移し、企業や自治体向けの漫画を執筆している。

2006年~11年には、週刊レキオで『マルマル行進曲』を連載。個性的な猫のキャラクターたちが登場するユーモラスな漫画だ。愛らしい絵柄は、全国誌に連載した作品とは異なる雰囲気だが、依頼主の要望に応じて、ベストな絵柄を選んでいるとのこと。さまざまな絵柄を描き分けるのことができるのは、まさにプロの手腕だ。07年からは県内の専門学校の漫画講師を務めるほか、現在ではキャンバスに絵の具を流して模様を描くフルイドアクリルアートを制作したり、グラフィックデザインの仕事を手掛けたりと活動の場を広げているが、漫画への熱意も忘れない。「最近はSNSなどで漫画を発表することもできるので、オリジナルの作品も描いてみたい」と熱意を燃やす。

県産漫画雑誌に発表した『琉球ゴールデンキングスの軌跡 ~リベンジ編~』の原稿。バスケットボールのダイナミックな動きを見事に表現

将来、漫画家になりたいと思う読者に向けてアドバイスを聞いてみると「活字の本をたくさん読んでほしい」との答え。「今ある漫画は誰かが作った世界。活字の本を読んで、空想することで、自分なりの世界が広がります」

漫画の執筆は苦労の連続だが「そのぶん、仕上がった時の達成感は半端ないぐらいありますよ」と喜名さんは笑顔で話してくれた。

(日平勝也)


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(2022年9月22日付 週刊レキオ掲載)