沖縄のお墓事情、調べてみた。 →祖先を敬い、家族を思った。 「てみた。」11


沖縄のお墓事情、調べてみた。 →祖先を敬い、家族を思った。 「てみた。」11
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 今年はお墓を新築したり仏壇を買い換えたりするのに良いとされる「ユンジチ(うるう月)」。旧暦で5月が2回あり、テレビやラジオCMでやたらと「ユンジチ」の言葉を耳にして気になっていた人も多いのでは?

 この機会に、古今の沖縄のお墓事情を調べてみた。

門中墓の掃除、密着してみた。

 8月20日午前6時20分。なかよし記者は、父がお盆に向けた墓掃除に行くと言うので付いていってみた。お墓は糸満市真栄平にある頭腹門中(かしらばるむんちゅう)墓。お墓に行くのは数年ぶりだ。集合時間は7時だが、既に草刈り機の音が聞こえる。エンジンを響かせているのは玉城善哲さん(64)。5時に起きて豊見城からやってきたという。「暑いから早く終わらせたい。墓掃除があるときは、前日も早めに寝て体力を蓄えている」と爽やかに汗を流す。

 そうこうしているうちに頭腹門中会長の大城清和さん(69)が姿を現すと、いきなりお祈りが始まった。線香に火を付け「今から墓を掃除します。けががないようにお願いします」と手を合わせる。

 お祈りを終えて墓の前を見ると、作業着姿で竹ぼうきや鎌を持った人たちが続々と集まっていた。この時、6時40分ごろ。「みんなせっかちだから」と沖縄では聞き慣れない冗談が飛び出した。ウチナータイムも墓掃除は例外なようだ。

掃除を始める前に線香を上げ手を合わせる
本墓前に積もった枯れ葉はほうきで払い落とす

 頭腹門中のお墓は、1階の仮墓と2階の本墓に分かれる。2階へ行くには仮墓横の階段を使うが、そこも一段一段ほうきで掃除する。お墓の前にある広場の草や、墓周辺の草も丁寧に刈り取り、7時20分ごろにはすっかりきれいになった。

 この日参加したのは20代~80代の計42人。「門中墓だから個人の墓のように頻繁には来られない。墓掃除は祖先に感謝を表す貴重な時間」と金城範子さん(69)はほほ笑む。祖先への思いを胸に、お墓を大切に守っている姿を見ることができた。

頭腹門中の墓掃除に参加した人々。一仕事終えてすっきりした表情=8月20日、糸満市真栄平

お墓のトレンド調べてみた。

永代供養墓のニーズ高まる

 県外同様、沖縄でも近年増加しているのが「墓じまい」と「改葬」の相談。墓の後継者がいないことや、管理や墓参りがしやすいように遠方にある墓を近くに移す人が増えているようだ。メモリアル整備協会の終活カウンセラー東恩納寛寿(ひろひさ)さんによると「(合祀(ごうし)墓での)永代供養や、規模の小さい期限付きの墓を希望する人が増えている」という。沖縄の供養や墓の変化について聞いた。

 東恩納さんによると、近年は県外で就職、結婚する人も多く、単身者や子どものいない家庭以外でも墓を継ぐことができないケースが増加しているという。

 ニーズが高まっているのが、永代供養墓と期限付きの小規模墓だ。県メモリアル整備協会は2009年、県内初の永代供養墓を建てた。17年7月末時点で、9406体が供養されている。期限付き墓も人気が高く、夫婦の納骨から一定の期限を迎えると、永代供養墓に移される流れだ。

 小規模化、簡素化の流れを見せる沖縄の墓について東恩納さんは「生活の変化に伴うもので、信仰心が喪失したわけではない」と強調する。ライフスタイルが変化した現代にあっても、先祖や家族を大切に供養しようとさまざまな方法が取られている。

個性派墓石

「故人らしく」あふれる愛情

 東恩納さんに中城メモリアルパーク内を案内してもらうと、墓石にメッセージや家族が描いたイラストなどが彫られている墓を見つけた。「思いを形に残してあげたい」(東恩納さん)。故人の人柄が伝わってくるような、個性あふれる墓が増えているようだ。

 文字を彫った墓が多い。「楽しい人生をありがとう」と、家族や友人らに感謝の気持ちを表した墓や、「絆」「愛」など漢字一文字を刻んだ墓石も多い。

 見たことのない紋を付けている墓があった。いかりと方位磁石をモチーフにしていて、納骨されている人は生前、船に関係する仕事をしていたそうだ。仕事への誇りが感じられる。

 おばあちゃんの顔のイラストが彫られた墓もあった。孫が描いた似顔絵を、そのまま彫刻したのだという。にっこり笑顔のイラストから、愛情が伝わってきた。

 個性豊かなデザインは他にもたくさんあった。聖書を開いた形の墓石や、ステンドグラスの墓石、花のカラー彫刻、魚拓をプリント彫刻しているものまであった。これらは墓の購入者が生前に希望したり、残された家族が故人を思って希望したりする。

 「墓」という言葉には大切な人の死を思い起こさせる悲しいイメージがあるが、個性豊かな墓を見ていると人柄が見えてくるようで、温かみを感じた。


専門家に聞いてみた。

  津波高志さん 津波高志さん

風葬のイメージ、今も残る

 沖縄の葬制は、さかのぼれば土葬をしていた所もあるが、琉球国時代からは風葬が主流だ。風葬は肉体を大気にさらして骨になるまで待ち、骨になったら洗い清めて(洗骨)葬り直す複葬制だ。沖縄のお墓は地域によって異なる。

 一般的に、門中墓の内部は洗骨まで遺体を安置する部分と、洗骨後の骨を納める部分に分かれる。両者を別々にして仮墓・本墓と称している例もある。その場合、仮墓に死体を入れた棺(ひつぎ)を置き、1~2年たったら骨を洗って本墓に葬る。仮墓には棺を置く「シルハラシ(シルヒラシ)」という台のようなものがある。死体から水分を取る「汁干らし」の意味がある。

 頭腹門中墓は本墓に骨だけ移すとのことだが、骨を骨壺に入れて本墓に移す所もある。場所や門中によってやり方に多少の違いがあるのも特徴の一つだ。

 葬制の違いはあの世の人に対する考え方の違いにつながる。仏教は遺体を忌み嫌うので土葬や火葬だ。風葬は死人を直ちに現世と切り離すのではなく、儀礼を通して徐々に死を確認しながら祖先に祭り上げる。

 沖縄の葬制が変わっても墓の在り方が劇的に変わらないのは風葬の伝統が継承されているからだ。共同墓地の永代供養の墓でも、本土の霊園では骨壺を地下に置くが、沖縄の霊園では地上に置いている。文化は変化するもの。今の時代に合うように、墓の在り方も変わってきている。

(琉球大名誉教授、文化人類学)
 

(2017年9月10日 琉球新報掲載)