ずっと介護してきたのに…と思ったら「寄与分」を調べよう 【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(7)


ずっと介護してきたのに…と思ったら「寄与分」を調べよう 【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(7)
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 “沖縄の相続問題”のエキスパート・尾辻克敏弁護士の事務所に、最近父親を亡くされたという赤嶺さんが、相談に訪れました。

 赤嶺さんは、父親の生前、献身的に父親の介護をしてきたのに、きょうだいから、父親の遺産をきょうだい3人で3等分しようと提案されて、納得できないようです。

 

遺産は必ず等分なの?

赤嶺さん

赤嶺さん

父は1500万円の財産を残して亡くなりました。母は父が亡くなる前に他界しています。

父の遺産について、兄の太郎と弟の次郎とのきょうだい3人で、3回も話し合いをしましたが、兄たちは、この1500万円を3人で3等分しようと提案しています。

でも私は、脳梗塞を患う父を献身的に介護してきました。私は自分の生活を犠牲にしながらも父の介護をしてきたので、父の面倒もみていない兄と等分というのは納得できません。

父の財産1500万円は3等分しないといけないのですか?

知っておきたい「寄与分」のこと

尾辻弁護士

尾辻弁護士

今回は、一部の相続人(赤嶺さん)が、被相続人(父親)の財産の維持または増加に貢献しているケースです。

このようなケースでは「寄与分」という問題が出てきます。「寄与分」とは、被相続人の財産を維持または増加することに特別に貢献した相続人が、本来の相続分にプラスして相続財産の中から相当額の財産をもらえる制度です。
 

赤嶺さん

赤嶺さん

どのような場合が「寄与分」にあたるのですか。
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

「寄与分」は特別に貢献した場合ですから、夫婦の扶養の範囲内の行為や通常の親孝行では特別とは言えず、「寄与分」の対象にはなりません。

「寄与分」の対象になるのは、被相続人の家業をほぼ無報酬で手伝って財産の形成に貢献した場合や、被相続人の介護施設の入所費用を支払ったなど経済的な援助をした場合、長期療養中の被相続人の介護をして、ヘルパーの費用などを支払わずに済んで財産の減少を防いだ場合などが該当します。
 

介護をしてきた場合は?

赤嶺さん

赤嶺さん

脳梗塞だった父の介護をしてきた私の場合、どうなりますか。
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

介護のケースで「寄与分」が認められるためには、被相続人に介護が必要な病気があり、親族の介護を必要としていたという前提が必要になります。

赤嶺さんの場合、父親の脳梗塞が重く、身体に不自由が多ければ介護が必要になります(なお、「寄与分」が認められる目安として、介護保険の「要介護度2」以上の状態にあることが目安となるといわれています)。

その場合、赤嶺さんがほぼ無償で、およそ1年以上継続的に父親の介護を行い、ヘルパーの費用など看護費用を支払わずに済んだのであれば、寄与分の対象となります。
 

赤嶺さん

赤嶺さん

「寄与分」がある場合、1500万円を3等分した500万円より多くもらえるのですか?
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

介護のケースでは、「寄与分」は介護保険の介護報酬基準額を用いて算定することになります。

仮に、赤嶺さんに150万円分の寄与分があるとすると、相続財産1500万円から150万円を引くと1350万円になります。この1350万円をきょうだい3人で3等分すると450万円。赤嶺さんは、この450万円に「寄与分」150万円を加えた600万円をもらうことができます。

赤嶺さんは、兄の太郎さんや弟の次郎さん(それぞれ450万円)より「寄与分」の150万円分を多くもらうことができます。

介護した相続人が、被相続人の家に、家賃を支払わずに住んでいた場合は「寄与分」から居住の利益が控除されることがあります。

農業など家業を手伝った場合は?

赤嶺さん

赤嶺さん

実は弟の次郎も、父のパイナップル農園を手伝ったのだから、多く分けてほしいと言っています。パイナップル農園を手伝った弟の場合、「寄与分」の対象となりますか。
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

次郎さんが父親から世間並みの給料をもらっている場合には、「寄与分」は認められません。しかし、世間並みの給料に比べて非常に低額の給料しかもらっていない場合や、全くもらっていない場合だと「寄与分」の対象となります。

ただ、概ね3~4年程度の一定期間手伝っていることや、片手間ではなく、かなりの負担を要する手伝いをしていたという事実が必要となります。
 

お嫁さんが介護をした場合、どうなるの?

赤嶺さん

赤嶺さん

仮に、私ではなく、弟のお嫁さんが父の介護をした場合、弟のお嫁さんに「寄与分」が認められますか。
 

尾辻弁護士

尾辻弁護士

まず「寄与分」は、相続人にしか認められません。そのため相続人ではない次郎さんの妻には、「寄与分」は認められません。

ただ、次郎さんに代わって、次郎さんの妻が脳梗塞の父親の介護をしていた場合、次郎さんの妻の貢献を次郎さんの貢献とみなして、次郎さんの寄与分として主張することができます。

― 執筆者プロフィール ―

弁護士 尾辻克敏(おつじ・かつとし)

中央大学法学部、中央大学大学院法務研究科卒業。司法試験合格後、県内にて1年間の司法修習を経て、弁護士業務を開始。常に相談者の話を丁寧にお聞きし、きめ細やかな法的サービスを的確かつ迅速に提供し、全ての案件に誠心誠意取り組んでいる。

相続問題・交通事故、企業法務等を中心に取り扱う。相続問題では、沖縄の風習や慣習、親族関係にも考慮した適切な解決を心がける。


~法律問題でお困りの際は、お一人で悩まず、私と共によりよい解決を目指しましょう!~

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(毎月第3水曜日掲載)