小さな、個人的な学びから やんばるからの手紙(22)

  • 北部
このエントリーをはてなブックマークに追加
大浦湾で、フラのステージ前に

 「渦」の研究者である、江本伸悟さんの私塾「松葉舎」。ここでは高校生から大人まで、自分の学問の中心となる主題を見つけ、それについて深く掘り下げ、発表することを「授業」と定義している。

 従って、個人の学びたいことならどんなジャンルでも構わない。数学や物理であろうと、ファッション、写真、建築であろうと、自分たちが不思議だ、面白いと思う「森羅万象」を通して、それぞれの研究を有機的に結びつけていく、といった実に柔軟でアカデミックな塾だ。

 彼の親友である、独立研究者の森田真生さんも、「数学の演奏会」と称して数学の味わい深さを教えてくれる。彼の話を聞いたら、かつて「数学嫌い」だったことが悔やまれるほど、数学の「文学的」な情緒に心打たれる。そして、独自の鮮やかな分析、その視点からたくさんの著書がある内田樹さんも、武道と哲学研究のための私塾「凱風館」を主催している。最高な知性を持つ人たちが、こうした個人的なスペースで学問を発信している。

 誰のためでもなく、自分のための学問に専念するということは、想像以上に難しいのかもしれない。権威ある研究室も、学校も、上からの許可が下りた「部分」以外を自由に教え教えられることは許されない。このように、いつの間にか学びは細分化され、まるで脳の中に小引き出しがあるかのような錯覚を起こす。

 それはまさに西洋医学的であり、総合病院に行けば「内科」「耳鼻咽頭科」など、まるで自分の身体がパーツ分けされるような居心地の悪さを感じる。もちろん、西洋医学で受けた恩恵は計り知れない。

 けれど、「人間部品産業」がめまぐるしく勢いを増す中、「身体と心のつながり」という神秘の森を荒廃させてはならない、とも思う。

 アインシュタインは研究資金を大学に頼ることなく、家庭教師をしながら、ここに集う生徒たちと「オリンピア・アカデミー」を開催していた。読書の輪読や談義を通して、先生と生徒が一緒になって新しい常識、新しい世界、そして新しい自分を立ち上げていく。相対性理論は、このようなおおらかな学問の現場から生まれた。私も微力ながら3人の母ゆえ、現在進行形の学びの形が気になる。そしてあわよくば一緒になって、ワクワクどきどきしたいと期待している。

(元フードコーディネーター)

(2016年12月13日 琉球新報掲載)



根本きこさん

根本きこ(ねもと・きこ)

  1974年生まれ。2003年逗子市に「coya」を開業。カフェブームの先駆けに。東日本大震災を機に2011年3月閉店し、沖縄県東村に夫と子ども2人で移住。現在は名護市に暮らす。2013年4月から琉球新報でコラム「やんばるからの手紙」を好評連載中。雑誌にエッセーを連載、著書「島りょうり 島くらし」「おとな時間」など多数ある。




前の記事SMAP タモリ出演で浮上した「...
次の記事ありのまま生きる 安冨歩さん(東...