<知りたいエンタメ>10回目の記念大会、連続出場の初恋クロマニヨンが王者に「お笑いバイアスロン 2022」レポート


社会
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ステージやメディア出演、動画配信など活躍の場を広げている沖縄の芸人さんたち。彼らが年に一回しのぎを削る夏のお笑いの祭典といえば、おなじみですね。そう、<お笑い総合王者決定戦・エッカ石油「お笑いバイアスロン」>です。

記念すべき10回目を迎えたこの祭典は、コントと漫才の総合得点を競い合う全国でも珍しい賞レース。審査員は有名番組を手掛ける5人の豪華放送作家陣で、高須光聖さん(『水曜日のダウンタウン』他)、伊藤正宏さん(『ミュージックステーション』他)、内村宏幸さん(『LIFE!~人生に捧げるコント~』他)、中野俊成さん(『ロンドンハーツ』他)、鮫肌文殊さん(『世界の果てまでイッテQ!』他)が沖縄の芸人を採点し王者が決まります。今年の決勝戦は8月27日(土)に開催。コロナ禍による無観客が続いていたここ数年でしたが今年は2019年以来、3年ぶりの有観客で熱いバトルが繰り広げられました。(主催:QAB 琉球朝日放送)

(執筆:フリーライター・饒波貴子)

今年は10回記念大会ということもあり、多くの芸人がエントリー。約2カ月にわたっての予選を勝ち抜いたのは、すっとこどっこい・大自然・オリオンリーグ・しんとすけ・ノーブレーキ・知念だしんいちろう。敗者復活戦から勝ち上がった、人間ごっこらぼも加わりました。

そして歴代王者がシード枠で参戦。近年の活躍が目覚ましい初恋クロマニヨン、4年ぶりに出場する4連覇王者リップサービス、敗者復活戦からの優勝も記憶に新しいプロパン7、という強豪3組も名を連ね混戦が予想されました。

また今大会は、ファーストステージ「コント」の下位2組はセカンドステージに進めないという厳しいルールが導入され、これまで以上にシビアな戦いとなりました。

MCを勤めたのはQABの中村守アナウンサーと、『仮面ライダーエグゼイド』『ちむどんどん』などに出演し注目を集める沖縄出身俳優の松田るかさん。メモリアル大会を彩るMCの元で、戦いの火ぶたが切られました。
 

 

下位2組敗退、波乱のファーストステージ

ファーストステージ・コントのトップバッターは「すっとこどっこい」。護身術を披露する師範代と弟子をコミカルに演じました。弟子役プーキーさんの緊張した演技と、師範代役そばしょうさんの体を張ったツッコミが笑いを誘いました。

2番手は第8回の王者「プロパン7」。洋服店の試着室での息子と母のやり取り、というお家芸ともいえる日常的なシチュエーションで、けいたりんさん演じる母親がじゅぴのりさん演じる息子に「だんだんお父さんに似てきてるさ~」と話す初っ端のセリフで、会場の心をつかみました。

前年度王者であり、10回連続決勝進出を果たした「初恋クロマニヨン」が3番手に続きます。繰り広げられたのは、山城たかふみを名乗る2人組が山城たかふみを増やすための勧誘をするという摩訶不思議な世界。2人の山城たかふみが声を合わせるユニゾンのセリフ回しに、会場からは拍手笑いが生まれました。

4番手は前年度準優勝の「大自然」。優勝候補と注目される東京からの刺客であるこのコンビが演じたのは、お米で作ったヘルメットで打席に立とうとする高校球児とそれを注意する審判という独特のシチュエーション。沖縄出身ロジャーさんの「すまん、退場だ」や「ボンバーマンみたいだ」というバリトンボイスなツッコミで笑いを誘いました。

2014年~17年まで4連覇という偉業を成し遂げた大会のレジェンド「リップサービス」は、5番手で登場。文具売り場の試し書きコーナーで小説をつづる青年と、その物語のとりこになってしまった店員によるやり取りはショートストーリーのよう。綿密に張り巡らされた伏線を回収していく上質コントを披露しました。

