基地問題で連日新聞やテレビで見聞きする「辺野古」「高江」という地名。機動隊と市民の衝突の場面の印象が強くて何となく近寄りがたい、怖い場所のイメージがあるのも正直なところ。でもどちらも自然が豊かな場所でもある。
7月最後の日曜日、ママ4人とその子どもたち4人で、名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立て工事が予定されている大浦湾、ヘリパッド工事で揺れる東村高江に行ってみた。

◆竜宮城みたいな海
「サンゴだ~!」「お母さん、見て~!」「ニモがいる!」。子どもたちの興奮した声が響いた。
名護市の汀間漁港をグラスボートで出航した私たちの眼下に広がったのはアオサンゴ。クマノミや小さな魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
それまで人見知りして一言も言葉を発していなかった娘も「黄色い魚がいるよ!」と大興奮。身を乗り出して海面をのぞき込んだ。
その名前の由来でもある青いサンゴも見えた。「竜宮城みたい」。5歳の女の子が思わず口にする。「そうだね~、竜宮城は沖縄にあったんだね~」。ママたちがほぼ同時に答えた。



「このアオサンゴは2000~3000年生きているんです」と船長は説明する。「沖縄にいながら沖縄のこと知らなかった。こんな自然があることを知ると守りたいって思う」。私たちと比べものにならない程、長い年月を生きているサンゴの美しさ、強さにママたちは畏敬の念を抱いた。
◆美しい海の現実
太陽の光を浴びてキラキラ輝く海面の向こうに何隻かの小さな船。漁船かと思ったら、抗議活動を監視する船だった。地元の漁師が沖縄防衛局に雇われて船を出しているのだ。「監視船の日当は5万円。15日出れば75万円。漁をするよりもうかる」。子どもたちが相変わらずはしゃいでいたが、その説明に船内のママたちは一瞬しーんとなった。
「生活していくためにはやむを得ない選択なのかもしれないけど、なんだか苦しいし、むなしいし、悲しい」。1人のママは複雑な表情を浮かべた。
大浦湾は山、川、海が連動し、独特の生態系を持っている。サンゴ礁だけでなく、ウミガメや絶滅危惧種のジュゴンもいる。沖縄の海でも赤土流出やオニヒトデの発生、サンゴの白化現象が起きているが、大浦湾はとても高い生物多様性を保っている貴重な海だ。
美しい海の側にはキャンプ・シュワブがあり、新基地建設が進められようとしている。海が埋め立てられれば、潮の流れが変わり、海中の環境に大きな影響が出ることは確実だ。

◆高江へ
お昼は各自持って来たお弁当を食べるため、高江へ。物々しい雰囲気を想像していたが、この日は日曜日で工事が休みだったため、警備員も少なく穏やかだ。
元からあったテントは数日前に撤去されたが、道の反対側にテント1張りが設置され、木陰にはベンチもある。
ベンチに腰掛け、お弁当を広げる私たちに、「ハブに気をつけてくださいね」と説明係の女性が話す。
この日の朝、テント近くの茂みから小さいハブが出たそうだ。すると沖縄の機動隊員が迅速に対応してくれたという。「機動隊の人の目もキラキラ、動きもきびきびしていて」「頼りになりましたよ」。そのときの様子を見ていた人が教えてくれた。

子どもたちは昼食もそこそこに遊びたくて仕方がない。9歳の男の子は虫取り網を手に持ち、生き物を捕まえる気満々。「見つけた!」。視線の先にはキノボリトカゲ。あっという間に捕まえた。トカゲの観察会が始まり、最初は怖がっていた子も最後には触れるように。
木と木の間には持参したハンモックをつるした。すっぽりとハンモックの中に入り、ゆらゆら揺れる子を見て、ほかの子は「『そらまめくんのベッド』(注・絵本のタイトル)だ~」「えだまめがいる」とはしゃぐ。



子どもたちがはしゃいでいるすぐ側の道路では長袖にサングラスの警察官が立っていた。7月11日に再開されたヘリパッド建設工事を進めるために全国から集められた警察官だ。
自分たちが楽しく遊んでいるのに、道路にずっと立っている大人の存在が、子どもたちの目には不思議に写ったようだ。「おじさんたちも一緒に遊べばいいのにね」と話す声が聞こえた。

「ハンモックすごく楽しそうですね」。警察官の1人がそう話していたと帰り際にテントの管理人が教えてくれた。
工事を進める側と阻止したい側と分断されるテント前だが、子どもの笑い声に温かい気持ちになることや子どもたちの笑顔を守りたいという思いはきっと共有していた。

県民同士が対立させられるつらい現実もある。でも美しい自然があり、自分の住む地域に誇りを持ち生きている人たちがいる。そんなことを感じた一日。
「沖縄のことがもっと好きになった」。そう話しながら那覇へ帰った。
《東村高江》
沖縄本島北部の「やんばる」と呼ばれる地域にある人口140人の集落。美しい山と川に囲まれる自然豊かな場所だが、米軍北部訓練場と隣り合わせ。日米両政府は米軍北部訓練場の半分を返還する条件として、返還予定地にあるヘリパッドを高江周辺に移設することで合意。オスプレイも離着陸するヘリパッドの中心点は県道から150メートル、一番近い民家まで約500メートルしか離れていない。

~この記事を書いた人~
玉城江梨子(たまき・えりこ) 琉球新報style編集部。今年3月までは編集局社会部の記者(=紙の新聞の記者)として医療・福祉や沖縄戦などをテーマに取材。