カナダから沖縄にやって来たライブハウスオーナー「音楽でつながる空間に」 『Remy’s』レミさん インタビュー


カナダから沖縄にやって来たライブハウスオーナー「音楽でつながる空間に」 『Remy’s』レミさん インタビュー
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屈強な見た目と人懐っこい笑顔のRemy’sオーナー・レミさん=沖縄市

 『音楽の街、コザ』。戦後、沖縄民謡の優れた唄者を多く輩出し、ベトナム戦争時には戦地へ向かう米兵たちを鼓舞するパワフルな「オキナワンロック」を築き上げてきた沖縄市。

 今も多くのライブハウスが軒を連ね、音楽文化の発展に街を挙げて力を入れているこの場所で、最新鋭の設備を揃えたライブハウスのオーナーを務めるカナダ人がいる。

 屈強な見た目とは裏腹に人懐っこい笑顔で『多くの人が音楽を通してつながる空間を作っていきたい』と夢を語るのは、Remy’sオーナーのレミさん。

 生まれ故郷から遠く離れた沖縄に根を下ろし、「音楽の街」を彩る。人々を惹きつける理由はなんなのか。レミさんに迫った。

1年の半分が「冬」の街から

FUJIYAMA時代から引き継がれたネオン看板

―自己紹介をお願いします。

「Rameen Thomas Molaviと言います。皆にはレミって呼ばれています。カナダ出身の33歳です。沖縄市のゲート通りにあるRemy’s というライブハウスのオーナーをしています」

―いつ沖縄に来たんですか?

「2003年に沖縄に来ました。最初はワーキングホリデーで、英語教師になるために訪れました。僕はずっとカナダから出たことがなくて、小さい時から生まれ育った街から出てみたいと思っていた。1年の半年以上が冬の何もない街(笑)。19歳の時に、『どこか飛び出すなら今しかない』と思って、通っていた大学を退学しました。そこから資格を取って、英語教師を目指すことにしました」

「その当時は、少し働いたらまたカナダへ戻ろうと思っていました。その後に復学しようと考えていて、そのためのお金も必要だったので、給料が良かった『韓国・サウジアラビア・日本』の中で、一番惹かれた日本に行くことに決めました。日本の伝統文化や若者のカルチャーにはずっと興味がありましたから。日本語は一言も分からない状態だったけど、ワクワクした気持ちの方が勝っていたので日本行きを決意しました」

「日本各地の英会話教室に応募したんですが、一番積極的に応えてくれたのが沖縄の英会話教室でした。沖縄について調べてみると、日本の最南端の島で亜熱帯気候。カナダとは正反対の環境でした(笑)。『サイコー!これは行くしかない!』と思って、沖縄で働くことを決めたんです。魅力的な文化がたくさんある島だということが分かって、すぐ国へ戻るつもりでしたが、住み続けると沖縄の魅力に取りつかれて、気づけば今日に至ります(笑)。

 住み始めて3年が経った時、『20代のうちに大学を出たい』という気持ちが出てきました。僕の夢は経営者でしたので、大学で学ぶ必要があったんです。まず沖縄大学の留学生コースで日本語を1年間学び、沖縄国際大学の産業情報学部企業システム学科で学びました」

 

老舗ライブハウス「FUJIYAMA」との縁

FUJIYAMA時代の海外アーティストサイン入りのギター

―いつから音楽に関わる仕事を始めたんですか?

「学生時代、アルバイトで米軍基地の中でバーテンダーとして働いていました。お店で多くの人とつながることがとても楽しくて、『いつか自分のバーを持ちたい』と思うようになりました。また、当時僕はいろんなパーティーを企画したり、イベントの幹事をする機会が多かったのですが、そこで皆が楽しんでくれるのが嬉しくて『自分のバーを持ったら、イベントも出来る場にしたい』と考えるようになりました」

「ある日、常連さんにバーをやってみたいっていう相談をしたところ、『沖縄市にあるFUJIYAMAっていう店のオーナーが譲り手を探している』という話をしてくれました。その日のうちにすぐオーナーに会いに行って、店の雰囲気を見に行きました。

 広さや、設備など僕の求めていた全てがそこにあって、『ここなら自分のやりたいことが何でも出来る!』と思い、その場で権利を買いました。行動してから決断まで、本当に早かった(笑)。

 でも、その時そこがライブハウスだという事を知らなかったんです。バーとしてオープンするつもりだったけど、箱を空けてみたら老舗の有名なライブハウスだった」

「音楽はずっと好きだったけど、ライブハウスには行ったことがなかったんです。前オーナーの最後の主催イベントがあり、引き継ぎも兼ねて初めてライブに遊びに行きました。これが僕の人生の中でも革命的な1日でした。その時のライブを見てかなり感動しました。バンドの持つ熱量に対して大きな衝撃を受けたのを覚えています。

 それと同時に「こんな歴史ある場所のオーナーになってしまった…」と事の重さを知ったんです(笑)。その時、絶対頑張ろうと決めました。僕は新しい何かにチャレンジするのが本当に大好き。ゼロから音楽に関わる全てを勉強した自分の中でとても大切な3年間でした」

 

例えば「日本人の学生と40代のアメリカ人がつながる場」

―今のRemy’sは、FUJIYAMAの移転という流れで出来たのですか?

