笑顔呼ぶ 重箱の定番 ふしかぶの煮物

  • 北部
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 正月、旧盆、清明祭と沖縄の行事に欠かせない重箱。岸本マリ子さん(82)=名護市=がつくる岸本家の重箱には、母・シズ子さんから味を受け継いだ「ふしかぶ(切り干し大根)の煮物」が入る。

 一晩たっぷり水に浸した後、30分ほど時間をかけて柔らかくなるまで煮込む。下処理だけでも手間暇かかる一品だ。かつおだしやみりん、しょうゆで味付けたふしかぶは、芯まで優しい味が染み込み、ほっこりとした気持ちになる。


母親から教わったふしかぶ(干し大根)の煮付けを作る岸本マリ子さん=名護市羽地

 中南部の親戚からは「那覇では食べたことがない」と喜ばれ、子どもの頃は食べなかった子どもたちも「こんなにおいしいものとは思わなかった」と懐かしがる。行事ごとで重箱を囲む面々は自然と頬を緩ませる。


 岸本さんは今帰仁村仲宗根で生まれ、戦後間もなく、母と羽釜一つを持って、父の古里の名護市羽地まで移動したという。

 当時、岸本さんは小学生。羽釜はリュックサックのように担ぎ、炊けるときにご飯をつくり保存食として釜に入れて、山を越えた。羽地で母は家の近くでマチャー小(商店)を営んだ。料理をして分からないことがあったら母の店に駆け込んで教えてもらった。

 岸本さんは3人の子に恵まれ、妊娠中は母が毎月鶏をつぶし、鶏汁や煮物をつくったりと、栄養管理を気にかけてくれた。料理を通して母との思い出を積み重ねてきた。


 母と担いだ羽釜は岸本家の台所に残っている。「母が残した大事なもの。使ったらすぐに洗っているから、何十年も持っているんだよ」と岸本さんが手に取った羽釜は、今も現役でピカピカだ。新米の季節には、おかゆを炊いている。おかゆは知り合いから頼まれることもあるほど人気があるという。

 「料理上手、食べさせ上手」と周囲に言われる岸本さん。名護市の食生活改善推進委員を長年務め、近くに住む独身の高齢者の家庭に料理を振る舞っている。「届けるのが大変だけど、1人分つくっても3人分つくっても一緒だよ」と笑みをこぼす。

 台所には昆布やシイタケ、カツオなどの乾物が入った入れ物が並び、冷蔵庫の中にもびっしりと食材が詰まる。


ふしかぶの煮物(手前左)とニガナの白あえ(同右)など

 子育てをしている時に子どもたちにお菓子代を渡したことはなく、岸本さんがつくった。いつでも料理が出せるよう、つくったら保存しておくことを心掛け、用意する。手際の良さは母親譲りだ。

 ふしかぶを煮込んでいる間にもう一品。岸本さんがつくり出したのは食卓によく並ぶ「ニガナの白あえ」だ。一般的に豆腐を生であえるが、岸本家では豆腐を炒めて食中毒予防としている。食生活改善推進委員として学んだことが日常の食事にも生かされている。

 岸本さんは「包丁でやらずに、手でつぶすんだよ。この方が味もしみるし、おいしいさ」と豆腐を手で崩し、鍋でサラダ油とツナ缶を入れて炒めた。冷ましたら、水にさらして苦味をとったニガナとあえる。

 塩だけのシンプルな味付けだが、ツナの味とニガナの苦味が豆腐に染み込み、箸が止まらなくなった。「今も子どもたちが手料理に慣れていて、親の料理を感じてくれることがうれしい」と語る岸本さんは今日も台所に立ち料理に愛情を込める。

文・池田哲平
写真・大城直也



鉄分、ビタミン 栄養価高い

 ふしかぶ(切り干し大根)は、乾物となっていることで、加工前の大根よりもカルシウムや鉄分、食物繊維、ビタミンB1などの栄養価が増す。

 岸本さんは縦に細長く切って干した「割り干し大根」を7~8センチに切って、一晩水に戻すことで、柔らかいながらもしっかりとした歯ごたえのある一品を作り出す。

 明治生まれの母は大根を干して作っていたが、今は市場で手に入るという。




(2017年5月23日 琉球新報掲載)



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