「ほら、世界はスマホでつながっているよ」 UBERドライバーが伝えたいこと ◇アメリカから見た! 沖縄ZAHAHAレポート(4)


「ほら、世界はスマホでつながっているよ」 UBERドライバーが伝えたいこと  ◇アメリカから見た! 沖縄ZAHAHAレポート(4)
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ワシントンD.C.での取材や移動、情報収集にスマホのアプリをいろいろ活用しています。移動で欠かせないのが、配車アプリのUBER。こちらではタクシーをしのぐ移動手段として、広く活用されています。

 スマホにアプリをインストールし、名前やクレジットカード情報などを登録しておけば、どこにいてもGPSを使って迎えに来てくれて、目的の場所まで連れて行ってくれるサービス。

 ワシントンD.C.ではもちろん、アメリカ国内の出張先でも使えるため、初めての街でも安心して移動できるので重宝しています。同様のサービスを提供するlyftも最近使い始めました。

UBERのホームページ
街角で見掛けるlyftの広告
手前の黒い車。この「UBER」マークのステッカーを貼っているのが目印です

 UBERやlyftのドライバーは、いろんな国の出身の人や、ダブルワーク、トリプルワークをしている人が多く、車内での彼ら彼女らとの会話が楽しみの一つです。車内の会話で、世界とアメリカの今を垣間見ることができます。そんな中、仕事帰りに乗ったUBERで、印象的な出会いがありました。
 

高学歴の男性がドライバーをしている理由

 その日は、ちょっと精神的にぐったりした1日でした。安全保障関係のシンポジウムなどに行き、米軍はシリアやアフガニスタンやイラクやソマリアなど、いろんな国々で「テロとの戦い」として軍事介入(彼らの言葉では同盟国支援や民主化みたいな言葉だったと思いますが)していることや、「軍を強くするための国防予算が足りない」という話ばかりを聞いた1日。世界一の軍事費を使ってもまだ「お金が足りない」と言い、アメリカ国内の教育や福祉への予算は削られていく現状。そして、空爆や戦闘が繰り返される国々や地域の一般の人々が、どんな生活を強いられているのだろうと、どんより考えながらの帰り道でした。
 

 その日のUBERのドライバーは、イラン出身の男性でした。 「どこから来たの?」と尋ねられ、「日本、沖縄だよ」と答えると、「私の大学時代の親友は日本出身の子だったよ」と会話が始まりました。D.C.の名門、ジョージワシントン大で国際政治を学んでいる時、日本出身の親友と日韓サッカーW杯の話などで盛り上がった昔話をしながら、何気にお互いの仕事の話に。私が新聞記者で、沖縄のこと、米軍基地のことなどを取材しにD.C.にいること。でもこの国では、なかなか沖縄のような小さな島の人々の声は届きにくいということ、米国・軍中心主義の考え方の人が多く、議論がかみ合わないこと、そしてトランプ政権のニュースにぐったりする毎日だと話すと、彼は自分のことをいろいろ話してくれました。

 彼の名前はベサッドさん。アメリカで大学、大学院卒業後、政府関係の国際協力の仕事に就き、アフガニスタンやガーナ、ブルキナファソなど各国の人道支援に走り回ったそうです。

 「トランプ大統領は中東歴訪の際、各国で自分の自慢話ばかりしていたようだけど、本当に必要なのは、みんなで同じテーブルに座って、お互いを知り、話すことなんだよ」と話してくれました。自分はアフガンに3年間行った時、それを心掛けた。そのうちアフガンの人もアメリカを敵対視しなくなったのに、と。

 現地で犠牲になっているのは、女性や子どもたち。テロ集団が女性をレイプして、妊娠してしまい、その子どもがまた地域の大人によって殺されてしまう現状など、「こんなことが現実に起こっている」といろいろ話してくれました。苦しく、胸が詰まりました。

 ワシントンD.C.は政治の中心地だけど、ここがアメリカの全てではない。だけど、D.C.にいると、メディアはホワイトハウスの人間関係やトランプ大統領のTwitterばかり報じて、世界で本当に何が起こっているか、ちゃんと報じていない。そんなベサッドさんの言葉に、私も同じように感じる毎日だったので、すごく共感しました。そして、一つの価値観を押し付けるのでなく、お互いを認め合える「多様性」が大事だよね。と。

