「裸足で逃げる」著者・上間陽子さん(琉大教授)に聞く〈5〉他者に対する想像力を女性の中から

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「彼女」は「あなた」

インタビュー 第四回『相手の言葉引き出すための言葉磨く』はこちら


-本では、出産を控え、生活保護の申請を相談した優歌さんを役所の女性職員が冷たくあしらった日のこと、見知らぬ男たちからレイプされ、後に恋人の子どもを中絶する亜矢さんを女性医師が見下すような態度を取る様子を書いています。

 同族嫌悪だと思いますが、調査でお会いした生活保護課の30代、40代の女性、40代の女医に対して、私は強い怒りを感じ続けています。

 市役所に正規で勤める女性、医者は、沖縄ではまちがいなく特権層です。その人たちが、自分よりも年若い女性のことを、問題化し、裁こうとする。あなたの育った生活が安定していなくて、あるいは親がいなくて、あるいは安心できる場所がなければ、彼女たちはあなただったかもしれないのに。

 他者に対する想像力を、まずは女性たちの中からつくりたい。そしてその時に必要なのは、「女性の身体」だと思いました。

 彼女たちの身体がどう動くのかを軸に、私たちが過ごしてきた時間を書くことで、彼女たちの身体は、私たちの身体でもあるのだ、という思いを込めました。

 亜矢さんが中絶の後に、家に帰って身体の中からガーゼを取り出すように看護師に言われた時のことは後から書き足しました。最初は、この日のこのやりとり自体が痛ましすぎて、書けませんでした。

 でも、彼女たちの姿や身体がどうなっているかということについては書き込むことにしました。それはすべて、女性たちに、あなたと同じような身体を持った女の子たちのことを考えてもらいたい、という思いからです。私だったかもしれないし、あなただったのかもしれないと伝えたい。

-本の中で「早く大人にならなくていいよ」とおっしゃっていますね。

 今もずっと思っています。早く大人にならなくていい。20歳過ぎるくらいまでゆっくりでいい。社会はなんとなく大丈夫だって、自分のことを変にいじめたりしないだろう、そして私には私のことを大事に思ってくれる人がいる、私はなんだか大丈夫って、そう思えるようになるまで。

 責任を持てるようになるには、責任の空白地帯が必要だと思います。責任を持っていない状況があるから、その責任を引き受けるか、引き受けないのか考えることができる。

 風俗で仕事をしている女性たちを見ていたら、こんなに若いのに、選択の余地なく多大な責任を持たされている。そして本人たちも持とうとしている。そんなの無理でしょう、と思っています。それは彼女たちにとっても無理ですし、社会の存続にとっても無理です。

 彼女たちが持ちこたえられない時、どうなるか。誰にも助けてと言えないまま、放棄するでしょうね、責任を。そしてそれはそのまま社会不安となります。だから、子どもを、きちんと権利を持った主体として、しかし失敗が許されて、試行錯誤ができる存在として育てないといけないのです。

 

フェンスの暴力性


-表紙を見て、亜矢さんが見知らぬ男たちから、春菜さんが客から暴行された後、帰ってきた時に目にした風景が、こういう街の風景だったのかと想像しましたが、写真家の岡本尚文さんに写真を依頼した理由について聞かせてください。岡本さんの作品についてどうお思いかも。

 岡本さんの写真は、一見すると美しいのに、意味がそこには重層的にある。フェンスで分断されている街は、逃げ場がない。フェンスは基地を守るもので、女の子たちを守るためにあるのではないからです。岡本さんは沖縄の今の状況に恐らく憤っている。でも、それを押し込めて作品として昇華している。どこからも助けがやってこない夜の冷たさと、基地と共存させられてきた街の暴力性を描いていると思います。

 女性たちゆかりの場所は、必ず訪れて歩きますが、あらためてフェンスの暴力性を強く感じました。でも女性たちの個人の生活を目的にしていたので、基地のそばで育つ暴力性については書きませんでした。

 ただこの本自体、昨年の元海兵隊員の殺人事件が起こった後、書こうと思ったものです。これまでのように、調査で聞いた痛ましい話を書かないという選択をするのは、もうやめようと思いました。

 執筆の半年間考えていたことは、沖縄の女性が、どうしてこんな風に生きてしまっているのか、です。それは、占領軍とともにある沖縄の歴史と関係している、少なくとも風景として、それは彼女たちの生活に映り込んでいると思います。私はそれを直接の主題にはしなかったのですが、岡本さんの写真は、その思いを代弁してくださるものだと考えています。

 



 うえま・ようこ 1972年沖縄県生まれ。琉球大学教育学部研究科教授。専攻は教育学、生活指導の観点から、主に非行少年少女の問題を研究。1990年代後半から2014年にかけて東京で、以降は沖縄で未成年の少女たちの調査・支援に携わる。共著に「若者と貧困」(明石書店)。本書が初めての単著となる。



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