沖縄から世界へ 俳優・尚玄 映画「ココロ、オドル」で伝えたいこと


沖縄から世界へ 俳優・尚玄 映画「ココロ、オドル」で伝えたいこと
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「『沖縄から世界に発信したい』―。そんな仲間でつくりあげた作品です」

 凜とした気高い顔立ちが、一瞬にして柔らかい笑顔に変わった。東京を拠点に、国内外の映画やドラマに出演するなど活躍の場を広げてきた沖縄県出身の俳優・尚玄さん(38)。

 座間味島で撮影した長編映画「ココロ、オドル」(岸本司監督)の話題になると、心が解きほぐされていくようだ。

「今できることを全て注ぎ込んだ」という作品の見どころや、沖縄へ思い、今後の野望について話を聞いた。

(聞き手・佐藤ひろこ)

 

オムニバス3編
根底に流れるテーマは「親子」

―映画「ココロ、オドル」で主役の「雄飛(ゆうひ)」を演じられました。吉田妙子さん演じる「花城ハナ」の孫という設定です。雄飛はどんな男ですか?

 本当に真っすぐで、曲がったことが大嫌い。喜怒哀楽も激しくて、他人をつい怒らせてしまう。でも、ちょっとおっちょこちょいなところもあるし、おちゃめなところが好きだなぁと思います。自分と結構似ているかな。なので割と自然体で演じられました。

 

―2015年に制作された短編映画「こころ、おどる kerama blue」の長編化です。撮影に際して、意識したことはありますか?

 短編は30分の短い尺ということもあり、テンポが早く、コメディーの要素も強かった。長編化となった今回は、雄飛のバックグラウンドを掘り下げることができました。短編の時にも感じていた『雄飛が両親と共に生活せずに育った』という家庭環境を、今回の長編ではキャラクター作りに生かしました。

―作品のテーマにつながる視点ですね。

 今回の映画は3つのエピソードが交わるオムニバス形式ですが、3編を通して『親と子』がテーマになっています。新たに命を宿す夫婦、離れ離れになってしまった親子、血のつながらない親子…。作中にはいろんな親子関係が描かれています。

 例えば2話では、自分の息子を置いて“内地”に行ってしまった雄飛の幼なじみが、やがて子どものために島に戻ってきて再スタートするというエピソードがあります。でも、雄飛自身はおばあちゃんに育てられている。そんな雄飛が幼なじみに対してどんな感情を抱くのか…。

 ある意味、観客の目線になるのが雄飛だとも感じていたので、『自分が雄飛だったら…』と考えながら、それぞれの登場人物に素直に向き合い、作品をつくりあげていきました。

 とはいえ、岸本監督はユーモアがある脚本を書くのが抜群なので、その世界観は大事にしましたよ。

 

2度目の座間味 雨男は…!?

―短編映画の撮影に続いて、座間味島での撮影は2度目となりました。印象に残っていることはありますか?

 島の方々は前回より明らかにウェルカムでした(笑)。それは短編を気に入ってもらえたということだと思うので、とてもうれしく思いました。だからこそ島の人に感謝しながら撮影を進めました。

 実は監督が雨男なんですよ~(笑)。撮影期間の約2週間強、天気には恵まれなくて、一番晴れなきゃいけない場面でも土砂降りとかね…。でも不思議とスケジュール通りに進みました。

―座間味島の魅力は?

 撮影中は集中しているから、周囲のことはあまり意識できないのですが、休みの日に1人でジョギングをして島をまわったんです。自然の中に身を置いて、海の色はもちろん、草木の色や匂いを体で感じながら、『あ~、座間味に来てよかった』と思いました。

 

アイデンティティーは「OKINAWA」

―話は変わって、尚玄さんはパリやロンドンなどでのモデル活動を皮切りに、ニューヨークで芝居を学び、近年はマレーシアのテレビドラマに出演するなど、東京を拠点にしながら国内外に活動の幅を広げられています。沖縄出身というご自身のルーツをどう捉えていますか?

