歌への情熱は誰にも止められない 夫婦デュオ 剛&秀子


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夫婦一緒に歌声を響かせる

定年後、夫婦一緒に趣味でデュオの活動を楽しむ糸数剛(テノール歌手、ギタリスト)さんと秀子さん(ソプラノ歌手)。二人は、日本やイタリアの歌曲、オペラ曲、民謡などのレパートリーを中心に、県内各地で美しい歌声とギター演奏を披露している=那覇市首里赤田町のアルテ赤田ギャラリーホール

今年、金婚式を迎えた糸数剛さん(73)と秀子さん(72)は、音楽を共通の趣味として楽しむ夫婦。剛さんはテノール歌手兼ギタリスト、秀子さんはソプラノ歌手。二人は「夫婦デュオ剛&秀子」として、県内各地のホールやデイケア施設などで歌声を披露する。「私たち二人は、定年後の夫婦の在り方の一つのモデルになるのでは」と剛さんは笑う。

今年、結婚生活50年を迎えた剛さんと秀子さん。二人の出会いは、高校生の時にまでさかのぼる。首里高校で、共に吹奏楽部に所属していたのがきっかけだった。音楽が縁を結んだのは、いかにも二人らしいエピソードだ。

剛さんと秀子さんは復帰の年1972年に結婚(提供写真)

剛さんが大学を卒業した1972年、二人は結婚。剛さんは中学校の国語教師として勤務するようになり、秀子さんは専業主婦となった。

中学生の頃から歌うことが大好きだったという剛さん。多忙な教員生活の中、沖縄男声合唱団に所属し、趣味で音楽活動を継続した。

一方、秀子さんは、結婚後はいったん音楽から離れ、子育てに専念。

「その頃は、家に帰ると子どもの教育のことでけんかばかりしていました」と剛さんは当時を振り返り苦笑する。

定年後に二人で活動

そんな二人に変化が訪れたのは、子育てが一段落した40代の頃だった。

剛さんが歌う姿に触発された秀子さんは、自分も合唱団に入り、声楽を学び始めた。打ち込めるものができたおかげでけんかが減り、家庭が平和になったという。

しばらくは別々の合唱団で活動していたが、剛さんが2010年3月に定年退職し、歌手活動を本格的にスタートさせてから、「夫婦デュオ 剛&秀子」として同じステージに立つようになった。

老人施設のデイサービスでボランティアとして歌うという活動を軸に、 時にはホテルのチャペルで歌ったり、ゆいレールの車内で催されたボジョレ・ヌーヴォーの解禁のパーティーで歌ったり…。二人の活動の幅は広がっていった。

ことし10月、那覇市のパレット市民劇場で金婚記念演奏会を開催(提供写真)

結婚50年を迎えた今年の10月には、那覇市のパレット市民劇場で金婚記念演奏会を開催。日本やイタリアの声楽曲、オペラ曲、沖縄民謡などを剛さんのギター伴奏、ギター弾き語りを交えて披露する舞台となった。会場には、約200人の観客が足を運んだ。

性格は違えど情熱は同じ

「音楽がなかったら、結婚生活がここまで続いていたか分かならない」と剛さんは冗談交じりにつぶやき、「私たちは、定年後の夫婦の在り方の一つのモデルになるのでは」と言葉を続ける。

「お互いの性格は、まるで違う」と剛さんと秀子さんは声をそろえる。

剛さんは積極的で人前に出るのが好き、秀子さんは反対に控えめで裏方として人をサポートするのが好きなタイプ。実際、意見が合わず、衝突することも多いそうだ。

平均年齢73歳のロックコーラス隊「ONE VOICE(ワンボイス)」でも、二人は共にステージに立つ(提供写真)

性格は違うが、二人には共通するものもある。それは、歌への熱い思い。「歌への情熱は誰にも止められない」が二人のキャッチフレーズだ。

「人前で歌うことで、自分の声が磨かれていく。若い頃より今のほうが高い声が出ている。磨けば磨くほどいい声が出る」(剛さん)、「声楽はやればやるほど奥が深い。歌えば声が変わっていくのがうれしい」(秀子さん)。二人とも、そんな飽くなき向上心の持ち主だ。

秀子さんは、実は舞台に立つことに恐怖心がある、と打ち明ける。しかし、覚悟を決めて歌い上げた時に、えもいわれぬ達成感が得られる、と頬を緩める。

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「今後は、お互いソロ活動にも力を入れていきたい」と話す二人。

「歌うことが快感でしょうがない。いい声が出ると気持ちいい。100歳まで歌いたい」(剛さん)

「声楽は、やってもやっても課題が出てきますが、それがあるからやめられないのかもしれませんね」(秀子さん)

剛さんと秀子さんの歌への情熱は、これからも尽きることがない。
 

(日平勝也)

(2022年11月10日付 週刊レキオ掲載)