6番手は決勝初進出の「オリオンリーグ」。先輩の結婚披露宴でのあいさつを、三線を使った沖縄らしいコントに仕上げました。陽気なキャラクターは観客席にも伝わり、一体感が生まれる場面も。東京で活動し、2年前に拠点を故郷・沖縄に移した2人。「適した場所でちゃんとやれている」という玉代勢さんのコメントが大きな笑いを誘いました。

続く7番手は、第1回大会銅メダル・第7回大会銀メダルの「しんとすけ」。軸になっていたのは、「よいではないか」一辺倒の侍と芸者のもどかしいやり取りです。小道具の巻き物を上手く使った展開と息の合った掛け合いで、会場を笑いに包みました。

(C)QAB

敗者復活枠から視聴者投票で勝ち上がったトリオ、「人間ごっこらぼ」が8番手の登場でした。武闘家の師匠と弟子が織り成す緻密なコント。目隠しをして落とした物音で何が落ちたのかを当てる修行シーンで、バナナを「フィリピン産」と兄弟子が一発目に当てた瞬間から、期待がふくらみました。普段は吉本新喜劇で活躍している3人だけあってテンポが良く、それぞれのキャラクターが生きていると感じました。

9番手は大会常連コンビで過去の銀メダリストでありながら、3年ぶりの参戦となる「ノーブレーキ」。無人島に漂流したカップルが別れ話をするという、日常と非日常が融合する独特の世界観を演じます。ブーブーさん演じる彼女がどんどんかわいく見え、チキンナゲットの登場で前回披露したコントの伏線回収をイメージさせるなど、会場をずっと沸かせていました。

ファーストステージの最後を飾るのは、3年連続ファイナリストで唯一のピン芸人「知念だしんいちろう」。忍者になりたい人向けの説明会でマイクをとる沖縄県忍(しのび)の課主任を務める古謝忍を演じました。「ニンです」という決めぜりふがクセになる笑いを生み出し、ありえないシチュエーションながら本当にありえるかも!? とだんだん思えてきます。見る側を引き込むしんいちろうさんの高い演技力に、ピン芸人の技を感じました。

中間発表1位は前年王者、初恋クロマニヨン!

ファーストステージが終了し、視聴者による3連単順位予想が発表されました。
1番多かったのは1位:リップサービス、2位:初恋クロマニヨン、3位:プロパン7の順番です。果たして視聴者の予想通りになるのか!? 注目の中間発表です! その結果は・・・

10位:すっとこどっこい(425点)、9位:人間ごっこらぼ(432点)、8位:知念だしんいちろう(434点)、7位:プロパン7(437点)、5位:しんとすけ(438点)、5位:ノーブレーキ(438点)、4位:オリオンリーグ(441点)、3位:リップサービス(443点)、2位:大自然(453点)、1位:初恋クロマニヨン(456点)になりました。

昨年度の優勝・準優勝・そして4連覇王者が上位に食い込んでくる白熱の展開で、セカンドステージの漫才へ。また新ルールにより、すっとこどっこい(10位)と人間ごっこらぼ(9位)は、ここで敗退になってしまいました。残念ではありますが堂々としたパフォーマンスで笑いを呼んだ2組に、会場からは大きな拍手が送られました。

昨年度王者の初恋クロマニヨンが力を見せつける形になった前半戦。ここまでの戦いを振り返り、審査員の伊藤さんは「初恋クロマニヨンは個性と合わせ技の両方を見せてくれました。ただ、他の芸人さんも面白かったので後半戦が楽しみです」と笑顔で語ります。

過去に後半の漫才で巻き返し優勝を果たすコンビもいましたので、勝負はまだ分かりません。さらなる熱い戦いが予想できる後半戦に期待がふくらみます。

1位と2位の得点差はわずか3点。3位以下も漫才の得点次第で逆転あり!? と思える状況の中、セカンドステージがスタートです!