 ベサッドさんは今も国際協力、人道支援の仕事をしているのだけど、仕事だけでは中東地域など各国の現状をきちんと伝えられないから、今年の5月から、仕事の合間のパートタイムにUBERのドライバーをして、こうやって乗ってくれる人と直接話をしている、とのこと。ただただ、感動しました。 

 小雨が降る夜道、20分ほどの車内の会話で、心が温かくなり、涙が出そうになり、そして勇気をもらいました。多分D.C.に来て初めて、生身の会話をした気がしました。日々、つたない英語で取材をしながら、暮らしながら、政治の中心地で感じていた「違和感」を、同じように感じている人がいる。そして、自分自身が見てきた現実を「生の言葉」で伝えていくことの大事さを、こつこつと実践している人がいる。世界は、人々はちゃんとつながっていると実感でき、「私も頑張ろう」と思える濃密なひととき、UBERを通した「偶然の出会い」に感謝する夜でした。

不寛容な世の中で私たちができること

近所のコーヒー屋さんで、ベサッドさんと再会!

 実は、偶然は他にもあり、ベサッドさんの職場が私の仕事場とご近所だったことが分かり、数カ月後、あらためてコーヒーを飲みながら会うことになりました。ベサッドさんのことを記事に書かせてほしいというお願いを兼ねて。

 私はてっきり彼が留学を機にアメリカに来たのだと思っていましたが、彼は16歳の時に、難民としてイランからアメリカに渡ったそうです。「自分自身の経験が今の仕事につながっている。移民や難民を規制したり、排除しようとしたりする動きの今、この時代だからこそ、話さなければならないと思っている。偏見や思い込みではなく、大事なのは人々の経験だと思っているから」と語るベサッドさん。

 先日、彼のUBERに乗った、ホテル勤務のイギリス出身の男性は、最近、アメリカ人に「なぜアメリカで働いているんだ。アメリカ人の仕事を取るな。国に帰れ」と言われたそうです。あまりにショッキングな言葉を受け、その男性はここで家を買い、家族と共に約10年間暮らしてきたのだけど、イギリスに帰ることを検討しているとのこと。アメリカの分断や排他的な動きがここまで進んでいるのかと考えさせられました。

 トランプ大統領は就任以来、イスラム地域からの入国禁止措置(Travel Ban)や、子どもの時に親に連れられて米国で不法移民となり、そのまま米国で暮らす若者をただちに強制退去させないオバマ前米政権による救済制度(DACA)の撤廃など、強硬な移民政策に走っています。

大事なのは「Acceptance(受け入れること)」そして「Don’t-make-assumptions(思い込みをしないこと)」、と教えてくれたベサッドさん。

 「社会の寛容性がすごく低くなっている気がする」と尋ねると、ベサッドさんも懸念を持っていると答え、「アフガニスタンや中東と言うだけで、危険、怖い、テロリストというイメージを持つ人もいる。でも、ほら、みんなが持っているスマホ一つ使えば、世界中とつながることができる。ネットショッピングで世界の国々の商品を手に入れるだけでなく、まず、あなたの隣にいる人と話をしてみて、と友人たちに伝えているよ」と語りました。

 「また会おうね」。青空の下、ベサッドさんと握手して別れました。ベサッドさんと話していた1ブロック先では、イスラム圏出身者に対する入国禁止令に抗議するデモが行われていたようで、私たちと入れ違いにプラカードを持った人々がコーヒー屋さんに入っていきました。

 世の中の分断ばかりに目が行き、ニュースを見て悲観的になるより、自分ができることからまず始めて、つながっていけばいい。テレビやソーシャルメディアの情報に振り回されるより、まずは人と会って話すこと。人との対話が力になる。空を見上げながら考えた帰り道でした。
 

「Muslim Ban」に反対するデモが行われたペンシルバニア・アベニュー。通り右手にあるTrump International Hotelに向かって行進したそうです。通りの向こうに国会議事堂が見えます
デモで使われたであろうプラカード

 座波幸代(ざは・ゆきよ)  政経部経済担当、社会部、教育に新聞を活用するNIE推進室、琉球新報Style編集部をへて、2017年4月からワシントン特派員。女性の視点から見る社会やダイバーシティーに興味があります。