 海外で仕事をしていて出身地を聞かれるとまず、『OKINAWA』と答えます。もちろん日本の中の沖縄ではあるんだけど、僕の中では日本という以前に『沖縄』というアイデンティティが強い。『沖縄』って言っても知らない人もいるので、そんな時には沖縄の魅力を伝えるようにしています。

 沖縄の海や自然の素晴らしさはもちろん、琉球王国時代から受け継がれた独特の文化がある島なんだよって。本土の若い俳優と話していると、沖縄が1972年にアメリカから日本本土に復帰するまで、沖縄でドルを使っていたことすら知らない人もいるんです。僕も年を取ったな~って思いますよ(笑)。

―沖縄での仕事と、東京や海外での仕事は、ご自身の中で違いますか?

 匂いが違うよね。18歳まで育ってきた場所だから。海の匂い、雨上がりの草木の匂い…。自分の幼少期の記憶にコネクトされているから、ノスタルジックな感覚だけじゃなく、いろんな感情が呼び覚まされます。

 俳優になったばかりのころは、どれだけ美しい日本語で芝居できるかってことを追い求めてきたんです。だから、岸本監督の『アコークロー』でウチナーグチを使う役を初めて演じるときは、本当にやりづらかった。でも今は逆にうれしい。テンポ感がつかめるから。最近はウチナーグチで芝居をしている方が自由になれます。

 

「沖縄から世界に発信していきたい」

―ずばり、尚玄さんにとって「ココロ、オドル」はどんな作品ですか?

 沖縄の監督、沖縄のプロデューサー、沖縄のスタッフが一丸となって、愛情を込めてつくりあげた作品です。僕も脚本をつくるところから参加しました。まさに自分たちが今できることを全て込めた沖縄の手作り映画です。

―これからの目標、野望を聞かせてください。

 これまでもそうですが、沖縄を出たら日本も海外も一緒。『島の外』か『島の中』というだけの違い。自分が必要とされたところで、一生懸命に芝居をしていきたい。

『ココロ、オドル』を通して、“沖縄から世界に発信していきたい”という意識をもった多くの仲間に出逢うことができました。今は東京をベースに活動していますが、これからはもっと沖縄から発信できることを模索していきたい。沖縄からアジアに出ていってもいい。最近は東南アジアとの合作も増えてきたしね。英語で芝居をしてきたことが僕の強みでもあるから。

 とにかく今は、まず映画『ココロ、オドル』を多くの人に観ていただきたいです。

 

 尚玄さん主演、岸本司監督の長編映画「ココロ、オドル」は3月に撮影を終え、5月現在、編集作業の大詰めを迎えています。映画祭への出品を経て、2018年夏に沖縄公開を目指しています。

 地元・沖縄での上映を成功させて全国上映につなげるため、クラウドファンディング「YUIMA(ゆいま https://yuima-okinawa.jp/)」では、沖縄県内でプレミアム試写会を開催するための支援を呼び掛けています。詳しくはこちらをご覧ください。

 

【尚玄(しょうげん) プロフィール】

 大学卒業後、バックパックで世界40ヵ国以上を旅しながら パリ・ミラン・ロンドンでモデルとして活動。2004年 25歳で帰国、俳優として活動を開始。

 2005年、戦後の沖縄を描いた映画『ハブと拳骨』でデビュー。
三線弾きの主役を演じ、第20回東京国際映画祭コンペティション部門にノミネートされる。その後も映画を中心に活動するが、2008年で出逢ったメソッド演劇に感銘を受け、本格的にNYで芝居を学ぶことを決意し、その年に渡米。Nicole KidmanのPrivate Coachである Susan Batsonや Roberta Wallchなどから演技を学ぶ。2010年 Cinema Clip 『七人侍 SEVENSAMURAI』 若頭役、JT『SVEN STARS』 広告が評価され米国CNNが選ぶ『The Tokyo Hot List : 20 People to watch 2010』に選出される。

 現在は日本とアメリカを行き来しながら、邦画だけではなく海外作品にも多数出演。沖縄県出身。