京都で見つけた沖縄の宝もの【沖縄たべものがたり】(vol.2)


京都で見つけた沖縄の宝もの【沖縄たべものがたり】(vol.2)
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沖縄と京都のステキなつながり

沖縄の地で生まれたオーガニックレストラン浮島ガーデン。

実は2016年、京都に2号店をオープンしたのをご存知ですか?
 

浮島ガーデン京都

京都へ行くようになって、まず目に飛び込んできたのが、着物姿の女性たちです。

夏の日、祇園祭や花火大会がなくても当たり前のように浴衣でお出かけしたり、茶道や華道を習っている人も多いようで、そんな方は着慣れた雰囲気でさっそうと歩かれていたり、時々、大正ロマンみたいな古着着物に靴といった自由な着こなしの若い人もいて、着物姿ってこんなにステキだったんだ~♡と、まさかの〝着物着たい衝動〟がわき起こってしまいました。

沖縄に戻ってみれば、那覇のお隣・南風原町に琉球絣の里があるではないですか。

さっそく南風原観光協会が定期的に行っている「かすりの道ツアー」に参加しました。

もともと南風原は織物の一大産地だったそうですが、戦争で焦土と化し、すべてを失ってしまいました。着るものがないため米軍のパラシュートの紐をほどいて糸を作り、織り始めたのが織物復興の始まりだったそう。
 

沖縄の織物は一級の文化

南風原かすりの里ツアー

そんな苦難の歴史を背景に持つ琉球絣。沖縄には他に、首里織、久米島紬、読谷山花織、知花花織、芭蕉布、宮古上布、八重山上布などなど様々な織物があります。

いまだに機械化せず、産地として手織りで反物を作っているのは、日本広しと言えど沖縄県だけだそうです。

すごいな、沖縄の織物は日本が世界に誇る一級の文化だったんだ!よそ者ながら誇りに感じました。

そして一番驚いたのは、琉球絣のほとんどすべてが京都へ嫁いでいるということでした。
 

南風原町で一番の若手織物師・丸正織物工房の大城幸司さん。
大城さんが奥様のために織った南風原花織のウェディングドレス

京都で「琉球の美しいもの展」

展示会の様子

こんなに美しいものが地元の人の目に触れることもなく、よその地域へ行ってしまうなんて、ずいぶんさみしい話だなと最初は哀しく思いました。

でもよく考えてみればその価値を認め、大事に身に着けてくれているのは京都の人。沖縄の織物の一番の理解者である京都の人と、織物を通じてもっと深く文化交流したい、そして逆輸入的に沖縄の人々が足元にある伝統美に気づき、もう一度、身に着けるようになったらいいな。

そんな想いから、京都店で「琉球の美しいもの展」を行うことにしました。

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果たして飲食店が行う反物や帯の展示会に人が来てくれるのか、後から考えれば場違いで無謀な企画でしたが、とにかく「想い」一発で後先考えずに開催してしまいました。でも開いてみれば驚きの人人人。

クバの魅力 京都で再確認

展示会の様子

京都のお友達、ご縁のある方々が展示会を知人に呼びかけ、シェアしてくださったおかけで、「沖縄好き」「織物好き」の方から、「草民具好き」「伝統工芸好き」「好きな作家さんの作品が来ている」「学校の教材にしたい」など、様々な理由で足を運んで下さいました。

そんな中で実に意外だったのはFacebookにアップした「クバ」の写真に響いて来て下さった方がたくさんいたことでした。

いろんな方に「これは何の葉っぱ?」と問われ、「これが欲しい」と、クバの葉っぱだけ持ち帰った方も。そして沖縄出身の方からはクバのいい香りがするね~と喜んでもらえたり。

クバの木は聖なる植物

クバで作った水汲み道具「ウブル」。

クバの木は「神の依り代」と言われ、御嶽に必ず生えている聖なる植物。浮島ガーデンならではの展示会場が作りたくて、与那国島の伝統民具作家・與那覇有羽(よなはゆうう)さんに「神アシャギが作れるくらいクバを送って」と、たくさんのクバを応援してもらいました。

京町家の店舗にクバを敷いたり天井からつるしたりして、沖縄の原始的野性味を盛り込んでみました。。

ちょっぴりトリップ感を味わってもらえたように思います。
 

お米や雑穀を干す際に使う「はざかけ棒」でクバ民具などを展示

久高島の〝五穀〟の一つだった

さて、そんなクバ、食べられるって知っていましたか?

