あちこーこーの豆腐 やんばるからの手紙(40)

  • 北部
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今帰仁村の棚原豆腐店のずっしりした豆腐

 もしも、厚労省や保健所の役人さんと飲む機会があったら、ぜひ聞きたいことがある。「あなたの好きな食べ物は何ですか?」と。

 個人的に、沖縄の食材の中でも3本の指に入るくらい好きなものが「島豆腐」。それも、あちこーこーの豆腐を何もつけないで食べるのが最高。しょうゆもネギもショウガもいらない滋味深い味わい。

 しかしこの島豆腐が、「食の安全性」という面から、お役所のやり玉に上がっている。どうやら、痛みやすい(菌が繁殖しやすい)のが原因らしいが、そもそも「傷んでいるかどうか」を、五感を使って確かめられるということが、食の安全に役立つのではないかと思っている。

 見た目や匂いや手触りや味などで、「あ、もうダメだな」と分かることの必要性。もし豆腐の表面がぬるぬるしていたら表面だけを薄くそぎとって中身だけを使うとか、買ってもすぐに食べられないようだったら厚揚げにしてしまうとか、塩麹(こうじ)やみそで豆腐の表面を覆って豆腐チーズに加工するなどの工夫。そういったひと手間が結果的に台所を豊かにし、菌と上手に共存する人間の知恵なのではないか。

 人間の体は90%以上菌でできている。いい菌もそうでない菌もどちらもそれぞれ異なった役割があり、そのすみ家である体の持ち主(人間)は、自分に備わっている本能を使って菌のバランスを自然と保っている。

 それがどうだろう。「衛生面に問題がある」という理由から、あちこーこーを排除して、パック入り豆腐を製造するように推し進めているのだ。豆腐屋さんはそのために、プラスチックのパックを買ったり密閉する機械を買ったりと、あらたな設備投資を余儀なくされる。役人さんらの鶴の一声で、「食文化のおいしさ」が失われるなんて、ほんとうにやるせなくて涙が出てくる。

 どうやら野外マーケットの保健所チェックも年々厳しくなっているようで、ある珈琲(こーひー)屋さんがお祭りで「ひきたて珈琲」を出そうとしたら、「コーヒー豆をひく」という作業工程が保健所ルールに引っかかるらしく、出店を取りやめになったとか。きっとこういう規制を作る人は、これまでおいしい珈琲を飲んだことがないどころか、珈琲豆を高温で焙煎(ばいせん)するということも知らないのかなぁ。このまま食の興味がない人たちがこうした食のルールを決めていくとしたら、この国は実に味気ないものになっていく。

(元フードコーディネーター)
(2017年4月25日 琉球新報掲載)



根本きこさん

根本きこ(ねもと・きこ)

  1974年生まれ。2003年逗子市に「coya」を開業。カフェブームの先駆けに。東日本大震災を機に2011年3月閉店し、沖縄県東村に夫と子ども2人で移住。現在は名護市に暮らす。2013年4月から琉球新報でコラム「やんばるからの手紙」を好評連載中。雑誌にエッセーを連載、著書「島りょうり 島くらし」「おとな時間」など多数ある。




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