近所の食堂で昼食を、と思ったとき、身近なメニューといえばカレーライス。
普段は忘れていても急に食べたくなることもあれば、誰かが食べていると自分も注文してしまうことも。
不思議な魅力を持つ食堂のカレーを食べ歩いてみた。
昔ながらの黄色
那覇市若狭の高良食堂は沖縄が日本に復帰した1972年の創業。店主の高良正明さん(56)をはじめとする4~5人で平均150人の接客をこなす。メニューの数は70種類におよび、そのうちカレーのメニューは四つ。カレーライスは500円、一番人気のカツカレーは600円だ。
特徴は昔ながらのカレーパウダーを使用した黄色のルーにかつおだしベースのそばだしを入れていること。少しとろみがあるルーとごはんの相性はバツグンだ。懐かしいカレーの味を求め、足を運ぶお客さんも少なくないという。
ルーにはゴロッと大きく切られたニンジンと鶏肉が入っており、炒めて出たカレー粉の香りが食欲をそそる。具材は季節に応じて島ニンジンを使用するなど、違った味が楽しめる。高良さんは「野菜が欲しいというお客さんがいたら、そのときにあるオクラなどを入れる」と食堂ならではの柔軟な対応を語った。
大衆食堂の味継承
那覇市牧志の「金月そば国際通りむつみ食堂店」のカレーライス(600円、水曜日限定)は、小麦粉を使って炒め、カツオをベースにしたそばだしでといて作る昔ながらの黄色いカレー。同じ場所で60年近く親しまれた「大衆食堂むつみ」の味を引き継ぎ、今年3月から提供している人気メニューだ。
店長の金城太生郎さん(41)は県内に金月そば3店舗を展開する火乃鳥本舗の代表。「小麦粉からしっかり作った、そば屋ならではのカレー。もともと麺屋として麺を広く知ってほしい気持ちもあり、手作り感のある味を先代から引き継いだ」と語る。とろみの強いルーには野菜がふんだんに溶け込んでいて、味わい深い。小麦粉は県産にこだわり、お客さんに人気の煮卵などを載せている。
大衆食堂むつみの頃からの常連客も多く、店長の金城さんに「あんた、見ない顔だね」と声を掛けるお客さんもいるそうだ。カレーの人気について「お手頃だし、味に信頼感があるのだと思う。作る側としては決して裏切れないという思いもある」と話した。
観光客も、外国人も
カレーを含むさまざまなメニューを、お客さんと共に“育てて”きたのは沖縄市中央の大衆食堂ミッキー。チキンから揚げが乗ったカレーライス(650円)はスパイシーだ。ルーはジャガイモ、ニンジン、タマネギなどさまざまな野菜を練り込み、だし汁でとく。1970年の創業当時からの人気メニューだ。
「外国人のお客さんは、野菜がごろごろ乗っているとよけて食べる人が多い。だからミキサーにかけて、わからなくしたわけさ」と店主の嘉手納江利子さん(53)。野菜ごろごろのカレーを希望するお客さんがいれば、野菜を炒めてカレーに絡め、生卵を落として出す。「チキンじゃなくて『オムレツやビーフがいい』というお客さんがいたら変更する。トンカツだったら200円アップだけどね」と柔軟だ。
壁に張り出されたメニューはローマ字併記。コザ・ゲート通りから約15年前に移転したが、現在も多くの外国人や観光客、地元の常連客に親しまれる。「視点の違う外国人や人生経験豊富なお客さんから、いろんなことを教わった」と語る嘉手納さん。お客さんが考案したメニューもいくつか張り出されている。「これからもお客さんと一緒にやっていきたい」と語る。
長く愛される食堂のカレーには、たくさんのお客さんの要望や愛着、それに応えようとする店主たちの情熱が詰まっていた。
専門家に聞いてみた。
創意工夫、歴史の表れ 嘉手川学さん
食堂やそば屋のカレーはおいしさが際立っている。だしが命だから。沖縄そばがおいしい店はどんな料理もおいしい。だからカレーのルーにだしを使っているところはおいしい。ピーマンを入れる店もあって、カレー独特のもったりした感じにさわやかさを加えている。ミックスベジタブルを使うところも沖縄らしくていい。グリーンピースがだめという人もいるけどね。
カレーには店それぞれの創意工夫があり、歴史が表れる。昔はカレー粉はなく、小麦粉を油やマーガリンで炒めてルーを作った。小麦粉を炒める文化は沖縄になかったが、戦後に米軍基地で働いた料理人が学んだようだ。だから黄色いカレーの始まりはコザにあったニューヨークレストランなど、ステーキハウスの始まりと一緒ぐらいだろう。
インドカレーやタイカレーが家のカレーと違うように、黄色いカレーというジャンルがあってもいい。最初は食べられなかったけど、やみつきになったという人も多い。多様な食文化を認められるのは味覚が発達している表れだと思う。食堂のカレーには人を引きつける魅力がある。
(オキナワふうどライター)
(2017年7月23日 琉球新報掲載)