「当時、FUJIYAMAは、建物自体かなり古くなっていて、雨漏りや電気系統の問題も年々増えていました。またキャパシティも大きくて、もう少し程ほどよいサイズのライブハウスを作りたいと思っていたので、同じゲート通りにある別の建物へ移転することを決めました。

 半年かけて内装など全て自分の手で作って、思い描いていた夢のライブハウスを作ることができました。2014年10月にオープンして、当時は2階のみでの営業でした。それだけじゃキャパシティが小さいと感じたので、ピザ屋にする予定だった1階のスペースもつなげようと思って、そこもまた急ピッチで作り上げました(笑)。

 今では1階バースペース、2階ライブスペースという海外では定番のライブハウスの形で営業しています」

 

入り口部分のネオンサイン、奥はライブスペースへつながる
音響と照明が連動

―Remy’sの特徴やこだわりは?

「こだわっているのは音響と照明。様々なジャンルの音楽に対応出来るライブハウスを作りたかったんです。照明も音に合わせて自動で連動するシステムを、自分で作りました。

 音響も初めは素人だったのですが、今はインターネットで何でも勉強することができます。例えばYou tubeを開けば、世界中の一流の腕を持つ人たちが自分の知識を惜しげもなく話して解説してくれる動画がたくさんあります。僕はそれを授業料も払わずに、彼らのレッスンを受けているのです(笑)。

 一番為になったのは、世界的に有名な※1 Red Hot Chili Peppersの専属音響スタッフの解説動画です。超一流のバンドのスタッフからのレッスンなので、本当に勉強になります。この便利な時代に生まれて本当によかった(笑)」

 

お酒にもこだわるバースペース

―Remy’sは、嘉手納基地が目の前にあるコザ・ゲート通りにあるのですが、アメリカ人たちとの接点などはありますか?

「FUJIYAMA時代のお客さんは、ほとんどがアメリカ人だった。当時お店は、米兵たちの中で『お酒も音楽も楽しめる場所』として知られていました。彼らはイベントに関係なく、ふらっと遊びに来て音楽を楽しんでいました。軍人って入れ替わりが激しく、2年間しか沖縄にいないんです。その中で新しい兵士の人が沖縄に来たら、先輩たちがFUJIYAMAに遊びに連れて来てくれて、どんどん新しいお客さんが増えていくっていう流れがあったんです。ただ不祥事で米兵の禁酒令が続いたのと、Remy’sへの移転のタイミングでその流れが止まっちゃたんです。

 Remy’sオープン当初のお客さんは、ほとんど日本人でしたけど、お店も落ち着いてきて前みたいに多くのアメリカ人たちも遊びに来てくれています」

「僕の目標の1つに『多くの人が音楽でつながる場にしたい』というのがあります。例えば、普段つながることのない日本人の学生と40代のアメリカ人が、同じ空間で音楽という共通点を通し感動して仲良くなる。そんな光景を見るのがとても好きなんです」

 

お酒にもこだわり、テラスでバーベキューも!

店の音響オペレートはレミさんが務める

―今、沖縄で気になる、応援したいアーティストはいますか?

「もちろんいます!でも、ライブハウスオーナーっていう立場なので名前を出すのは秘密にします!(笑)。音楽にこだわっているのはもちろんだけど、『音楽シーンを盛り上げたい』っていう姿勢で動いているアーティストは応援したいって思います。自分の事だけを考えていたら、せっかくの魅力が縮んでいくと思うんです。熱意を持って行動して、沖縄の音楽シーンに還元したいっていう気持ちのアーティストはサポートしたくなりますね」

―今後チャレンジしたいことはありますか?

「2階のライブスペースは思い描く空間になってきたんですが、1階がまだ納得いっていません。なので、バースペースにもっと力を入れていきたい。ほとんどのライブハウスって、バーっていうよりはドリンクカウンターっていう認識じゃないですか。『プラスチックのコップにペットボトルから飲み物を入れて渡す』みたいな。Remy’sはせっかくバーがあるので、冷えたグラスに飲み物を入れたり、お酒もこだわって作っています。ライブがない日でも、皆が飲みにいきたいなと思えるバーにしようと思っています。

 少しずつパワーアップして、1階も更に楽しめる場所にしていきます。最近から隣接しているテラスでバーベキューも出来るようになったんですよ!」

「それと沖縄にあといくつかライブハウスを作って、日本中や海外からのバンドが沖縄ツアーをしやすいような体制を作りたいという目標もあります。世界中のバンドが『Remy’sでライブをやりたい!』って言ってもらえるようなライブハウスにするのが最大の夢ですね。

 自分は英語が話せるので、アジアやヨーロッパなど数多くのバンドと出会って、サポートできるようになれればと思います」

 

「世界中のバンドがRemy’sでやりたいといわれるライブハウスに」と語るレミさん

※1 Red Hot Chili Peppers:アメリカ合衆国カリフォルニア出身の4人組バンド。ファンク、ハードロック、ヒップホップなど多様な音楽を合わせた世界的ミクスチャーバンドの1つ。2012年にロックの殿堂入りを果たした。

Remy’s(レミーズ)

〒904-0031
沖縄県沖縄市上地1-4-1
営業時間 20:00~(イベントによって変動あり)

Facebookページ:https://www.facebook.com/remysokinawa?pnref=lhc
Twitterページ:https://twitter.com/remysokinawa

 

聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)

 音楽と湯の町別府と川崎フロンターレを愛する92年生。18歳からロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作っている人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。沖縄市比屋根出身。