クバは久高島の五穀発祥伝説で、ひょうたんの中に入っていた種のひとつなんです。

首里王府がまとめた『琉球国由来記』によれば、

「伊敷泊ニ…麦、粟、黍、偏豆之種子、且、コバ、アザカシキョノ種子アケル…」

と書かれています。ここにあるコバとはクバのことで、「蒔くと、食べものであることがわかった」と記されています。

 

以前、石垣島の守り神みたいなお方・石垣金星さんから「クバはジクが食べられる」と教えていただいたのですが、具体的にどの部分をどうやって食べるのかは知らなかったので、さっそくクバをたくさん送ってくれた有羽さんに聞いてみたところ、写真にある茶色い部分を切り倒して、「皮を取って、中の白い柔らかい部分を食べるよー」とのこと。

与那国では神様に捧げる料理

山猿みたいにスイスイと山に入っていろんなものをパパパッとマジックのように作ってしまう石垣金星さん
クバの木。一度切ってしまったらもう二度と葉っぱは生えてこないそう。

「聞き書 沖縄の食事」という本に料理が載っているというので見てみると、「くばの芯とぐんなの味噌あえ」というのがありました!

「すごく美味しいよー」と有羽さん。11月に行われる与那国最大の祭り、久部良祭りでかつては神様に捧げる料理として作られていましたが、今ではクバではなく、サクナが使われているそうです。

 

さて、クバは芯の部分だけでなく、秋になると実をつけ、その実も食べられるそうで、搾ると良質なオイルが採れるんだとか。

このオイルはもしかしたら薬効成分に優れたスーパーフードかもしれないと有羽さんは言っていました。私もそんな気がします。

與那覇有羽さん。与那国のことはもちろん、沖縄の伝統的な料理から民具、古謡、昔の言い伝えなど古き良き沖縄に精通する若者。

神様が最初に沖縄に与えた五穀種のひとつ、クバ。

人が飢えないように、困らないようにと、神様は一番最適な物種を与えてくれたのでしょう。

それを証拠にクバは大きな台風でも倒れることなく、その葉は青々としたままで、生活に必要な道具にもなれば、食べられもする、実にありがたい木。

でもクバを料理するのはとても時間がかかって大変だと有羽さんは言います。どんなに大変でも彼なら神様が与えた与那国の伝統料理を未来の人へも継承していってくれるはず。伝統食を失うことは、魂を失うことにつながると知っているから。

そして最後に「クバぬファぬユー」(クバの葉の世)と言う言葉があるんだよと教えてくれました。「クバの葉の世」とは人が神の御霊と共にあった原始沖縄のことを指すそうです。

そんなクバの葉が霊力を発揮して人を呼んでくれたのかもしれない「琉球の美しいもの展」

足を運んでくれた方々は単に「美しいもの」に逢いたくて来たのではなく、工芸品の中に宿る「沖縄」に触れたいという想いで来て下さったのではないかと感じました。

というのも会場には沖縄熱とでも表現したらいいのか、不思議な熱気がありました。

見知らぬ者同士が自然に会話しはじめ、笑顔になって、気の合う人が一緒にお茶しはじめたりと、沖縄をめぐるとても良い交流が生まれていました。
 

作家さんと来場者さんがゆんたくお茶タイム

今回の展示会を通して、あらためてわかったこと。それはジャンルは違えど、食も工芸品も根っこ、根源的なものに通じていることがとても大事なんだということ。。

そしていつか古人が言う「クバの葉の世」を再び現代に出現させたい。そのために沖縄の根っこ、大元へとたどり着きたい。今、その旅の途中です。

 

(次回は11月7日に公開予定。第1、3火曜日に公開します)

中曽根直子(なかそねなおこ) 穀菜食研究家/沖縄雑穀生産者組合 組合長

那覇に「浮島ガーデン」、2016年、京都に「浮島ガーデン京都」をオープン。沖縄の在来雑穀の復活と種の保存、生産拡大のため沖縄雑穀生産者組合を立ち上げる。農業イベントや料理教室、食の映画祭や加工食品のプロデュースなど様々な活動を通して、沖縄の長寿復活に全力投球中。