沖縄の伝統・文化を未来へ 映像制作会社・海燕社(かいえんしゃ)


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「残したい沖縄」を映画に

豊見城市にある事務所で自主制作映画『むんじゅる笠─瀬底島の笠─』と『うむい獅子─仲宗根正廣の獅子づくり─』のフライヤーを手にする(左から)故野村岳也さん、城間あさみさん、澤岻健さん 写真・村山望

豊見城市に事務所を構える海燕社は、2010年に設立した映像制作会社だ。「残したい沖縄」をテーマに、少しずつ消え去ろうとしている県内の伝承文化を映像で記録している。最新作『うむい獅子─仲宗根正廣の獅子づくり─』が、優れたドキュメンタリー映画を表彰する2022年度文化庁映画賞の優秀賞に選ばれるなど、評価も高い。レキオ記者が、現役メンバーに映像制作にかける思いを聞いた。

もともと、別の映像制作会社に勤めていた城間あさみさん、澤岻健さん、故野村岳也さんの3人が集まりグループ活動を開始。2010年の法人化を経て海燕社を設立した。

海燕社の最初の活動は、1966年、野村さんが30代のときに久高島で行われていた秘祭イザイホーに密着した記録作品『イザイホウ』のDVD化と上映だった。撮影の翌年、野村さんが久高島にフィルムを持って上映に行ったが、上映会には神人(かみんちゅ)が一人も来なかった。「直接言われてはいないけど、見たくない、見せたくないという思いを野村さんは感じたみたいです」と城間さんは語る。それから40年の間『イザイホウ』は上映せずにいたが、1978年を最後にイザイホーが行われていないなどの点から、貴重な映像の上映に踏み切り、映画の普及活動を始めた。

2014年から「海燕社の小さな映画会」と称した映画の上映会をはじめ、今年で9年目に至っている。

「小さな映画会はこの事務所から始まったんですよ」と城間さん。見ると、壁にはスクリーンがある。上映していたのは野村監督作品『イザイホウ』と『ふじ学徒隊』の2作品。そのうち、お客さんからの要望があり、他の制作会社の映画も上映するように。より多くの人に作品を見てもらいたいという思いから、現在では県立美術館・博物館の講堂で上映を行っている。

『ふじ学徒隊』(海燕社提供)

撮影は丁寧に誠実に

映画の配給の他に、海燕社は自主制作映画・受注映像の制作も行う。依頼はほとんどなく、多くはコンペか市町村への企画を持ち込んだという。「残したい沖縄」をテーマに企画、調査をして、「誰も取材していないもの」もしくは「まだ映像として記録に残っていないもの」があれば、各市町村に問い合わせて映像記録の提案をする。もちろん予算が出ずに作れないこともある。

『むんじゅる笠―瀬底島の笠―』(海燕社提供)

城間さんが監督を務めた『むんじゅる笠―瀬底島の笠―』は、麦わらと竹で作る日よけの笠「むんじゅる笠」の瀬底島唯一の作り手を追ったドキュメンタリー映画だ。この企画も、自ら地元市町村に持っていったそうだが、予算的に難しいとのことで断られたという。しかし、「これに関しては待ったなしだ」と思った城間さんは独自で撮影を決行。クラウドファンディングで資金を募り、最終的に目標金額の210万円を大幅に超えた254万1000円もの支援金が集まった。

2022年制作の『うむい獅子―仲宗根正廣の獅子づくり―』では、過去に豊年祭を撮影し、つながりのあった八重瀬町志多伯獅子舞棒術保存会から声がかかり、文化庁の助成金で制作することができた。

『うむい獅子─仲宗根正廣の獅子づくり─』(海燕社提供)

「この2年で映画を2本作ったんですけど、自主制作映画は野村監督の『ふじ学徒隊』から10年たつんですよ」と澤岻さんは口を開く。

「資金面で苦しいとはいえ、好きなことを仕事にしている幸せな気持ちは毎日ある。ご縁を大切にして、一本一本大切に思っています」と城間さん。撮影は「丁寧に誠実に」を心がけているそうだ。

映像の可能性信じて

映画の撮影以外にも、運動会や学習発表会などの記録もしているという海燕社。コロナ禍に入りここ数年はできていなかったが、そういった子どもたちの成長の記録にも力を入れている。

DVDの制作・販売も行っている

「私は映像を作ることが幸せなので、映像に関することはなんでもやりたいんです。CMを作ってみたいですし、テレビもやりたいです。一番やりたいのはドラマです。沖縄の文化をフィクションで伝えるのにも挑戦したいなって思いますし、それができたらすごくいいなって思いますね」と城間さんはにこやかに話してくれた。

(元澤一樹)


2022年度文化庁映画賞(文化記録映画部門)優秀賞受賞記念特別上映会
『うむい獅子 ―仲宗根正廣の獅子づくり―』

11月26日(土)19:00~
県立博物館・美術館 講堂(3階)

料金:1000円

問い合わせ(海燕社)
TEL 098―850―8485
mail@kaiensha.jp
 

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(2022年9月29日付 週刊レキオ掲載)