一部地域では春の風物詩、海藻“モーイ”とは?【島ネタCHOSA班】


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毎年春ごろになると、やんばるではモーイという乾燥した海藻を売っているのを見かけます。「モーイ豆腐」という料理にして食べられているようですが、どんなものでしょう。詳しく知りたいです。

(名護市 黒猫ペー)

モーイとは、名護市の羽地内海周辺などで採れる海藻のこと。冬からだんだんと春らしくなるこの季節が、ちょうど収穫期です。方言では、複数種の海藻をまとめて「モーイ」と呼ぶのですが、今回はクビレオゴノリ、イバラノリと分類される2種に対象をしぼって調査していきます!

漁師さんに聞いてみた

やさしい磯の香りがするモーイ豆腐

「モーイ豆腐はこの地域ならではの珍味。冠婚葬祭の時に食べますよ」

そう話すのは、名護市の仲尾次漁港を拠点にモーイ漁を行う60代の男性。「モーイ豆腐」とは、乾燥させたモーイを煮詰め溶かした後で、寒天状となる性質を生かし、立方体に成形した料理。羽地内海周辺の地域では、家々に伝わり、昔から食べられてきました。男性の母親(大正15年生まれ)は、近海で採れる貝も混ぜ込み作っていたそうで、モーイ豆腐作りの名人として評判だったと懐かしみます。

男性は船で漁に出かけ、潜ってモーイを採取しています。水深は深くて4㍍程度。よく光の届く場所では成長が早く、1シーズンに2回収穫できる株もあるのだとか。

採取したモーイは、からまった砂や石などの異物を取り除きながら、乾燥させ出荷します。収穫方法が確立されていなかった頃は、何度も異物を取り除く作業が大変な手間だったそうですよ。きちんと乾燥させれば、数年間保存することも可能で、男性は「常備食のようなものだね」とも話します。

かつては、旧暦3月3日の浜下り前後になると、一般の人々も盛んに収穫をしていました。より良い状態のモーイを探そうと、浜辺で引き潮を待ちわびるおばあさんたちの姿が季節の風物詩になっていたそうです。

自然環境考えるきっかけに

モーイ(イバラノリ)が浅瀬に生える様子

次に調査員が連絡を取ったのは、海藻類を研究する当真武さん(沖縄県海洋深層水研究所初代所長)。モーイの植物としての特徴を詳しく聞きました。

クビレオゴノリとイバラノリは、海藻の中でも紅藻(こうそう)類と呼ばれるグループに属します。目に見えない胞子を水中に放出し増えていくんですって。3~5月にかけて収穫時期を迎えますが、水温の高い夏場は胞子の状態でサンゴ片や礫(れき)の隙間などに入り込んで過ごすそうです。冬場になるとそこから発芽し、採取できるほど大きく成長するのです。

胞子は自分で泳ぐことはできないので、クビレオゴノリもイバラノリも穏やかな流れがある海に生えます。成長にちょうど良い環境というのはとてもデリケートで、護岸工事や埋立てで、海中の環境が変化すると、漁場を回復することは難しいと当真さんは教えてくれました。例えば、豊見城市与根の海岸は、70~80年代まで沖縄島南部で数少ないモーイの産地として知られ、地域の人々が採取する姿も見られたそう。しかし海岸線の人工的な改変で環境が変化。現在はモーイが生育せず、それに親しむ文化も忘れられつつあるそうです。

乾燥させた状態のモーイ。話を聞いた名護市仲尾次の漁師さん宅で撮影

モーイに限らず、沖縄県内各地には、地域で採れる海藻を食し、生活に利用するという文化があります。昔から綿々と続いてきた文化に目を向けることで、「自然海岸を大事にし、できるだけ負担をかけない利用の在り方を考えてほしい」と当真さんは訴えます。新たなレシピ開発などで海藻食を盛り上げる取り組みも、自然保護と文化の存続、双方から有益になるのでは、と提案してくれました。

乾燥モーイはやんばる地域のスーパー、さしみ店、特産品を扱う施設などで、販売されていることがあります。まずはその風味を知って、地域に伝わる食文化や、自然との関わりを体験してみませんか。

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※モーイ=オゴノリ類、イバラノリ類は、県内各地で漁業権の対象となっています。一般の方々には、購入しての利用を推奨します

〈取材協力〉沖縄生物倶楽部


(2023年3月23日 週刊レキオ掲載)