やっぱり強い! 5年ぶり参戦のレジェンドコンビ

セカンドステージのトップバッターはコント8位で折り返した、知念だしんいちろう。

恥ずかしいことを言っていこう、という漫談を披露。24歳の時に痔になったという体験を赤裸々に、しかし恥じらうことなく語るしんいちろうさんの姿が共感を呼びました。

(C)QAB

2番手はファーストステージ7位のプロパン7。

モノマネを練習するからアドバイスが欲しい、というけいたりんさん。クレヨンしんちゃんのモノマネを披露しますがどんどんと話がすれ違い、ベテラン感あふれるテンポ良い漫才を見せてくれました。

続くのは、しんとすけ。

沖縄本土復帰50年にちなんで「ドラマを沖縄風にアレンジする」という入り口から、テレビ番組のロケで沖縄をアピールしていこうという漫才。しんさん演じるそば屋のオバーと首里のすけさん演じるディレクターの小気味良い掛け合いは、大きな笑いを呼びました。

(C)QAB

そしてノーブレーキも、沖縄色をふんだんに取り入れた漫才。

沖縄のなまりをわざとらしく会話に盛り込むあゆむさん、それに戸惑うブーブーさんのやり取りに引き込まれていきます。あゆむさんの「はじみてぃ?」(初めて)が爆笑を誘い、印象に残りました。

(C)QAB

5番手は紅芋タルトカラーのスーツに身を包んだ、オリオンリーグ。

地球が滅びるとしたら最後に何を食べるかなどの選択肢を提示する剛くんですが、どんどんトンチンカンな方向に。的確に修正していく玉寄勢さんのツッコミ力に、面白かったと審査員が評価していました。

(C)QAB

続いて、コント3位のリップサービスが6番手。

犬を飼いたいという榎森さんに、犬の気持ちを理解しようという金城さん。気持ちの乗った榎森さんのツッコミと、リップサービスらしい緻密な展開で段積みの笑いを作り上げ、場内の空気をしっかりつかみました。

セカンドステージ6組が終了したところで暫定順位を発表。6位:知念だしんいちろう(866点)、5位:プロパン7(870点)、4位:ノーブレーキ(874点)、3位:オリオンリーグ(876点)、2位:しんとすけ(879点)、1位:リップサービス(899点)という結果でした。この時点でメダル獲得が確定し、2位に20点差をつけたリップサービスが堂々の暫定1位に。そして最後の2組が登場します。

昨年度の1位、2位芸人が優勝争い

コントの順位が2位、去年は準優勝に終わった大自然が優勝に向かって舞台に立ちます。

野菜を食べ残した子どものところにどの野菜が怒りに行くか会議を開く、という独特の世界観で繰り広げられる漫才。カップ焼きそばのキャベツを演じるしんちゃんに、(野菜ではなく)「かやくだ!」と発すロジャーさん。独特の間合いの漫才に魅力されました。

終盤となったここからは、ネタ終了の時点で総合得点が発表されます。注目の大自然は・・・901点。暫定1位に躍り出ました!

ついに今年のバイアスロンがクライマックスを迎えます。緊張ムードに包まれた中、最後に登場したのはコント1位に輝いた初恋クロマニヨン。

高校野球の試合を舞台に、「9回に代打で出てきた元気な補欠の3年生」をテーマにした漫才を披露しました。監督・キャッチャー・バッターという役割りをそれぞれのキャラクターに生かして演じ切った見事なネタでした。

セカンドステージ全8組の出番が終了し、いよいよ第10回記念大会を制する10代目王者の誕生シーンです。注目が集まる中、初恋クロマニヨンの総合得点は・・・906点! 10代目王者に輝き、昨年に続いての連覇。3回目の優勝が決定しました。

