伊江島の作物で作る郷土料理 ウムガムチ


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やわらかくスイート
島の知恵が生み出した一品を知る

ウムガムチとは芋を使った餅で、えんどう豆などのあんを包んだお菓子だ。島の外ではなかなか入手できない一品を紹介しようと、ウムガムチを製造販売する伊江島農産物加工株式会社の従業員たちが集まった。(右から)山城美智子さん、下門綾乃さん、知念鮎美さん、大城あゆみさん 写真・村山望

本部港から船で30分。伊江島は気軽に訪れることのできる離島だが、島外ではなかなか目にすることができない郷土料理があるのをご存じだろうか。その名はウムガムチ。紅芋やサツマイモで作った餅で、えんどう豆やそら豆のあんを包んだお菓子だ。島内で製造をする2業者を取材。そのおいしさや作り方、昔から伝わるお菓子への思いを聞いた。

芋を練り込んだ餅で、あんをたっぷり包んだウムガムチ。

軟らかい食感、上品な甘さ、一緒に蒸されるサンニン(ゲットウ)の優しい香りが魅力だ。現在、購入することができるウムガムチは3つのタイプに分けられる。紅芋を使い、鮮やかな紫色のもの。サツマイモを使った白いもの。同じく白だが、ひと回り大きめに作ったものは、行事の際に重箱に詰めたり、仏壇に供えるという。

ウムガムチは、かつては島内の各家庭で盛んに作られていた。作り手ごとにレシピが少しずつ違い、その家ならではの味があったようだ。しかし近年では、餅をこね、あんを作り、大鍋で蒸しあげる作業の煩雑さから、作られる機会は減少している。そのような状況で郷土の味を残し、伝えているのが今回取材した2業者だ。

断面にタッチュー

「伊江島農産物加工株式会社」のウムガムチは、半分にカットすると、断面に伊江島のシルエットが現れる。平坦な島と中心にあるタッチュー(城山)をイメージする形にあんが詰められているのだ。餅のなめらかな食感も魅力。紫色の餅には紅芋「ちゅら恋紅」、白色の餅にはサツマイモ「ちゅらまる」と、使用する品種にもこだわっている。島産の紅芋をお菓子用のペーストに加工するため立ち上げられた同社は、そのノウハウを生かし、ウムガムチ生産も始めたという。

伊江島農産物加工株式会社の「うむがむち」は、断面に伊江島のシルエットが見える。伝統的なウムガムチは豆を使ったあんを使うが、同社のサツマイモを使った餅(右)は独自にアレンジ。紅芋を使ったあんで、見た目と味に変化をつけている

餅の成形作業は、機械を導入して効率化する一方、生地の配合や蒸しの工程は、熟練した従業員たちの「職人技」に頼る部分が大きいそうだ。

近代的な設備を使いながらも材料は無添加。賞味期限は1日なので「伊江島に来ないと食べられません」と従業員・山城美智子さんが笑顔でアピールしてくれた。

伊江島農産物加工株式会社で製造されるウムガムチ。紫のものは紅芋を、白色のものはサツマイモを餅に混ぜ込み作られている。ひと回り大きいウムガムチ(右奥)は、島の伝統行事や法事に用いられるもの。同社ではカーサムーチー(左)の製造も行っている

3世代で手作り

家族でウムガムチ製造を行う大城もち屋。(右から)大城久子さん、春美さん、彩さん。久子さんがウムガムチには「シブヤムチ」という別名があると教えてくれた。シブヤとは絞る、の意味。豆のあんを絞り、水分を抜いていく作業から名付けられたようだ

「おばあのてづくり あんこもち」という商品名でウムガムチを製造するのは、「大城もち屋」。大城久子さんが約25年前に立ち上げた製造所だ。現在は嫁の春美さんが代表となり、孫の嫁である彩さんも加わり、3人で作業をしている。

久子さんのレシピは、自身の家族が作っていた餅を見て学んだもの。「うちの両親は明治生まれだけど、その年代の人たちも小さいころから親しんでいた。もっと古い時分から作られているものだはずね」。ウムガムチの歴史をうかがい知る情報を、さりげなく教えてくれた。

大城もち屋ではほとんどの工程が手作業。紅芋やサツマイモも自前の畑で収穫したものだ。久子さんは「こんなにめんどくさいから、若い人たちが作らんわけよ(笑)」と冗談を飛ばすが、完成した餅には、手間ひまかけたからこその温かみを感じた。

ウムガムチを成形する大城春美さんの手元。餅を小判形にしてから、あんを包むのが、きれいな球形に仕上げるコツなのだとか

芋や豆など、島で取れる材料を使い、先人たちが作り出したウムガムチ。そのことを思い浮かべ、春美さんは「伊江島の昔の人たちはすごいと思うよ」と感服する。歴史や暮らしの知恵も混ぜ込まれた一品を味わいに、島を訪れてほしい。

(津波典泰)


伊江島農産物加工株式会社

伊江村西江上16-1
TEL 0980-49-2185

※「うむがむち」の販売場所は、伊江島物産センター、城山お土産品店、島村屋観光公園、工場直売
 

大城もち屋

※ウムガムチは「おばあのてづくりあんこもち」の名称で、伊江島物産センターで販売中

(2023年6月1日付 週刊レキオ掲載)