金メダルにトロフィー、賞金を笑顔で受け取る初恋クロマニヨンの3人。数々の副賞も贈られ、ホッと安心した表情を見せながら「ありがとうございます」とお礼を述べました。

大会を総評して審査員長の高須光聖さんは「過去の優勝者が出演し、10回記念大会はグランドチャンピオン大会のようで豪華でした。そこで勝ち抜いた初恋クロマニヨンは、力がついたと思えました。他の方も選ばれて勝ち上がってきたので、来年も必ず出てきてほしいです」とコメント。「楽しい回でした」と締めくくり、熱戦の幕が降りました。

審査員・王者による振り返りコメント

生放送終了後の5人の審査員、10代目王者「初恋クロマニヨン」のコメントを紹介します。

高須光聖氏:みなさんの笑いで盛り上がり、久し振りに沖縄に来られた喜びもあり、ジーンと感動する大会でした。開催できたことがすごいと思っていますし、本当に面白かったです。

伊藤正宏氏:一昨年と昨年は無観客で戦っているみなさんの姿を東京で見ていましたが、今回はお客さんを前に表情が変わり楽しませてもらいました。10年前に初めて見た初恋クロマニヨンさんはあまり爪痕を残さなかった記憶ですが、「俺たちは面白い!」と言っていたのが印象的でした。今日もそのセリフが出てきたのでうれしく、ネタがとても面白かったです。沖縄のお笑いの歴史を今後も見ていきたいです。

内村宏幸氏:10回目ということで今までと違う雰囲気を感じました。連覇をかけた王者、過去の王者、東京からチャレンジしたコンビが最後の3組になり、熱い大会だったと思います。これからもより一層盛り上げてください。

中野俊成氏:リップサービスが戻り、大自然が東京からやって来て、二連覇をかけた初恋クロマニヨンがいて・・・放送作家の立場で見ても面白い番組でした。来年はどんな大会になるか楽しみにしています。

鮫肌文殊氏:この大会の10年の歴史は、初恋クロマニヨンの血と涙の歴史かもしれませんね。進化して完成形になり発明品まで生み出して、本当にすごいです。お笑いバイアスロンをやってきた意味があった、と実感しました。

 

<10代目王者:初恋クロマニヨン>

松田しょうさん:10年連続で出場していますので思い入れがありますし、10回大会で優勝できたことが本当にうれしいです。リップサービスに勝利することも目標で、初めてかなえることができました。連覇するのも人生初ですが、並大抵のことではなく本当に大変だと実感しています。実は勝ちたいというより「負けたくない」という気持ちが強かったので、負けなくて良かったと思っているんです(笑)。

新本奨さん:去年優勝してからの一年間は充実していましたが、今年は10年目という節目の大会で今まで以上に強敵ばかりでした。その中で勝てて気持ち良かったですし、絶対負けたくないという思いで挑んだことが結果につながりました。

比嘉憲吾さん:去年~今年と優勝し、2年間負けていないことになるのでこのまま逃げていきたい気持ちです(笑)。ありがとうございました

 

過去にはコロナ禍のため無観客で開催し、東京からリモートで審査を行うなど困難を乗り越えてたどり着いたのが、今回の記念すべき10回大会。沖縄のお笑いを10年にわたって活性化させてきたビッグイベントで、唯一連続出場を果たしている「初恋クロマニヨン」が王者の座を守り抜いたことに感動しました。

お笑い界の底上げを担う大会であり続けてほしいと今後の開催を願い、来年はマスク無しの入場で、観客全員大笑いしながら観覧できますようにと今から楽しみにしています。

お笑い総合王者決定戦「エッカ石油 お笑いバイアスロン 2022」(2022年8月27日開催)最終結果

1位:初恋クロマニヨン/2位:大自然/3位:リップサービス/4位:しんとすけ/5位:オリオンリーグ/6位:ノーブレーキ/7位:プロパン7/8位:知念だしんいちろう/9位:人間ごっこらぼ/10位:すっとこどっこい

饒波貴子(のは・たかこ)

那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい